「山下洋輔トリオ」 半世紀に及ぶ軌跡をたどる、一夜限りのスペシャルコンサート 「山下洋輔トリオ結成50周年記念コンサート 爆裂半世紀!」ライブレポート!
2019年12月23日、「山下洋輔トリオ」の50周年を記念したスペシャルコンサート、「山下洋輔トリオ 結成50周年記念コンサート 爆裂半世紀!」が開催された。
歴代メンバーが揃い、タモリ、麿 赤兒、三上 寛の豪華ゲスト陣、さらには坂本龍一がサプライズ出演した、一夜限りのスペシャルライブのレポートをここにお届けする。
「山下洋輔トリオ」の50周年を記念したスペシャルコンサート「山下洋輔トリオ 結成50周年記念コンサート 爆裂半世紀!」が12月23日(月)、東京・新宿文化センター 大ホールで開催された。
山下洋輔(pf)、中村誠一(ts)、森山威男(ds)によって1969年に結成された山下洋輔トリオは、先鋭的なフリージャズによって、70年代以降の音楽と文化に大きな影響を与えてきた。74年にはヨーロッパでデビュー、79年にはアメリカにも進出するなど、世界的な評価を獲得。73年から坂田明(as)、76年からは小山彰太(ds)、80年代に入ってからは林栄一(as)が参加するなど、様々な変遷を経ながら発展してきた。1983年に解散するも、2009年には「結成40周年記念!! 山下洋輔トリオ復活祭」を日比谷野外大音楽堂で開催。今回の50周年記念コンサートには、現在も活躍している歴代メンバーや当時交流のあった仲間たちが一堂に会し、半世紀に及ぶ同トリオの歴史をたっぷりと体感できる貴重なステージが繰り広げられた。
ライブは“第4期”トリオから始まり、時代を遡りながら進行した。まずは“第4期”(1980年~1983年)のメンバーである山下、林、小山が登場し、「ストロベリー・チューン」(作曲/林栄一)、「円周率」(作曲/小山彰太)を演奏。印象的なメイン・テーマ、刺激と個性に溢れたインプロビゼーションが鳴り響き、客席を埋め尽くした観客からは大きな歓声と拍手が起きる。
続いては“第3期”(1976年~1979年/山下、坂田、小山)。メンバー3人がスタンバイすると、俳優・舞踏家・演出家の麿赤兒が白塗りと白の衣装の異形の姿で登場。「SAILING」(ロッド・スチュワート)の演奏とともに、美しくも妖しい舞踏を披露し、70年代から続く“舞踏とジャズ”のコラボレーションが実現する。麿がステージを去った後は、1976年のモントルージャズフェスティバルでも演奏された第3期トリオの十八番、「GHOST」(アルバート・アイラ―)へ。坂田の“デタラメ語”のアドリブを挟み、「赤とんぼ」の旋律でエンディングを迎える熱演に会場は凄まじい歓声で包まれた。
第1部の最後は、“第2期”(1972年~1975年/山下、坂田、森山)。まずはフォーク歌手の三上寛が参加し、「東京だよおっ母さん」をセッション。情念と叙情性が濃密に絡み合う三上の歌、地方から上京した若者の心情を綴った歌詞の世界を、前衛的なジャズが彩る場面は本当に刺激的だった。さらに山下洋輔の作曲による「キアズマ」を披露。ヒジ打ちを交えた山下のピアノ、パワフルにして繊細な森山のドラム、生々しい感情表現をたたえた坂田のサックスが絡み合い、ライブは最初のピークを迎えた。
第2部でも驚くようなコラボレーションが次々と実現した。サプライズ・ゲストとして登場したのは、坂本龍一。「今日の出演者のなかでは、僕がいちばんの若輩者ですね」と笑顔で語った坂本と山下は、「5・7・5」(山下洋輔)をデュオ演奏。坂本はプリペアド・ピアノを弾き、ジョン・ケージを彷彿とさせる打楽器的な音響を響かせる。静謐なフレーズを奏でる山下のプレイも秀逸。ジャズと現代音楽の境界線を行き来するようなパフォーマンスは、この日のコンサートの大きな見どころだった。「(坂本が)すべての音が意味を持って聴こえるようにしてくれた」という山下のコメントも印象的だった。
ここからライブは終盤へ。“第1期”トリオ(1969年~1971年)のメンバーである山下、中村、森山に続き、タモリがステージに登場。1970年代の山下とタモリの出会い(福岡でのライブの後、山下、中村、森山がホテルの部屋で酒盛りをしているところに、まったく面識がなかったタモリが入ってきたという)の思い出話に花を咲かせた後、「その場のブルース」と称し、タモリを交えてセッション。タモリは口真似のトランペットを“演奏”し、観客は大いに笑いながら拍手を送った。さらに山下、中村、森山は、初期の代表曲であり、初スタジオ録音アルバムのタイトル・チューンでもある「ミナのセカンドテーマ」(山下洋輔)を演奏。卓越した演奏技術、そして、熱量と閃きに溢れたアンサンブルはまさに絶品だった。
歴代の山下洋輔トリオのメンバーが全員による新曲「50th THEME」(山下洋輔)を初演奏。さらにアンコールでは、名曲「GUGAN」を全員でセッションし、記念すべきライブは幕を閉じた。70~80年代のジャズシーンに大きな刺激を与えた山下洋輔トリオ。50年のキャリアを追体験できたことはもちろん、山下洋輔トリオの音楽が今なお進化を続けていることを実感できたことが、この記念碑的ライブのもっとも大きな収穫だったと思う。
(文:森朋之)(撮影:菊地英二)
山下洋輔オフィシャルHP http://www.jamrice.co.jp/yosuke/
山下洋輔トリオ 結成50周年記念コンサート 特設サイト
https://www.diskgarage.com/feature/yosuke_trio50/
プロフィール
山下洋輔 (Yosuke Yamashita)
1969年、山下洋輔トリオを結成、フリー・フォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に大きな衝撃を与える。国内外のジャズ・アーティストとはもとより、和太鼓やシンフォニー・オーケストラとの共演など活動の幅を広げる。88年、山下洋輔ニューヨーク・トリオを結成。国内のみならず世界各国で演奏活動を展開する。
2000年に発表した自作協奏曲を佐渡裕の指揮により04年にイタリア・トリノで再演。06年オーネット・コールマンと、07年にはセシル・テイラーと共演。08年「ピアノ協奏曲第3番<エクスプローラー>」を発表。09年、一柳慧作曲「ピアノ協奏曲第4番 "JAZZ"」を世界初演。歴代メンバー総出演の「山下洋輔トリオ結成40周年記念コンサート」を開く。
16年、ウィーン楽友協会ホールで佐渡裕指揮のトーンキュンストラー管弦楽団と共演し、大成功を収める。18年、ニューヨーク・トリオの結成30周年記念アルバム『30光年の浮遊』をリリースし、国内ツアーを行う。
99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章、12年旭日小綬章を受章。国立音楽大学招聘教授。演奏活動のかたわら、多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。