美容外科医師がお勧めしないヒアルロン酸注入

2021-04-19 17:00

数ある豊胸術のなかでも、もっとも手軽にチャレンジできるのがヒアルロン酸の注入でしょう。大きく切開する必要はなく、施術前に自身の血液や脂肪を採取する必要もありません。ただ注入するだけ。それなら……と施術を決意する人が多く、現在、豊胸術を受ける人の半数がヒアルロン酸注入術というデータもあるほどです。

しかし、心ある美容外科医であれば、豊胸術にヒアルロン酸注入を強く勧めないはずです。その理由を解説していきましょう。

ヒアルロン酸注入による豊胸術とは

ヒアルロン酸は、もともと体内にもある成分

ヒアルロン酸は、グルコサミンとグルクロン酸という2種類の糖がペアになってできた成分で、もともと私たちの体の中にも存在するものです。水分を豊富に保持する力と、ねっとりした性質が特徴で、細胞と細胞をつなぎ合わせたり、衝撃から細胞を守ったりする役割をしています。

人の体の中では、皮膚や軟骨、眼球の硝子体などに多く見られますが、加齢とともに減少していくことがわかっています。そのため、エイジングケアや、関節の痛み改善のために、ヒアルロン酸を使用している商品や治療法がたくさんあります。

美容整形の世界でも、エイジングケアを中心にヒアルロン酸による施術は人気です。注射するだけでその部分がふっくらして、小さなシワやたるみを目立たなくしてくれるので「プチ整形」と呼ばれることもあります。ただ、残念なことにヒアルロン酸の効果は長続きしません。時間とともに体内に吸収されて、なくなってしまうのです。ですから、顔にヒアルロン酸を注入するエイジングケアでは、定期的な再注入が必要になります。

ヒアルロン酸注入による豊胸術の手順

そうした特性を持つヒアルロン酸を豊胸術に利用するのが「ヒアルロン酸注入豊胸術」です。手順はとてもシンプル。

どのようにヒアルロン酸を注入するか、バストデザインを確認します
局所麻酔または眠くなる麻酔をかけます
わきの下の目立たない部分や、アンダーバストにカニューレ(注入用の管)を挿入してヒアルロン酸を注入します
麻酔がきれたら終了
クリニックによっては術後、数日から数週間で状態をチェックするために来院してもらうところもありますが、基本的に術後の特別なケアは不要です。

注入するだけなので、施術時間は15~30分程度。希望のサイズのバストを手に入れて、すぐに帰宅することができ、翌日からはほぼ支障なく日常生活を送れるのも、この施術のメリットです。

希望のバストの形に近づくが、あくまでも一時的

どの部分にヒアルロン酸を注入するかによって、術後のバストの形を変化させることができます。バストの上部にふくらみを持たせたい、谷間をつくりたい、形を整えたいといった、バストのデザイン的な要望にも比較的強い豊胸術です。

ただし、プチ整形と同様、バストに入れたヒアルロン酸も永久ではありません。使用するヒアルロン酸の種類や、注入する量にもよりますが、半年〜2年で注入したものは体の中に吸収され失われてしまいます。

また注入したヒアルロン酸がほとんど失われてしまったときに、大きな問題が発生します。バストの皮膚が伸びてしまっているために、バストが小さくなるだけでなく、しぼんだように皮膚にシワが出てしまうケースがあるのです。ヒアルロン酸を大量に入れた人ほど、悲惨な結果になる可能性が高くなります。

「見るも無残な状態になってしまって……」と来院されたある患者さんは、他院でヒアルロン酸を入れて、AカップをCカップにまで大きくしたとおっしゃっていました。しかし1年未満でヒアルロン酸は失われ、言葉は悪いですが高齢者の方のようなバストになっていました。

ヒアルロン酸注入による豊胸術を選択する場合には、定期的な注入を行わなければ、そうした事態に陥る可能性があることは承知しておく必要があるでしょう。

ヒアルロン酸にも種類がある

ヒアルロン酸は施術する部位や、期待する効果によって、異なる種類のものを使用します。顔のシワを埋める際にもヒアルロン酸が使用されますが、浅いシワと深いシワでは、ヒアルロン酸の硬さや粒の大きさを変えて、効果が適切に表れるように工夫しています。

豊胸術で使用する場合、できるだけ体内に吸収されにくくするために、大きな形状のヒアルロン酸が使われますが、粒が大きければ触った時の感触のなめらかさが損なわれます。そこで、関節痛の痛みになどに使われるゲル状のヒアルロン酸を採択しているクリニックもあります。しかし、ゲル化したものは、体内に吸収されるスピードが早く、長持ちしないというデメリットがあります。

ヒアルロン酸の特徴を考慮し、大きな粒と小さな粒を混ぜたものもありますが、結局、小さな粒から吸収されていき、時間がたつと硬い感触のバストになってしまうというリスクがあります。

海外のメーカーがそれぞれ特徴を持ったヒアルロン酸を発売しており、クリニックによって選択しているものが異なります。どのような特徴のヒアルロン酸を使用するのか、必ずクリニックに確認するようにしたいものです。

注入したヒアルロン酸を人体が異物と認識してしまうこともある

ヒアルロン酸が起こすアレルギー反応とは

ヒアルロン酸は体の中にある物質と説明しましたが、外から注入したものに関しては、「異物」と体が認識してアレルギー反応を起こすことがあります。軽い反応としては、注射をした部位が赤く腫れる、紫色の斑点が表出するといった例があります。これらは数週間で改善が見込めるので大きな問題にはなりません。

問題となるのは、異物として認識されたヒアルロン酸を排除しようと、その周囲で炎症が起こることです。そうなると、ヒアルロン酸の周囲に硬い膜がつくられ、しこりを形成します。しこりになってしまうと体内に吸収されることはありませんから、永遠にバストの中にかたまりが残ってしまうことになります。

特に、ヒアルロン酸を繰り返し注入すると、しこりができる確率が上がると言われています。できるだけ長い期間、大きなバストでいたいと願うなら、ヒアルロン酸注入による豊胸術は避けたほうが良いと言えるでしょう。

「長持ち」「永久」の言葉に騙されないで!

このところ、美容クリニックのホームページなどを見ていると「長持ちする」や「永久に効果が続く」など、最新の注入による豊胸術をうたっているところがあります。本来、ヒアルロン酸は体に吸収されるもののはずなのに、なぜ、「長持ち」や「永久」といった言葉を使っているのでしょうか。

実は、それらに使われているのは「非吸収性充填剤」です。特に「アクアフィリング」と呼ばれる充填剤は多くの合併症が報告されています。「成分の98%が水分。だから安全」とクリニック側からは説明があるかもしれませんが、残りの2%の成分が、慢性的な炎症や皮膚の潰瘍を引き起こしたり、大きなコブを作ったりする可能性があるのです。

2019年4月に日本美容外科学会は、非吸収性充填剤を使用した豊胸術について「安全性が証明されるまで実施するべきではない」という趣旨の声明を発表しました。さらに、多くの合併症が施術後5年以上経過してから発症していることを受け、「必ず定期的に施術したクリニックで診察を受け、おかしいと思った時にはすぐ治療を受けてほしい」とも言っています。

非吸収性充填剤は除去できるのか?

大きなコブや皮膚潰瘍を起こすなど、被害が後を絶たない非吸収性充填剤。すでに施術を受けた患者さんが、危険性を知って充填剤の除去を他院に依頼するケースも増えてきています。

バストの中で充填剤がジェル状を保っていれば、除去剤を使うことで取り除くことは可能です。しかし、大きなコブのように固まってしまった場合は、メスを入れる手術が必要になるケースも少なくありません。手術は嫌だからとそのままにしていたら、出産後に授乳に支障をきたしたという例もあります。

非吸収性充填剤を過去に使用した経験のある人は、信頼できるドクターに一度診察してもらうことをおすすめします。

ヒアルロン酸による豊胸術の海外と日本の異なる見方

ヒアルロン酸注入による豊胸術は、豊胸初心者の人や、結婚式などのライフイベントに合わせてバストを大きくしたいといった人を中心に大変人気があります。日本美容外科学会の調査によれば、2017年に日本で行われた豊胸術のうち、半数近くがヒアルロン酸をはじめとするジェル素材を注入する施術であったそうです。以下は自身の脂肪を移植する脂肪注入法が約3割、シリコンバッグを埋め込むタイプの施術が約2割でした。

しかし、海外に目を向けてみるとデータは一変します。欧米諸国ではシリコーバッグを埋め込む施術と脂肪注入法が標準的な豊胸術となっており、ヒアルロン酸などの充填剤を使用する施術例は非常に少なくなります。

アメリカの食品医薬品局(FDA)はバストにヒアルロン酸をはじめとする充填剤を注入することを認めていません。またEUでは、既に4~5年前から、バストへのヒアルロン酸注入は禁止です。しかし、日本では自由診療の範囲であれば、厚生労働省が承認していない充填剤でも、医師が個人輸入すれば使うことができます。そのために、ヨーロッパなどを中心に開発された新商品が、次々に日本へ流入しているのです。

美容クリニックが「今までにない」「最新」と宣伝するヒアルロン酸をはじめとする充填剤が、安全かどうかは明確ではない可能性があることを、患者さんには知っておくべきです。

ヒアルロン酸注入による豊胸術は「痛くない」は嘘

バストの中の組織を壊すカニューレ

最後に、医師として正確な情報をお伝えしておきたい点があります。それは施術の「痛み」についてです。ヒアルロン酸を注入するだけだから「チックっとした痛みだけ」と説明するクリニックもあると思います。しかしそれは、麻酔のための静脈注射の痛みのこと。術後の痛みについての説明ではありません。

ヒアルロン酸がバストの形をメイキングできる施術と言われるのは、ボリュームをプラスしたい場所、張りを持たせたい場所にヒアルロン酸を注入できるからです。

カニューレを注入するのはわきの下や、アンダーバストのしわの所ですが、そこからバスト内部にカニューレを挿入し、ヒアルロン酸を置きたい場所まで、カニューレの先を四方八方へと移動させなければなりません。バストはそのほとんどが脂肪でできていますが、細い血管や神経も当然ながらあります。カニューレを通していく過程で、それらの組織を壊したり、傷つけたりすることになります。

術後の痛みは鎮痛剤だけでは抑えられない!?

施術中は麻酔の効果で痛みを感じないかもしれませんが、当然、術後はバスト内部の傷が癒えるまで痛みが続きます。確かに、大きくメスを入れる施術に比べれば痛みは軽いかもしれませんが、翌日から平然としていられるかと聞かれたら「YES」とは断言できません。

もちろん鎮痛剤は処方されますし、痛みの感じ方は人それぞれ個人差があります。「我慢できる程度」と感想を述べた患者さんの声があれば、医師やカウンセラーは相談に来た患者さんにその感想を伝えるでしょう。しかし「激痛で苦しんだ」という患者さんの声は封印するかもしれません。

カニューレの挿入口は決して小さくない

また、カニューレを挿入する傷口も、決して小さいものではありません。ヒアルロン酸を注入するためのカニューレは、注射針のように細いわけではありません。バストに注入するヒアルロン酸は、体への吸収速度を緩和するために、粒の大きいものが選択されます。

ストローを思い浮かべていただくとわかりやすいのですが、水分だけを吸うなら細いストローで十分ですが、タピオカを吸うのにはかなり太い形状でなければなりません。豊胸に使用するカニューレも同様で、太いタイプである必要があるのです。ですから、挿入口も針穴のように小さなものではなく、メスで皮膚を切開し、ある程度大きさの入り口を作る必要があります。

傷口が治るまでにも時間がかかります。ヒアルロン酸注入直後に脇を見られてしまえば、豊胸したことがバレてしまう可能性も十分にあります。そのあたりもしっかり頭に入れて、施術を選択するようにして欲しいと思います。

ちょっとだけバストを膨らませてみたい。豊胸を試してみたい。そんな人にとって、ヒアルロン酸注入豊胸術はありがたい存在です。しかし、デメリットがあることも十分理解しする必要があります。そして、できれば、人工物を注入せずに、自分のバストを育てる豊胸術を選択することをおすすめします。

南クリニック院長:南晴洋

南クリニック院長:南晴洋

京都第二赤十字病院形成外科勤務、大手美容外科院長を経て1997年 南クリニック開業。創業以来、豊胸に力を入れている。注射で豊胸を行う「成長再生豊胸」を海外の学会でも発表。

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