弘前大学・京都大学との共同研究で健康ビックデータから『女性のメンタル不調』に『鉄分不足』が関係していることを確認
大正製薬株式会社[本社:東京都豊島区 社長:上原 茂](以下、当社)は、国立大学法人弘前大学(以下、弘前大学)、国立大学法人京都大学(以下、京都大学)との共同研究により、大規模健康ビックデータから、日本人の「女性のメンタル不調」と「血中の鉄関連成分」に関係があることを確認しました。
<背景>
鉄分は私たちの体内に存在する栄養素であり、酸素の運搬を始めとした多岐にわたる重要な生物学的役割を果たしていることが知られています。
しかしながら、特に月経のある女性においては、定期的に経血と共に鉄分が体外に排出されるため、鉄分不足になりやすく、進行すると鉄欠乏性貧血へとつながります。貧血と診断されない場合でも、体内の貯蔵鉄(フェリチン)の減少による潜在的な鉄分の欠乏、すなわち“隠れ貧血”が問題とされており、20~40代の女性においては65%以上が貧血もしくは隠れ貧血と言われています※1)。欧米諸国と比較しても日本人女性の貧血の割合は高く※2)、女性にとって重要な健康課題の一つと言えます。
体内の鉄分が不足すると、疲れやすい、めまいがする、頭痛がする、などの貧血の諸症状が現れるとされ、日常生活におけるQOLや働く女性の生産性に影響を及ぼすと考えられます。そのため「フェムケア」「フェムテック」を通じた女性の健康課題の解決が期待されています。
こうした背景から、当社は、鉄分が女性の健康にとって重要な働きを持つ成分と位置づけ、鉄分の機能に関する様々な研究を長年進めてまいりました。
今回、弘前大学・京都大学との共同研究により、「岩木健康増進プロジェクト※3」で得られた健康ビッグデータを活用し『女性のメンタル不調』と『血中の鉄関連成分』の関係性について検討いたしました。
<研究成果>
メンタル不調と鉄分不足について、海外では関係性を示唆する報告が複数あります。一方、国内においては、小規模の報告があるものの、大規模な疫学研究報告はされておらず、明確な関係性は見出されていない状況でした。
そこで当社は、岩木健康増進プロジェクトの大規模な健康ビックデータを活用し、日本人女性におけるメンタル不調と鉄分不足の関係性を検証することにいたしました。
【使用データ】
2017~2019年度健診データ(50歳未満女性 361名)
【アンケート項目】
- 物事に集中できない 2. ゆううつだ 3. 何をするのも面倒だ 4. 仕事が手につかない
【回答の選択肢およびグループ分け】 - ほとんどなかった 1. 少しはあった 2. 時々あった 3. たいていそうだった
0または1と回答した人: 症状無グループ
2または3と回答した人: 症状有グループ
【解析方法】
メンタル不調の症状の有無別に血中の鉄関連成分との群間比較(t検定)を実施
➀メンタル不調と赤血球数
赤血球を構成するヘモグロビンの合成には鉄分が必要であることが知られています。
解析により、「ゆううつだ」「仕事が手につかない」といったメンタル不調が表れているグループの方が赤血球数の平均値が有意に低値であり、鉄分不足とメンタル不調の関係性が示唆されました。(図2)
②メンタル不調と血清フェリチン
「物事に集中できない」、「仕事が手につかない」といったメンタル不調が表れているグループでは、血清フェリチンが有意に低値でした。さらに、血清フェリチンが25 ng/mL未満は貯蔵鉄が減少している「鉄分不足」とされていますが、メンタル不調が表れているグループでは平均値が25 ng/mL未満であり、「鉄分不足」が認められました。(図3)
③CES-D値と血中鉄関連成分
CES-Dは抑うつ傾向の程度判別に用いられる調査票で、うつ病の1次スクリーニングに使われます。CES-Dの26点以上を抑うつ傾向グループとした場合、抑うつ傾向グループの方が血清フェリチン、ヘモグロビンが共に有意に低値であり、抑うつ傾向グループの血清フェリチンは鉄分不足の水準以下(25 ng/mL未満)、ヘモグロビンは貧血の水準以下(12 g/dL未満)にあることが分かりました。(図4)
<研究成果のまとめ>
今回の健康ビッグデータの解析により、国内の50歳未満の女性のメンタル不調と、血中鉄関連成分との関係が明らかになり、鉄分不足がメンタル不調の要因の一つである可能性が示唆されました。気分がゆううつ、なんだか集中できない…といった心のもやもやを感じる方は、鉄分を補給することで、メンタル不調のサポートになると期待されます。
なお、本成果は日本農芸化学会2023年度大会(3/14~3/17、オンライン)にて発表予定です。
当社では、今後も継続して鉄分と女性の様々な健康課題の関連性について研究するとともに、研究成果を活用した、生活者の方々の美と健康に貢献するより良い製品開発を進めてまいります。
※1 平成21年 国民健康・栄養調査
※2 鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂[第3版]
※3 弘前大学・弘前市・青森県総合健診センターが主催し、弘前市岩木地区において2005年より実施している、同地区住民を対象とした大規模住民合同健診・健康指導などの住民の健康増進活動