実験用水槽内に海洋の気流と波を再現するための方法を開発 台風の発達予測など気候予測の精度向上に期待

今回の実験で用いた風波水槽
今回の実験で用いた風波水槽

近畿大学大学院総合理工学研究科(大阪府東大阪市)博士前期課程2年の上村 友祐(指導教授:鈴木 直弥 <環境流体工学・海洋物理学>)らの研究グループは、気候変動・変化の基本的な要素の一つである、大気と海洋の関わり合いのメカニズムを解明するため、実験用の風波水槽内で海洋と同じ気流と波を再現するための「気流・波ハイブリッドループ法」を構築しました。これまでの方法では、風波水槽のサイズによって作り出せる波の大きさに限界がありましたが、「気流・波ハイブリッドループ法」によって水槽のサイズにとらわれず波を発達させることに成功しました。将来的には、風波水槽内で海洋に近い気流と波を再現し、台風の発達予測など気候予測の精度向上に寄与することが期待されます。
本研究成果は、令和2年(2020年)11月13日(金)にオンラインで開催される土木学会海岸工学委員会の「第67回海岸工学講演会」で発表し、土木学会が発行する「土木学会論文集B2(海岸工学)」に掲載されました。

【本件のポイント】
●実験用水槽内に海洋と同じ気流と波を再現するための「気流・波ハイブリッドループ法」を構築
●風波水槽に気流の速度を調整できる可動翼を設置し、通常得られる以上の大きさの波を生成
●今後、台風の発達予測など気候予測の精度向上に寄与することが期待される

【研究の背景】
気候変動などについて研究を行う場合、大気と海洋の関わり合いを調べるため、実際に海洋で観測を行う必要がありますが、海洋ではさまざまな現象が重なり合い海面の状態が大変複雑になるため、個々の現象を抽出して検証することは困難です。そこで、実験用風波水槽内に台風発生時などの気流や波の状態を再現して実験を行います。しかし、実際の海洋のように広い海域で発達した風波、特に台風やハリケーンなどの強風域と、長さ数メートルの実験用の風波水槽で発生させた波風にどの程度相似性があるのかというのが常に問題となってきました。
風波水槽では出口に近い方が大きな波が生成されます。そこで、入り口部分に出口と同じ大きさの波を作りだせる装置を設置すれば、出口ではさらに大きな波が生成されます。これを繰り返す(ループする)ことで、水槽の大きさとは関係なく大きな波を生成する「波ループ法」が2017年に考案されました(兵庫県立大学などの研究グループによってアメリカ気象学会のJournal of Atmospheric and Oceanic Technologyに掲載)。しかし、広い海域で起こるような波の大きさに達するには、さらに水槽出口部の気流の流れを水槽入口部で再現する方法が必要とされていました。

【研究の内容】
近畿大学大学院総合理工学研究科の研究グループは、「波ループ法」の考案者である兵庫県立大学大学院工学研究科の高垣 直尚助教との共同研究によって、水槽出口部の気流を水槽入口部で再現する「気流ループ法」を構築しました。風波水槽に可動翼を設置し、気流部を部分的に塞ぐことができるようにすることで、気流の速度を調整できる仕組みになっています。これによって、水槽出口部の気流を入口部で再現することが可能になりました。
さらに、既往研究で考案された、水槽入口で波を生成する「波ループ法」と「気流ループ法」を結合させることによって、「気流・波ハイブリッドループ法」を構築し、実験用風波水槽の中で気流と波をループさせることによって、通常その水槽の大きさで得られる以上の大きさの波を生成することに成功しました。また、「気流・波ハイブリッドループ法」の検証によって、さらに長い距離の発達した波を生成できる可能性が示唆されています。なお、本研究は、JSPS科学研究費補助金 基盤研究(B)No.JP18H01284の助成を受けたものです。

気流・波ハイブリッドループ法の概略図  (上段)ファンで風を送り風波を発達、(下段)造波装置と可動翼で風波と気流を生成
気流・波ハイブリッドループ法の概略図  (上段)ファンで風を送り風波を発達、(下段)造波装置と可動翼で風波と気流を生成

【論文掲載】
雑誌名:「土木学会論文集B2(海岸工学)Vol.76, No.2」
論文名:風波水槽での吹走距離延長のためのループ法の開発
    ー気流・波ハイブリッドループ法の構築ー
著 者:上村 友祐(近畿大学)
    高垣 直尚(兵庫県立大学)
    鈴木 直弥(近畿大学)

【今後の展望】
今後、大型の風波水槽を使用することでさらに発達した気流と波を生成し、大気と海洋の関わり合いのメカニズム(大気・海洋間乱流輸送)を解明する実験を行う予定です。大気・海洋間乱流輸送が解明されれば、台風やハリケーンの発達などの気候予測や波浪予報、人工衛星観測における海上風速観測などの精度向上につながると期待されます。

【関連研究】
「気側自由乱流下における風波の発達機構を発見」
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/news/research/2020/05/029119.html
「低風速から強風域まで表層の流れが風波に影響することが判明」
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/news/research/2020/09/030130.html

【関連リンク】
理工学部 機械工学科 教授 鈴木 直弥(スズキ ナオヤ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/940-suzuki-naoya.html

総合理工学研究科
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/


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