民主主義の精神に反する、一番の愚行とは? ~「選挙」を考える『日本国民のための 【明解】 政治学入門/髙橋洋一 著』より紹介

 第49回衆議院選挙が10月19日公示されました。そして10月31日に投票が行われます。そもそも〈政治〉とは何なのか。〈政治〉を知る必要はどうしてあるのか。それによってなにがわかってくるのか。なぜ知るべきなのか――『日本国民のための 【明解】 政治学入門/髙橋洋一 著』より抜粋しご紹介いたします。

国会議員は「人気商売」

 私は仕事柄、国会議員と接する機会も多い。
 単純に言って、みな「感じのいい人」だ。
 愛想がよく、話題が豊富で、機知に富んだジョークを飛ばしつつ、その場にいる人たちが不快にならないように気を配る。義理人情にも厚い。
 それもそのはずだ。国会議員は「人気商売」だからである。
 秋葉原発祥のアイドルグループが、ファンの人気投票数を競うというイベントを行なっているが、それを「総選挙」と銘打ったのは実に言い得て妙である。
 国会議員を選ぶ選挙も、まさしく人気投票と言っていい。
 当選したいのなら、できるだけ多くの人に好かれなくてはいけない。そして多くの人に好かれるには、感じよくしなくてはいけない。
 もちろん腹の底で何を考えているかはわからないが、国会議員に「感じの悪い人」がいないのは当然というわけだ。

「感じがいいだけで国会議員が務まるか」
「大事なのは信念であり、議員になって何を成し遂げようとしているかが問われるべきだろう」

と思ったかもしれない。
 もちろん正論だが、こうした意見は、自分自身へのブーメランになりうるから注意したほうがいい。
 というのも、国会議員を選んでいるのは、ほかならぬ自分たち国民だからだ。
仮に、単なる「感じがいいだけの人」「信念も何もないように見える人」が国会議員を務めているとしたら、それは選んだ人たちの眼力が弱かったということだ。
いってしまえば、権限を付託される人を「選んだ側」に落ち度がある。それだけのことだ。

 個人レベルで見れば、自分の選んだ人が落選し、自分から見ると不適合な人が当選してしまったのなら、一応は批判する権利があるといってもいいだろう。
 しかし、マスで考えれば、今の政治は国民の選択を反映している。
 いわゆる「民度」の現れなのだ。

「あの人はイメージ戦略がうまいだけで、中身は空っぽだ」と批判するのは、「イメージ戦略がうまいだけで、中身は空っぽな人を当選させたのは選挙民たちです」と認めるのとイコールである。
何をとっても日本の政治に不満たらたらの人は、その点をよくよく自覚したほうがいい。
つまるところ、「あなたは国会議員に何を求めるのか」が問われているのだ。

 単に「感じがいいだけの人」ではなく、たとえば「自分と同じ問題意識を持っている人」「公平な人」「実行力がある人」に権限を付託したいのなら、選挙のときに候補者をよく吟味して、そう見える人を選べばいいだろう。
 アイドルグループの総選挙で上位になる人には、何かしら「選ばれる理由」があるのだろう。詳しくは知らないが、「容姿がいいから」「努力家だから」「歌やダンスがうまいから」などなど、その理由を決めるのはファンたちだ。
では、同じく人気商売である国会議員の「選ばれる理由」は何なのか。あたりまえだが、それを決めるのは有権者、一人ひとりの国民なのである。


結局は「すべては選挙民が選んだ結果」、それでしかない

 選挙は結局、数の論理である。
 今の政治家にいくら不満があろうと、その人は、天から押し付けられた為政者などではなく、民衆によって選ばれた為政者なのだ。
 選挙で勝つために、各候補者も各政党も、「数」で他を圧倒できるように苦心する。しっかりと公約を打ち出すのはもちろんだが、それだけでは不十分だ。いいイメージを振りまき、自分たちに有利な世論形成を試みる。企業の広報戦略と同じだ。
 その帰結として、選挙結果がある。
 公約を見て投票する人、イメージで投票する人、さまざまだろうが、結局のところ、すべては有権者の総意であるとしか言いようがないのである。

 当選した人の国会議員としての活動が、個人的にどうしても気に入らないとしよう。
「前回はその人に投票してしまったが、とんだ見当違いだった」と思うのなら、その人を責める以上に、その人に票を投じてしまった自分の見識の浅さを反省したほうがいい。
 そのうえで、次の選挙ではもっと深く考えて投票すればいい。
「前回、その人に投票しなかったが、その人が受かってしまった。案の定、とんでもないことばかりする」と思うのなら、次回も違う人に投票すればいい。
 自分と同じような見方の人が過半数ならば、結果をひっくり返すことができる。
 一票の力は単独では微小だが、数が集まれば力になる。
 くれぐれも、「自分が投票しようとしなかろうと、選挙の結果は変わらない」などと考えないことだ。
 そのような考えで参政権を放棄することこそ、民主主義国家に暮らしながら民主主義の精神に反する、一番の愚行といっていい。



【著者プロフィール】髙橋 洋一(たかはし・よういち)  

 1955 年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、
東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。
 1980 年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。
 小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍し、「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をしてきた。
 また、戦後の日本で経済の最重要問題ともいえる、バブル崩壊後の「不良債権処理」の陣頭指揮をとり、不良債権償却の「大魔王」のあだ名を頂戴した。
 2008 年退官。
 その後内閣官房参与などもつとめ、現在、嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。ユーチューバーとしても活躍する。
 第17 回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)、『バカな経済論』『バカな外交論』『【図解】ピケティ入門』『【図解】地政学入門』『【図解】経済学入門』『99% の日本人がわかっていない 国債の真実』『明解 会計学入門』『図解 統計学超入門』『外交戦』『【明解】経済理論入門』
(以上、あさ出版)など、ベスト・ロングセラー多数。

【書籍概要】

書籍名:『日本国民のための 【明解】政治学入門』
刊行日 :2021年7月11日(日) 価格:1,540円(10%税込)
ページ数:208ページ       著者名:髙橋 洋一 
ISBN  :978-4-86667-289-2
【目次】
1章 選挙は「風」のつかみ合い ――これさえわかれば「賢い有権者」になれる
2章 日本の選挙制度を考える ――こうして「民主的プロセス」は守られている
3章 「国会」では何が行われているのか ――批判する前に理解したい「国会議員の仕事」
4章 本当に正しい「政治家の見方」とは ――雰囲気に流されず、正当に評価する方法
5章 「内閣」とは誰か、何をしているのか ――知っているようで知らない「大臣の役割」
6章 「遠くの政府」と「近くの地域」 ――「ニア・イズ・ベター」の地方分権を考える

※書評・著者インタビュー、専門家出演等のご検討をいただけましたら幸いです。


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