ETIC.調査レポート「社会的企業の実態調査2017」 NPO法人や団体 6割が「人材不足」を組織の課題と認識
「Social Entrepreneur Gathering Collective Action for the Next 100 years」 ─100名の社会起業家が集い、次の100年に向けたアクションを考える─
NPO法人ETIC.(東京都渋谷区)は、アメリカン・エキスプレス財団(本部:ニューヨーク)の協力のもと、社会的課題の解決と企業利益の両立を目指す「CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)」を実現する効果的な手法として成果をあげ、世界で注目される「Collective Impact(コレクティブ・インパクト)」について、米国からゲストを迎え解説する、日本で初めての特別セミナーを、2017年10月20日(金)に六本木で行われる「Social Entrepreneur Gathering Collective Action for the Next 100 years」内で開催します。開催にあわせてETIC.では、2017年10月、国内外で社会的課題の解決を目指し活動するNPO法人や団体(以下、社会的企業)を対象に、「社会的企業が抱える組織の課題」に関するアンケート調査を実施しました。その結果を発表いたします。なお、結果については、起業家リーダーの発掘・育成に努めNPOなど社会的企業の活動に詳しいETIC.による考察をつけております。
●人材不足のみと回答21%。課題は複合的
社会的企業では、約6割が人材不足、約5割が資金不足を組織の課題と認識していました。その他の意見としては「適正な行政連携ができていない」「マーケティング」「新規事業をつくりだせていない」などがありました。人材不足のみを課題とするのは、全体の20.7%。ほかは資金不足などとあわせて複合的な課題だと回答しています。人材不足を課題とする社会的企業の多くは小規模で、「地方での人材獲得に困難を感じる」という声もあり、都市と地方での人材確保に違いも見られました。
ETIC.の考察
資金の不足よりも、人材の不足を優先的な課題と考える団体がやや多くなりました。実際に、優秀な人材を採用できれば、更なる資金調達も可能になると考える経営者が多いからだと思われます。東日本大震災後の復興の現場でも、行政予算や民間からの寄付は比較的潤沢にあったのに対し、その受け皿となるNPOや社会的企業における人材不足が課題となりました。当時、ETIC.では右腕派遣プログラムとして、都市部の能力ある社会人を被災地に半年~1年間派遣しました。現在は、働き方改革や副業の解禁で、NPOでの活動に取り組む社会人の事例も増えてきた中、さらなる人材の流動化施策がインパクトの拡大に有効ではないかと考えられます。
●「適切な評価指標」を求める声も3割
『課題解決に取り組む担い手が生み出す「社会的価値」を「可視化」し、これを「検証」し、資源の提供者への説明責任(アカウンタビリティ)や組織の運営力強化につなげていく仕組み、すなわち社会的インパクト評価が定着することが不可欠です。しかし、我が国では、そのような社会的インパクト評価の普及は進んでいない』(内閣府 社会的インパクト評価の普及促進に係る調査報告書/2017年3月)と、内閣府が指摘する通り、担い手である社会的企業においても、社会的課題の多様化・複雑化が進む中で、適切な評価指標を求めるニーズは高まりつつあります。
ETIC.の考察
社会的インパクト評価の重要性への理解は進んでいます。一方で、普及はまだ進んでいません。前項とも関連しますが、日々の業務が忙しい中、評価の企画・実施に割り当てる経営資源(資金・人材)が不足していることも大きなハードルとなっています。
欧米では、行政や財団など資金提供者側が評価を必須のものとし、そのために予算の一部を使用することを認めているケースが大半です。結果を出せば、関係性は継続するし、逆も然りです。こうした良い緊張関係が日本でも積み重なっていくことが、社会的なノウハウの蓄積につながっていくと思われます。
●人材不足を解決するキーポイントは「連携」「仕組みづくり」
「課題はどういった理由で生まれていると考えるか」という問いに「企業との連携が十分にできていない」(教育)や、広報不足により活動の認知が進まず、魅力が伝えられないという回答がありました。「事業へのニーズが膨らんでいるのに自走できるモデルを確立できていない」(教育)、「組織規模に対して業務量過多。給与面により即戦力となる人材獲得が難しく、内部で育成する余裕もない」(人権)など、社会的企業に対する期待は膨らんでいるが、支える経済的・人的基盤が弱い状況が伺える結果となりました。
ETIC.の考察
不足しているとはいえ、社会的企業に対する人材や資金の流入は徐々に進みつつあります。一方で、少子高齢化や財政の問題、そして民間企業においても人材が不足している状況を考えると、限られた経営資源でも効果的・効率的にインパクトを出していくための工夫は欠かせません。特に、同じ課題に取り組むプレイヤー同士が、横の連携を進めていくことは今後重要になります。そうした問題意識に対応し、米国で生まれた概念が「コレクティブ・インパクト」である。社会的企業、行政、民間企業、大学などの様々なプレイヤーが、バラバラに活動するのではなく、共通のゴールに向かって適切な連携・役割分担を進めていくことが今後は不可欠です。
●衆議院選挙2017の後の政権へ期待する声は51%
2017年10月22日に行われる衆議院選挙について「選挙後の政権に期待しますか」と聞いたところ、約51%が「はい」との答えでした。「はい」の理由として、「政治の力や法律をかえていくことで解決に近づく社会問題もある」(教育)、「日本の生産性向上のための働き方改革の本質的課題をとらえ、早期解決にむけた国家レベルでの判断が必要」(経済活動の活性化)など。「いいえ」は「先の政権交代時に従来のNPO活動について理解がなかった」(地域安全)「政治に期待するより、民間が動いたほうが課題解決するのに早いから」(農山漁村または中山間地域の振興)などの自由回答を得ました。
※コメントのあと( )内は事業分野
【社会的企業の実態調査2017】調査概要
調査期間:2017年10月
調査方法:ETIC.登録団体へアンケートフォームへの回答をメールで依頼
回答数 :106団体
回答者 :各団体の代表者もしくは経営メンバー
回答団体:【従業員数 ※事業・活動に従事している有給職員数(パートタイム含む)】
1~3名-29.2%
4~10名-33%
11~30名-29.2%
31~100名-4.7%
100名以上-3.8%
【予算規模】1,000万円未満-40.6%
1,000万円以上~3,000万円未満-18.9%
3,000万円以上~1億円未満-28.3%
1億円以上~3億円未満-8.5%
3億円以上-3.8%
※調査結果の割合は、すべて小数点第2位を四捨五入。そのため合計が100%にならない場合があります。
補足情報
認証NPO 51,723件(2017年8月31日現在)
所轄庁認定・特例認定NPO法人 1,038件(2017年10月13日現在)
参考・引用
内閣府・NPOホームページ
https://www.npo-homepage.go.jp/
SIMI 社会的インパクト評価イニシアチブ
http://www.impactmeasurement.jp/
内閣府 社会的インパクト評価の普及促進に係る調査報告書/2017年3月
https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/h28-social-impact-sokushin-chousa-01.pdf
●「Social Entrepreneur Gathering Collective Action for the Next 100 years」について
アメリカン・エキスプレス日本100周年を記念して開催される「Social Entrepreneur Gathering Collective Action for the Next 100 years─100名の社会起業家が集い、次の100年に向けたアクションを考える」は、社会起業家が自分たちの活動を見直し、新しいアクションや協働を生み出す機会になるよう開催されるものです。当日は社会課題の解決に取り組む起業家やNPO法人のリーダー100名を無料で招待しています。
●コレクティブ・インパクトについて
複雑化するさまざまな社会課題の解決に求められる、多様なセクター(行政、企業、NPO、教育機関など)の協働を効果的に進める手法として注目を集める「コレクティブ・インパクト」は、ハーバード大学教授の経営学者マイケル・ポーター氏が設立した米国のコンサルティングファームFSG社が2011年に提唱した概念です。同社が推進する、企業の競争戦略のひとつであるCSVを実現するためにも必要と考えられており、海外では企業の成長やイノベーションを求めるビジネスの現場で欠かせない知識となっています。10月20日(金)に開かれるセミナーでは、FSG社よりフィリップ・サイオン氏を招き、その概念を解説するとともに、国内外の事例の共有、ディスカッションを行います。
●スピーカープロフィール
FSG社 マネージング・ディレクター
フィリップ・サイオン氏
長年フォーチュン500企業へのフィランソロピー、CSR、CSVの取り組みに対するアドバイザリーに従事。現在は中東、南米やアジアなどの地域におけるコレクティブ・インパクトを推進し、セクターを越えた協働をリードしている。
●実施概要「Social Entrepreneur Gathering Collective Action for the Next 100 years」
■日時: 2017年10月20日(金)10:00~20:30
■会場: ベルサール六本木コンファレンスセンター
(〒106-0032 東京都港区六本木3-2-1
住友不動産六本木グランドタワー9階)
■主催: NPO法人ETIC.
■協賛: アメリカン・エキスプレス財団
■URL : http://www.etic.or.jp/socialentrepreneurgathering/
●おもな当日のスケジュール
■10:00~10:30 オープニングセッション
オープニングスピーチ:清原 正治(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル社長)/宮城 治男(NPO法人ETIC.代表理事)、参加者自己紹介など
■10:30~12:30 セッション1「コレクティブ・インパクトによる社会変革の可能性」
フィリップ・サイオン(米国FSG社 マネージング・ディレクター)/高 亜希(一般社団法人Collective for Children 共同代表/認定NPO法人ノーベル 代表理事)/本木 恵介(認定NPO法人かものはしプロジェクト 共同代表)/矢田 明子(Community Nurse Company株式会社 代表取締役/NPO法人おっちラボ 代表理事)/須藤 靖洋(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. 法人事業部門 ジェネラル・マネージャー副社長)
詳細スケジュール
10:00 オープニングセッション
10:30 セッション1
12:30 ネットワーキング・ランチ
14:00 セッション2
15:50 テーマ別ラウンドテーブル
17:10 クロージングセッション
18:30 レセプション(-20:30終了)
●NPO法人ETIC.について
1993年より若い世代が自ら社会に働きかけ、仕事を生み出していく起業家型リーダーの育成に取り組み、800名以上の起業家を支援。97年より長期実践型インターンシッププログラムを事業化。2001年にはETIC.ソーシャルベンチャーセンターを設立、社会起業家育成のための支援を開始し、社会起業塾イニシアティブやアメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミーなどを手がける。04年からは地域における人材育成支援のチャレンジ・コミュニティ・プロジェクトを開始。11年から震災復興支援にも注力。