[奈文研コラム]デジタル技術の進化と文化財カルテ
私は今年の4月に奈良文化財研究所、文化財防災センターへ着任しました。文化財情報を担当しており、文化財のデジタルデータ化と、データを活用するためのシステム提案が主な業務になります。前職では医療分野のシステムエンジニアとして、病院薬剤師が使う医薬品のソフトウェアやデータベースの開発に携わっていました。一見、文化財と医療では共通点が無さそうに感じますが、意外と類似する点があることが分かりました。今回は自分が感じた共通点についてご紹介したいと思います。
<データベースの整備>
医薬品システムでは薬品データベースが基礎的な情報として重要で、薬品の効果や形状、成分量、体積など多くの情報を持ちます。これらの情報は、薬品の成分が患者の容体に悪影響を与えないかチェックしたり、薬品の調合方法を案内したりと、様々な業務で利用されます。
文化財の研究においても、まず基礎となる文化財のデータが正確に整備されていることが重要になります。文化財の種類や研究の目的に応じて必要な情報は異なりますが、例えば位置情報データをGISに用いる、形状や重量データを地震発生時のシミュレーションに用いるなど、個別の業務や研究に活用されます。
<文化財カルテの電子化>
業務で作成される様々な書類を、電子ファイルとして保存して利用するという点でも似ている点があります。医療では、医師が診察するとカルテを作成します。昔は手書きで書かれていましたが、現在はPCで入力する電子カルテが使われることが多くなっており、紙を使う機会が徐々に減っています。それでも、患者が記載した問診票や、医療機関同士のやり取りで用いられる書類など、紙資料を利用する機会はまだまだ残っており、病院の倉庫の一角が書類で占拠されているのを目にしたこともあります。書類をスキャンし電子ファイルで保管する運用を行っている病院もあり、紙資料の保管について問題を抱えていることが分かります。
一方、文化財建造物の保存修理を行う際、図面や工事の記録など、多くの書類が作成されます。紙の状態では必要な情報を探しにくかったり、劣化して利用できなくなったりする可能性があるため、資料をスキャンし電子化する事業が行われています (写真1) 。電子化したデータをいかに使いやすくシステム化するか、私も要件定義に携わっており、いろいろな使い方を模索しているところです。