原発不明がんにおける新たな治療法の確立へ 世界初!次世代シーケンサーの遺伝子解析で有効な治療法を選定

次世代シーケンサー(NGS: Next Generation Sequencing)
次世代シーケンサー(NGS: Next Generation Sequencing)

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室腫瘍内科部門講師の林 秀敏とゲノム生物学教室を中心とした研究チームは、がん患者にとって最も効果が高く副作用が少ない抗がん剤を素早く選び出すことができる「次世代シーケンサー(NGS: Next Generation Sequencing)」という遺伝子解析装置を用いて、治療開発が難航している原発不明がんにおける原発巣の推定および治療法の有効性を確認する第2相臨床試験を行い、その有効性を示すことに世界で初めて成功しました。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)10月16日(金)午前0:00(日本時間)、医学・放射線・外科腫瘍学分野を網羅した国際的な米医学雑誌“JAMA Oncology”に掲載されました。

【本件のポイント】
●原発不明がんにおける原発巣の推定および治療法の有効性を確認する第2相臨床試験を実施
●次世代シーケンサーによる遺伝子解析に基づいて選定した治療法の有効性を示すことに成功
●治療開発が難航している原発不明がんの新たな治療法確立に期待

【本件の内容】
通常のがんの場合、肺がんであれば肺、胃がんであれば胃に原発巣が存在しますが、原発不明がんは原発巣が見つからないまま、リンパ節や肝臓などへの転移のみが出現し、全身に広がります。全がん患者のうち原発不明がんは2~5%で、一般的に予後が非常に悪く、診断時からの1年生存率が50%程度と言われています。診断が難しく病態がさまざまであるなどの特徴から、原発不明がんは他のがんと比べて治療開発が進んでいません。
研究チームは、がん患者にとって最も効果が高く副作用が少ない抗がん剤を素早く選び出すことができる「次世代シーケンサー」という装置を用いて、原発不明がん患者の遺伝子解析を行いました。その解析に基づき、原発不明がんの原発巣の推定と、分子標的治療薬が使用可能ながんの原因となる遺伝子の検索を行い、その結果から選定された治療法の有効性を確認する第2相臨床試験を行いました。その結果、過去の同様の原発不明がんに対する原発巣推定治療による成績に比べて良好であることが示されました。
なお、近畿大学医学部は次世代シーケンサーを6台保有し、全国に先駆けて遺伝子解析治療を実施してきました。年間約1,000例以上のがん患者の遺伝子解析を実施し、国内有数の実績を誇ります。

【論文掲載】
掲載誌:
JAMA Oncology(インパクトファクター:24.799 @2019)
論文名:
Site-Specific and Targeted Therapy Based on Molecular Profiling by Next-Generation Sequencing for Cancer of Unknown Primary Site A Nonrandomized Phase 2 Clinical Trial
(未治療原発不明癌に対する次世代シークエンサーを用いた原発巣推定に基づく治療効果の意義を問う第II相試験〈原発不明癌NGSCUP〉)
筆頭/責任著者:
林 秀敏 近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)講師
共同研究者:
中川 和彦(1)、西尾 和人(2)、坂井 和子(2)、藤田 至彦(2)、千葉 康敬(3)、滝口 裕一(4)、南 博信(5)、秋吉 宏平(6)、畝川 芳彦(7)、上田 弘樹(8)、岩本 康男(9)、近藤 千紘(10)、松本 光史(11)、高橋 信(12)、安井 久晃(13)、澤 祥幸(14)、小野澤 祐輔(15)、冨樫 庸介(16)*、冨田 秀太(17)*
(1)近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)、(2)近畿大学医学部ゲノム生物学教室、(3)近畿大学病院臨床研究センター、(4)千葉大学医学部附属病院 腫瘍内科、(5)神戸大学病院 腫瘍・血液内科、(6)大阪市立総合医療センター腫瘍内科、(7)埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科、(8)和歌山県立医科大学 呼吸器内科・腫瘍内科、(9)広島市立広島市民病院 腫瘍内科、(10)虎の門病院 腫瘍内科、(11)兵庫県立がんセンター 腫瘍内科、(12)東北大学病院 腫瘍内科、(13)神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科、(14)岐阜市民病院 呼吸器内科・腫瘍内科、(15)静岡県立静岡がんセンター 原発不明科、(16)千葉県がんセンター、(17)岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター/バイオバンク
* 元近畿大学医学部ゲノム生物学教室所属

【研究の詳細】
平成27年(2015年)3月から平成30年(2018年)1月の試験期間において、国内19施設が参加し、次世代シーケンサー(NGS)を用いて遺伝子発現および変異解析を行うことで原発巣の推定および分子標的治療薬が使用可能なドライバー遺伝子※1 を検索し、決定された治療法の有効性を確認する第2相臨床試験を行いました。登録された111例の原発不明がん患者のうち97例について、NGSによる遺伝子発現、変異解析に基づく推定原発巣の治療を実施しました。
すべての遺伝子解析は、近畿大学医学部ゲノム生物学教室(主任教授:西尾和人)で行われ、登録時点から全施設へ原発巣推定結果を返却するまでの期間の中央値は8日と、非常に速いスピードで解析内容を提供しました。推定された原発巣として、肺、肝臓、腎臓、大腸の順で最も多く、検出された遺伝子変異はTP53, KRAS, CDKN2A※2 の順に多いことが分かっています。
試験の結果、推定原発巣特異的治療の有効性として、1年生存割合は53.1%、生存期間中央値は13.7カ月、無増悪生存期間※3 中央値は5.2カ月であり、事前に規定した主要評価項目である1年生存割合の規定を満たしました。これは過去の同様の原発不明がんに対する原発巣推定治療による成績に比べて良好であることを示します。
非小細胞肺がんと推定された5例においてEGFR遺伝子変異※4 も本システムで同定され、その内4例でEGFR-TKI※5 が使用されました。さらに2例は6カ月以上の比較的長期の無増悪生存が得られました。これは、原発不明がんであっても、がん遺伝子変異を調べて適切な分子標的治療薬を使用することで、優れた有効性が得られる可能性を示したものです。
本試験は、原発不明がんにおいて、NGSを用いて見出された治療法の有効性を報告した世界で初めての第2相臨床試験であり、この結果から、NGSを用いた原発不明がんに対する原発巣推定治療戦略の有効性が示され、今後の標準治療となることが期待されます。

次世代シーケンサーによって推定された原発巣
次世代シーケンサーによって推定された原発巣

【試験参加19施設】
近畿大学病院、千葉大学医学部附属病院、神戸大学医学部附属病院、大阪市立総合医療センター、埼玉医科大学国際医療センター、和歌山県立医科大学附属病院、広島市立広島市民病院、虎の門病院、兵庫県立がんセンター、東北大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院、岐阜市民病院、静岡県立静岡がんセンター、国立がん研究センター東病院、岡山大学病院、市立岸和田市民病院、関西医科大学附属病院、がん研有明病院、栃木県立がんセンター

【研究支援】
本試験はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)による支援を受けて、AMED革新的がん医療実用化研究事業「未治療原発不明癌に対する次世代シークエンスを用いた原発巣推定に基づく治療効果の意義を問う第2相試験」研究班(研究開発代表者:近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門 主任教授 中川 和彦)の主導により行われました。

【用語解説】
※1 ドライバー遺伝子:がんの発生や悪化の原因となるような遺伝子の呼称の一つ
※2 TP53, KRAS, CDKN2A:がんの発生や悪化の原因となる遺伝子
※3 無増悪生存期間:抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪もしくは死亡が確認されるまでの期間と定義される。
※4 EGFR遺伝子変異:ドライバー遺伝子の変異の一つであり、非小細胞肺がんの40~50%程度で認められる。変異とは遺伝子の変化、傷のことであり、変異することで遺伝子の働きが異常になり、がんの悪化につながる。
※5 EGFR-TKI:EGFRを標的として治療効果を発揮する分子標的治療薬。EGFR遺伝子変異を認める肺癌ではEGFR-TKIが著しく効果をもたらすことが知られており、肺がん診療では幅広く使われている。

【関連リンク】
医学部 医学科 講師 林 秀敏 (ハヤシ ヒデトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1646-hayashi-hidetoshi.html
医学部 医学科 教授 中川 和彦 (ナカガワ カズヒコ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/755-nakagawa-kazuhiko.html
医学部 医学科 教授 西尾 和人 (ニシオ カズト)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/757-nishio-kazuto.html
医学部 医学科 講師 坂井 和子 (サカイ カズコ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1674-sakai-kazuko.html
医学部 医学科 講師 藤田 至彦 (フジタ ヨシヒコ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1515-fujita-yoshihiko.html
医学部 医学科 准教授 千葉 康敬 (チバ ヤスタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/707-chiba-yasutaka.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


AIが記事を作成しています