小さな液晶滴が微細電極周囲の電場を可視化!~設計時のリアルタイム電気特性評価とフィードバックにより、身の回りにあふれるマイクロマシンのコスト削減・寿命延長に期待~

2023-03-22 15:00

 立命館大学理工学部の小西聡教授、坊野慎治講師らの研究チームは、微細な電極構造上に分散させた小さな液晶滴※1の回転および輸送挙動※2を観察し、微細電極内に発生する電場や静電エネルギー分布を可視化することに成功しました。本研究成果は、2023 年3 月16 日(日本時間)に、米科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

本件のポイント

■マイクロマシンのモデルシステムである微細加工電極上に分散させた小さな液晶滴の回転運動や輸送挙動から、デバイス内の電場や静電エネルギー分布を可視化することに成功
■液晶滴を分散させたマイクロデバイス内の静電エネルギーを周期的に変調すると、液晶滴が周期的なアレイ状※3に配置。電気特性をリアルタイムに可視化できることを示した
■設計時のリアルタイムの電気特性評価とフィードバックにより、欠陥や劣化を防ぎ、マイクロマシンのコスト削減や寿命延長などさらなる性能向上に期待

<研究成果の概要>

 微細な電極構造上に分散させた小さな液晶滴の回転および輸送挙動を「高い空間分解能※4を有するセンサ」として利用することで、マイクロデバイス内部の電気特性を可視化することに成功しました。デバイスを駆動させながら、内部の電場分布や静電エネルギー分布などの電気特性をリアルタイムで可視化できることを示しました。

<研究の背景>

 PCやスマートフォン、自転車など、日常で身近に溢れている電子デバイスは、Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)技術を利用して、マイクロメートルスケールの複雑な電場分布を制御しています。これらは外界の情報を検出するためのセンサ(加速度センサや温度センサ等)や、動作を起こすためのアクチュエータ(光のシャッターや流体ノズルヘッド等)が集積されています。近年、デバイスの小型化による内部への電極、センサやアクチュエータの集積化が加速し、電場分布はより複雑化しています。
 これまでマイクロマシンのような微細な構造物内部において、電気特性の分布を実測できなかったことから、デバイスの設計時、実際のデバイス構造が設計内容と一致しているという仮定のもとシミュレーションを行い、その結果から設計指針を立て、作製していました。しかし、作製プロセス時に発生する欠陥や使用に伴う劣化等は、シミュレーション条件には含まれていません。実際のデバイスの性能が設計値とは異なっていることが課題でした。

<研究の内容>

 マイクロマシンのモデルシステムである微細加工電極を検出対象として、電極直上に大きさ数10 μm程度の液晶滴を分散させました。通常、電極から発生する電気特性を光学的に観察することはできません。
 本研究は、液晶滴が電場や静電エネルギーに応答し回転・輸送される性質を可視化原理として利用しました。液晶滴の回転挙動は、デバイス内の液晶滴が分散する電場に対応しており、液晶滴の回転挙動を画像解析すると、電場分布を可視化できることが分かりました。また、液晶滴の電場分布検出精度を調べたところ、液滴サイズと同じくらいの高い空間分解能(~10μm)を保ったまま、数μV/μmの微弱な電場を検出できることが分かりました。さらに、静電エネルギーを周期的に変調したマイクロデバイス内に液晶滴を導入すると、液晶滴は周期的にアレイ状に配置することが分かりました。つまりアレイ状に配置した液晶滴を利用して、電気特性をリアルタイムで2次元的に可視化できることを示しました。

図1 液晶滴を利用したマイクロマシン内の電場分布可視化原理のコンセプト。(a) デバイスから発生した不均一な電気特性を液晶滴の回転・輸送挙動として可視化しています。(b) 液晶滴の回転挙動から電場分布を可視化できます。(c) 液晶滴の輸送挙動から静電エネルギー分布を可視化できます。
図2 アレイ状に配置した液晶滴。明るい領域が液晶滴を、暗い領域が液体相をそれぞれ示しています。デバイス内の静電エネルギー分布を周期的(~40μm)に変調しました。

<社会的な意義>

 本研究は、実際のデバイス特性を考慮した設計指針を提示しており、近年小型化・複雑化が進むMEMS分野に貢献します。現状、マイクロマシンは作製後に動作確認を行い、一定の基準を超えたものだけが市場に流通、基準を下回ったものは廃棄されます。また、出回ったマイクロマシンには、メーカーの保証期間が設定され、この期間を超えて使用すると劣化・故障が発生する可能性が高くなります。
 今回提案する液晶滴を利用したマイクロマシン内の電場分布可視化原理を、新しく設計するデバイスに適用すると、駆動時における電気特性分布が、高い空間分解能と検出精度で両立してセンシングできます。この知見を従来の数値計算による設計にフィードバックして再度製作を繰り返すと、これまで考慮することが難しかった、作製プロセス時に発生する欠陥や使用に伴う劣化等の情報も含めたデバイスの電子特性が分かることにつながり、さらなるマイクロマシンの性能向上が期待されます。
 例えば、どの部分に欠陥や劣化が発生しやすいか、またそれらがデバイスのパフォーマンスにどのような影響を与えるか等、実際のデバイスに特有の課題点の解明につながると期待されます。デバイスの作製プロセス中の欠陥の発生頻度を低減し、資源の節約や価格を下げることにつながり、また高い作製基準を設けることができます。また、劣化しやすい構造や作製プロセスを事前に特定し、より安定性の高いものに置き換え、持続的な使用につながることが期待されます。

<論文情報>

論文名  : Rotation and transportation of liquid crystal droplets for visualizing electric properties of microstructured electrodes
著 者 : Shinji Bono, and Satoshi Konishi
発表雑誌 : Scientific Reports
掲載日 : 2023年3月16日(日本時間)
D O I : 10.1038/s41598-023-31026-8
U R L : https://www.nature.com/articles/s41598-023-31026-8

<用語説明>

※1 液晶滴:液晶とは低温の結晶相と高温の液体相の間に発現する中間相です。この液晶相を示す化合物の温度を液晶相と液体相が共存する温度に保つと、球状の液晶相領域が液体相中に自発的に発現します。この球状の液晶相領域のことを液晶滴と呼びます。

※2 輸送挙動:システム内において温度や電圧等の分布が不均一な場合、熱や電荷等が輸送されます。このように、物量分布の勾配に沿った熱流や電流等の振る舞いのことを輸送挙動といいます。

※3 アレイ状:アレイ(array)とは規則的な配列のことです。センサ等の構成要素(本研究の場合液晶滴)をアレイ状に配置すると、二次元的に対象を検出することができます。

※4 空間分解能:空間的に不均一な物理量を検出する際に、それらの違いを区別できる最小の距離を空間分解能といいます。空間分解能が高い検出原理ほど、より細かく物理量の分布を可視化することができます。

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