厚労省「身体活動量の新基準」での達成率は49.5%(速報)  ―活動量計を用いた三大都市圏での成人調査は初―

公益財団法人 明治安田厚生事業団(本部:東京都新宿区、理事長:生井 俊夫)と公益財団法人 笹川スポーツ財団(東京都港区赤坂、理事長:渡邉 一利)は、活動量計を用いた国民の身体活動量の実態把握の第一歩として、首都圏・中京圏・近畿圏の13都府県を対象にした調査を共同実施しました。

ポイント

身体活動量・座位行動研究の課題

●厚生労働省は2024年1月、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」を策定。健康づくりのための新しい推奨身体活動量を成人:1日60分、高齢者:1日40分としたが、国民全体の達成率や実態は明らかになっていない。
●背景には計測機器による高精度な身体活動量測定が十分でないため、代表性のある客観的データがないことがある。
●計測機器を用いた既存の調査研究では、地域や年齢層など対象に偏りがある。

本調査の意義

●国民の身体活動量の実態把握の第一歩として、三大都市圏で無作為抽出された20歳以上80歳未満の男女を対象に、活動量計を用いた調査を初めて実施。
●その結果、厚生労働省の推奨身体活動量を満たしているのは、全体の49.5%であり、特に若年・中年者で達成率が低いことが明らかとなった。

本調査のコンセプト

調査の背景

2024年1月、厚生労働省は、「健康づくりのための身体活動基準 2013」を10年ぶりに改訂し、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」(以下、厚労省ガイド2023)およびエビデンスに基づくライフステージに応じた身体活動量の基準値を策定しました。成人は、歩行または同等以上の身体活動を1日60分以上、高齢者は同様の活動を1日40分以上行うことを推奨しています。また、「座っている時間が長くなりすぎないように注意する」という座位行動に関する指針が初めて導入されました。
国民が推奨された身体活動量をどのくらい満たしているのかを把握することは、公衆衛生施策やスポーツ施策を発展させるための土台となる貴重なデータとなります。しかし、日本では国民の身体活動や座位行動の実態把握が十分に行われていない現状があります。その一つの大きな要因が、計測機器を使用して高精度な身体活動量を測定した大規模な運動疫学調査が存在しないことです。
課題の解決に向け、公益財団法人 明治安田厚生事業団と公益財団法人 笹川スポーツ財団は、本調査を共同実施しました。明治安田厚生事業団による活動量計を用いた研究実績と、笹川スポーツ財団による全国規模の調査経験をいかし、将来的には調査エリアを拡大して、より全国規模に近い高精度なデータで身体活動量を評価する予定です。

身体活動

身体活動とは「安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての動作」を指し、運動やスポーツだけではなく、日常生活における労働・家事・移動なども含む。厚労省ガイド2023では、3メッツ※以上の身体活動(歩行、庭仕事、子どもと遊ぶ、水泳など)の基準が示されている。

座位行動

座位行動とは「座位、半臥位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動」と定義され、座ったり横になって休んだりするすべての状態(睡眠は除く)を指す。長すぎると健康に悪影響があるため、厚労省ガイド2023において初めて指針が示された。

厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023推奨事項一覧

※メッツ:「安静時を1としたときに、何倍のエネルギーを消費するか」を示す“活動強度”の単位。歩行は3メッツ、速歩は4.5メッツ、ランニングは10メッツ。週に3時間のランニングを行った場合、10メッツ×3時間=週30メッツ・時となる。

調査の概要

調査対象

満20歳以上80歳未満の男女 650人(住民基本台帳から層化二段無作為抽出法により抽出)

調査地点

首都圏・中京圏・近畿圏の13都府県における計50地点

調査方法

訪問留置調査(調査員が回答者宅を訪問して活動量計と調査票を配布し、一定期間内での回答を依頼した後、調査員が再度訪問して活動量計等を回収する方法)

調査内容

活動量計による1週間の活動量測定および調査票を用いた生活習慣等の評価

調査時期

2023年10月~11月

研究責任者

甲斐 裕子(明治安田厚生事業団体力医学研究所 副所長/上席研究員)
吉田 智彦(笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所 シニア政策ディレクター)

活動量計

本共同研究では、三軸加速度センサーが入った活動量計を使用し、身体活動を客観的に測定する。腰に装着するだけで身体活動データを1分ごとに記録し、個人の身体活動量や歩数が測定可能。日常生活で「どのくらい動いているのか」「どのくらい座っているのか」を本格的に測定・分析できる。対象者は休日を含めた1週間、就寝時や入浴時などを除き装着する。

共同研究の概要

調査の結果

650名の対象者のうち、196名から有効なデータを得ることができました(有効回収率30.2%)。厚労省ガイド2023が定める1日の推奨身体活動量の達成率は、全体で49.5%でした。年齢別では、20-64歳の若年・中年者が45.6%、65-79歳の高齢者が61.7%となりました。性別でみると、男性では20-64歳47.9%、65歳以上66.7%、女性では20-64歳43.6%、65歳以上52.9%となり、若年・中年者で達成率が低いことがわかりました。
また1日あたりの歩数は、世代と性別を問わず推奨歩数を下回っていました。1日あたりの座位時間は、高齢女性を除き、8時間を超えていました。これらは、三大都市圏を対象とした結果であり、解釈には注意が必要ですが、活動量を高める余地は十分にあると考えられました。なお、厚労省ガイド2023の推奨値は、あくまでも「目安」です。体を動かしていない人が、急に長時間の運動をするとケガをする恐れもあります。この「目安」より身体活動量が少ない人は、「今より少しでも多く体を動かす」ことが推奨されます。
今後、地点数を増やし調査を進めていく上での課題(例:調査訪問時の不在や調査協力拒否など)も浮き彫りになりました。有効回収率を上げ、より豊富なデータを収集するために更なる工夫を講じていきます。本調査は、活動量計による測定に加えて質問紙で運動・スポーツ実施状況なども調査しており、身体活動とスポーツ実施との関連も公表予定です。

図1. 厚生労働省のガイドによる推奨身体活動量(1日の3メッツ以上の身体活動の実施時間)の達成率(%)
図2. 各行動の中央値

※活動量計を用いた本共同研究では、WHO(世界保健機関)が定める、3メッツ以上=中高強度/1.6~3メッツ未満=低強度の身体活動量も計測している。
※中央値と平均値について
〈中央値〉とは、すべてのデータの数値を小さいほうから順に並べた際、中央にあるデータの値。〈平均値〉とは、すべてのデータの値を足し合わせた合計をデータの個数で割った値。今回は、他と比べて極端に小さな値、または極端に大きな値(外れ値)の影響を受けにくい、中央値を使用して結果を示した。

研究責任者のコメント

甲斐 裕子(明治安田厚生事業団体力医学研究所 副所長/上席研究員)
体力医学研究所では、2017年より活動量計を使った研究に取り組み、身体活動・座位行動の測定と分析について独自のノウハウを蓄積してきました。笹川スポーツ財団との協力により、長年の課題であった「客観的測定による、より高精度な身体活動・座位行動の国民の実態」に一歩近づけたのは、社会的にも学術的にも大きな成果と考えます。身体活動量は64歳以下の若い世代の方が多いのですが、推奨値が高齢者よりも高いため、結果として達成率が低くなっていました。また、女性は、歩数が少ない一方で低強度身体活動が多い等、活動量計ならではの活動パターンの特性もわかりつつあります。なお、本調査の回答率は、活動量計を使用した類似調査よりも優れています。しかし、データの代表性を確保するためには、さらに回答率を高める必要があります。今後は、回答率を高める工夫の検討とともに、身体活動・座位行動と環境や格差についても分析を進め、活動量を高めるための政策提言につなげていきたいと考えています。

吉田 智彦(笹川スポーツ財団 シニア政策ディレクター)
身体活動量に関する代表性の高い客観的データの収集は、運動疫学研究のレベルを高めるのみならず、健康増進政策やスポーツ政策において科学的根拠に基づく質の高い政策策定に貢献することが期待できます。スポーツ政策の観点では、運動・スポーツの実施について、広く普及啓発や環境整備を行い国民のスポーツ実施率の向上等の量的な指標に焦点を当てた施策に加えて、運動・スポーツによる健康の保持増進などの効果をより高めるため、質的な視点をもった取り組みを推奨する方針が示されています。本調査の継続的かつ調査エリアを拡大した実施を通じて信頼度の高いデータを蓄積し、例えば身体活動の時間、活動の強度や種類の分析などにより身体活動の量と質の両面から総合的に評価する基準の提示を目指していきます。

公益財団法人 明治安田厚生事業団

1962年設立。体力医学研究所では「健やかで豊かな長寿社会」の実現に貢献する新たな健康づくり方法を開発する研究活動を行うとともに、その知見の普及啓発を推進している。現在は職域における身体活動・座位行動の健康影響についての運動疫学的研究、そのメカニズム解明を目指す基礎的研究を実施。さらに健康科学の知見を社会に根付かせるため、地域における社会実装的研究を展開している。

公益財団法人 笹川スポーツ財団

1991年設立。国民一人ひとりがスポーツを楽しむ社会「スポーツ・フォー・エブリワンの実現」を掲げ、「スポーツによる社会課題解決」を目的に研究調査活動を行う。主な研究テーマは、健康とスポーツ、障害者スポーツ、子どものスポーツなど。研究結果をもとに自治体やスポーツ推進団体と共同事業を実施し、政策提言を行っている。

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