文化によって不幸に対する考え方が違うのか、日米で比較検証 日本人は「日頃の行い」の結果、不幸に見舞われると考えやすい
近畿大学国際学部(大阪府東大阪市)国際学科グローバル専攻准教授 村山 綾は、大阪大学大学院(大阪府吹田市)人間科学研究科教授 三浦 麻子、北海学園大学(北海道札幌市)経営学部准教授 古谷 嘉一郎との共同研究で、「不幸に見舞われることへの考え方」について、日本人とアメリカ人に文化的な差があるかを検証する実験を行いました。その結果、日本人はアメリカ人よりも「不幸に見舞われたのは、日頃の行いが悪いからだ」と考えやすく、アメリカ人は「不幸もいつか人生の糧になる」と考えやすいことが示されました。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)10月6日(水)に、Wiley社が発行する社会心理学の学術雑誌"Asian Journal of Social Psychology"に掲載されました。
【本件のポイント】
●日本人は他人が不幸に見舞われた時に「日頃の行いが悪いからだ」と考える傾向にある
●日本人の「他人の不幸を自業自得と捉える考え方」は偏見を助長するため注意が必要
●本検証を通して近年社会心理学が直面するWEIRD問題※ や再現性問題の理解に貢献
※ WEIRD問題:研究参加者のほとんどが、西洋の(western)教育を受けた(educated)、工業化され(industrialized)、豊かで(rich)、民主的な(democratic)人たちで構成されているにもかかわらず、得られた結果を人間一般に見られる傾向と捉え議論すること。
【本件の内容】
人は他人が不幸に見舞われた際に、「日頃の行いが悪かったからだ」とその人自身に理由を求める傾向(内在的公正推論)があります。一方、「今はつらくとも、いつの日か必ず良いことがある」と、現在の不幸が将来の充実した人生によって埋め合わされると期待することで自らの不安を抑えようとする傾向(究極的公正推論)もあります。
この考え方の違いについて、これまで様々な研究知見が積み重ねられてきましたが、ほとんどが欧米中心のデータのみで議論され、近年社会心理学が直面しているWEIRD問題や再現性問題があると指摘されていました。そこで今回、内在的公正推論と究極的公正推論には文化による差があると想定し、日米でデータを収集し、検討しました。
その結果、日本人はアメリカ人よりも「不幸に見舞われたのは、日頃の行いが悪いからだ」と考えやすく、アメリカ人は「不幸もいつか人生の糧になる」と考えやすいことが示されました。
【論文掲載】
掲載誌:
Asian Journal of Social Psychology(インパクトファクター:1.424)
論文名:
Cross-cultural comparison of engagement in ultimate and immanent justice reasoning.
(究極的・内在的公正推論への関与の文化間比較)
著 者:村山 綾1、三浦 麻子2、古谷 嘉一郎3(筆頭著者:村山 綾)
所 属:1 近畿大学国際学部国際学科グローバル専攻、
2 大阪大学大学院人間科学研究科、
3 北海学園大学経営学部経営情報学科
【研究詳細】
調査会社(株式会社マクロミル)に依頼し、アメリカ人81名(男性42名、女性39名)、日本人88名(男性44名、女性44名)を対象に検証しました。参加者には、街路樹が突然根こそぎ倒れ、運転手の男性が下敷きになり重症を負ったという架空の記事を提示し、続けてその男性が(1)窃盗の罪で在宅起訴中の高校教師、(2)周囲からの人望が厚い高校教師、といういずれかの情報を与えました。その後、男性に起こったことについてどのように考えたかを(1)内在的公正推論と(2)究極的公正推論などの側面からたずねました。
回答結果を分析したところ、過去に窃盗を犯した(道徳的価値が低い)人には内在的公正推論が行われやすく、周囲から尊敬される(道徳的価値が高い)人には究極的公正推論が行われやすいという傾向が、日米共に普遍的に見られました(図1、2参照)。
その中でも特に日本人には、道徳的価値が低い人に対して、本来全くの偶然で発生した事故にもかかわらず「日頃の行いが悪いから」と推論しやすい、という文化特殊性があることがわかりました(図1参照)。こうした推論は、道徳的価値が低い他人の不幸を「仕方がない」や「報いを受けている」と捉える可能性があり、注意が必要です。例えば、新型コロナウイルス感染症への罹患について、無関係な第三者が「自業自得」と考えるような不合理な推論がこれにあたります。
また、不幸な目にあった人の道徳的価値に関係なく、日本人はアメリカ人よりも「不幸は将来的に人生の糧になる」と考えにくいという文化差も見られました(図2参照)。この背景には、日本人の多くが特定の信仰を持たないゆえに、遠い未来の出来事を想像して今の不安を解消するという方法に馴染みがないことが考えられます。つまり、このような不安の程度をコントロールする手段をもっていないことが、日本人に内在的公正推論をより強く行わせている可能性があることがわかりました。
本検証で得られた知見は、公正推論研究を拡張するとともに、WEIRD問題や、現在社会心理学界で大きな話題となっている研究結果の再現性問題において、とても重要な意味を持つと考えられます。
【研究支援】
本研究は、JSPS科研費16K17300(未来に抱く時間の拡がりと公正推論:代表 村山 綾)の助成を受けたものです。
【関連リンク】
国際学部 国際学科(グローバル専攻) 准教授 村山 綾(ムラヤマ アヤ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1459-murayama-aya.html