「英語学習のやる気は伝染する?」廣森教授インタビュー記事公開

「先生一人で頑張る授業」から「生徒同士が高め合う授業」へ

「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(※以下、IBS)ではグローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信しています。今回は、英語学習の動機づけの研究をされている明治大学の廣森友人教授に、「やる気が英語学習にどのように影響するか?」「日本の環境でやる気を高めたり維持したりするためには、どのような学習方法や授業が効果的か?」についてお話を伺いました。

インタビューサマリー

1、やる気は、英語学習の成果に大きな影響を与える要因の一つ。「やる気がどれくらいあるか」(強さ)、「やる気がどこを向いているか」(方向性)は、学習の認知プロセスや学習の継続、学習方法等に影響する。    
2、「英語を学びたい」(内発的動機づけ)を育てるためには、「自律性」、「有能感」、「関係性」という三つの心理的欲求をバランス良く満たすことが大切。
3、 ペアワークやグループワークには、「やる気の伝染」という効果が期待できる。

3つの心理的欲求

やる気と学習方略、学習スタイルは密接に絡む

いろいろな個人差が「学習成果」の散らばりをどのくらい説明できるか(説明率)などを調べた先行研究によると、「言語適性」(言語を習得するために重要な認知的能力)は24%(Li, 2016)、「動機づけ」は14%(Masgoret & Gardner, 2003)。つまり、言語適性に次いで動機づけが学習成果に強く影響する個人差要因であることがわかっています。廣森教授は、変化する可能性がより高い学習動機や学習方略などの要因に注目して研究を始めたとのこと。
廣森教授によると、学習は、特定の情報への「気づき」→「理解」→「内在化」→「統合」というプロセスで進み、情報が長期記憶として蓄えられることでいつでも使える知識となります(廣森, 2015)。この「気づき」のプロセスにモチベーションが関係することが明らかになっています(Schmidt,  2012)。
さらに、日本で英語を学ぶ場合、英語を話せなくても生活できる環境にあるため、英語圏で学ぶ場合よりもモチベーションの重要度が高いことを指摘。実際に、モチベーションを低下させる要因(demotivation)を調べる研究において、日本は世界のトップを走っているとのことです。
また、モチベーションの違いによって学習方法や学習スタイルが変化することもあれば、逆に、特定の学習方略を使うことで勉強がうまくいった成功体験がその後のモチベーションに影響を与える、と話す廣森教授。どのような動機づけが効果的な学習方法につながるか、という疑問については、「教科だけではなく、コミュニケーションの道具として使うという動機を持てると、アウトプットにも目が行き、インプットとアウトプットのバランスが取れた効果的な学習方法につながるのではないか」という見解をいただきました。

「やる気の伝染」というペア/グループワークの可能性

やる気は伝染する!?

廣森教授がいま関心を持って取り組んでいるのが「英語学習における『やる気の伝染』メカニズムの解明」という研究です。周りの人の行動を観察しながら、自分の価値観を内在化する「代理学習」は、英語学習でも起こるのではないかという発想がヒントになっています。「日本は、良くも悪くも同調圧力が強い社会なので、ほかの文化圏と比べて周りの影響を受けやすいのではないかと思います。この社会的・文化的な特徴をうまく使って、例えば、周りに良い影響を与えられる学習者をクラスやグループの中に意図的に配置することで、グループ・ワークを活性化することができるか、ということを調べています。」(廣森教授)
英語の授業中にグループワークをする際、リーダー役の存在によって取り組みやパフォーマンスがどう変わるかを調べる実験を実施。結果、グループダイナミクス(集団力学)やグループのパフォーマンスに、ある程度の効果がある可能性が示されました(Hiromori et al., 2021)。「従来は、いかに一人の先生が30〜40人の生徒のモチベーションを高めるかということを考えてきましたが、もし、学生同士がお互いにモチベーションを高め合える方法がわかってくれば、『やる気が高まる教室』が実現するのではないかと考えています。」(廣森教授)。
しかし、リーダー役にその役割を実際に果たしてもらうにはどうすればよいか、学習者のモチベーションや英語力をどのように組み合わせてグループ分けをするかなど、実験をデザインするうえで多くの課題が残っています。このようなグループワークの研究は、変数が増えて複雑になるため、世界的に見ても研究数は多くありません。「おそらく、親御さんにしても先生にしても、同じような感じで同じように教えているけれど、出てくる成果はまったく違う、ということはありますよね。私も、同じ学年で同じような英語力の学生に同じ授業を教えていても、『がんばろう』という雰囲気がクラスによって違うので、とてもおもしろい研究テーマだと思っています。」(廣森教授)。
■おわりに:日本の教育現場に寄り添う「やる気の伝染」の研究
日本では、2025年までに小学校の学級規模の標準を従来の40人から35人に引き下げることが決まりました。少人数学級とICT活用の両輪で「個別最適な学びと協働的な学び」を実現しようとする計画です(文部科学省, 2022)。一人の教師が大人数の生徒を相手に一斉授業を行う教育から、一人ひとりの個人差に合わせた学習、生徒同士が学び合う学習を重視する教育が強く求められるようになったことが伺えます。
 「やる気が出ない」「やる気が低い」といった課題は、これまで本人の学習方法や教師の指導方法を変えることで解決しようとする考え方が主流でした。しかし、「やる気の伝染」の仕組みが明らかになれば、生徒たちの個人差をポジティブに捉えてうまく活用し、あらゆる教師があらゆる教室でやる気が高まる授業を実現することができるのではないでしょうか。廣森教授が取り組む「やる気の伝染」に関する研究は、英語教育に限らず、教師にとって現実的な解決策を提案してくれる可能性を秘め、今後ますます注目が高まることが考えられます。(取材:IBS研究員 佐藤 有里)

【Profile】廣森  友人 教授(明治大学 国際日本学部・国際日本学研究科)
専門は、応用言語学、心理言語学、第二言語習得研究。言語習得に影響を与える学習者要因(学習動機、学習方略、学習スタイルなど)について調査・分析し、より効果的な第二言語(外国語)学習のあり方について具体的な示唆を得ることを目標として研究を行う。 https://hiromori-lab.com

明治大学 廣森友人教授

※詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記の記事をご覧ください。
前編 https://bilingualscience.com/english/2022120201/
後編 https://bilingualscience.com/english/2022120601/ 

**************************************  ■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
       HP(https://bilingualscience.com/) 
     Twitter(https://twitter.com/WF_IBS)
所   長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 
     パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設   立::2016年10 月

明治大学 廣森友人教授 インタビューカット
エンゲージメントの3側面
学習の認知プロセス
学習成果に影響を与える個人差要因
ニュースのシェア:
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
6qcd81aUyS
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
会社の詳しい情報を見る
NC動画生成サービス
Copyright 2006- SOCIALWIRE CO.,LTD. All rights reserved.