【名城大学】窒化ガリウム面発光レーザーにて 20%を超える電力変換効率を初めて実証 -AR/VRディスプレイなどへの応用に期待-

名城大学理工学部材料機能工学科の竹内哲也教授、上山智教授、岩谷素顕教授、および産業技術総合研究所先端半導体研究センターの亀井利浩研究主幹の研究グループは、AR/VRディスプレイやポイントオブケア検査(ポータブル分析器などを用いて、患者の近くでリアルタイムに行う検査)などへの応用が期待される窒化ガリウム面発光レーザー(波長420 nm)にて、20%を超える電力変換効率を初めて実証しました。この電力変換効率の大幅向上は、半導体層構造の結晶成長の膜厚制御精度を従来よりも約一桁高める「高精度その場膜厚制御」手法を確立できたためであり、将来の生産性向上にも繋がることから、社会実装に向けた大きな一歩であると言えます。

本研究成果は、2024年3月28日に国際論文誌「Applied Physics Letters」(https://doi.org/10.1063/5.0200294)に掲載されています。

図1 窒化ガリウム紫色面発光レーザーにおける投入電力に対する電力変換効率(WPE)。発光径5 µmでは20%以上を達成。
図2 電力変換効率20%以上を有する窒化ガリウム紫色面発光レーザーの動作の様子。

ポイント

・これまで電力変換効率が10%台であった窒化ガリウム面発光レーザーにて20%以上を実証
・効率改善の鍵は、「高精度その場膜厚制御」「GaInN(注1)下地層による発光特性改善」「比較的小さい発光径(5 µm)の採用」の三つ
・確立した「高精度その場膜厚制御」は、素子作製において高い再現性をもたらすため、将来の社会実装に向けた生産技術としても優れた手法

詳細な説明

1.背景
面発光レーザーは、LEDの高い生産性と半導体レーザーの優れた発光特性の双方を有する発光素子であり、1977年に東京工業大学の伊賀健一教授が発明した日本発の発光素子です。一方、窒化ガリウムは、本学の赤﨑勇特別栄誉教授のノーベル賞受賞理由となった、同じく日本発の高効率青色LEDを構成する半導体材料です。この双方を組み合わせた窒化ガリウム面発光レーザーは、青色を中心とする可視域をカバーする面発光レーザーであり、AR/VRディスプレイ、自動車用アダプティブヘッドライト、可視光通信システム、そしてポイントオブケア検査など、様々な分野への応用が期待されています。これまで複数の研究機関がその開発を進め、これまでに電力変換効率として10%台までが報告されていました。実用化に向けたさらなる効率改善や、生産性向上に向けた高い再現性が望まれていました。

2.研究内容及び本成果の意義
この面発光レーザーはウエハに対して垂直方向に光を共振させるレーザー(図3)であるため、膜厚によって動作する波長(共振波長)が決まります。それゆえ、所望の共振波長を有し、十分な性能を示す素子作製には、その設計膜厚に対して1%を切る高い膜厚制御性が必要とされています。この値は、LEDや従来の水平方向に共振させる半導体レーザーが要求する膜厚制御に比べ、約一桁厳しい値です。

図3 名城大で作製されたGaN面発光レーザーの概略図

名城大学では、この窒化ガリウム面発光レーザーの室温連続動作を2015年に達成、2017年には電力変換効率5%を実証しましたが、不十分な膜厚制御により、その後の効率改善が停滞していました。従来の膜厚制御では、実際に素子構造を形成する直前に別の実験からその成長速度を把握し、それに基づいて素子構造を形成しており、この場合、最大2%の差異が生じていました。

すでに実用化されているヒ化ガリウム赤外面発光レーザーでは、「その場反射率スペクトル測定」により、素子の半導体層構造を結晶成長させながら、その反射率スペクトルから成長させた膜厚を把握し、必要な膜厚に到達した時点で成長を終了させる「その場膜厚制御」が行われています。今回、この手法を窒化ガリウム紫色面発光レーザーに適用しました。適用に際し、窒化ガリウムで形成された共振器の共振波長の温度依存性を調べ、その結果、成長温度では共振波長が約20 nm程度長波長化することを見出しました。その長波長化した共振波長にて結晶成長中にその場で反射率強度プロファイル(図4)をモニターすることで、必要な最終層厚(3.7λ)に到達した時点を認識する手法を確立し、そこで結晶成長を終了しました。その後、素子形成プロセス(電極形成など)を経て、面発光レーザーを作製しました。その際、高電流注入時にも発光特性が改善する、発光層直下のGaInN下地層と、単位電流密度当たりの熱放熱性が向上する、直径5 µmの比較的小さな発光径も盛り込みました。その結果、図5に示す電流・光出力特性が得られ、発光径が小さい(5~8 µm)素子では10 mW以上の高い光出力を示し、図1に示すように、発光径5 µmの素子では20%を超える電力変換効率を達成しました。また、この面発光レーザーの設計発振波長は418 nmであったのに対し、実際の発振波長は417.7 nm(8 µm径素子)であり、共振波長制御性、すなわち膜厚制御性として、差異は0.1%という極めて高い値を示しました。

以上、今回の成果により、20%を超える高効率窒化ガリウム紫色面発光レーザーが実現し、将来の生産性向上に繋がる高い再現性も実証されました。

図4 その場反射率強度プロファイルを用いたその場膜厚制御。従来よりも約一桁高い制御性を確立。
図5 窒化ガリウム紫色面発光レーザーの電流・光出力特性。

この成果は、JSPS科研費基盤研究A(20H00353)および基盤研究S(23H05460)の助成を受けたものです。

用語解説

注1 GaInN
窒化ガリウム・窒化インジウムを主成分とする化合物半導体混晶で、青色から緑色の光を発する LED やレーザーデバイスに利用されます。最近は赤色 LED も実現されつつあります。

掲載論文

1)20%を超える電力変換効率窒化ガリウム紫色面発光レーザーの実証
雑誌名:Applied Physics Letters
タイトル: Over 20% wall plug efficiency of on-wafer GaN-based vertical-cavity surface-emitting laser
著者名:Ruka Watanabe, Kenta Kobayashi, Mitsuki Yanagawa, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Motoaki Iwaya, Toshihiro Kamei
掲載日時: 2024/3/28
DOI: 10.1063/5.0200294

2)その場観察による高精度膜厚制御1:共振器
雑誌名:Japanese Journal of Applied Physics
タイトル: In situ cavity length control of GaN-based vertical cavity surface-emitting lasers with in situ reflectivity spectra measurements
著者名:Tsuyoshi Nagasawa, Kenta Kobayashi, Ruka Watanabe, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Motoaki Iwaya, and Toshihiro Kamei
掲載日時: 2023/6/23
DOI: 10.35848/1347-4065/acdba9

3)その場観察による高精度膜厚制御2:多層膜反射鏡
雑誌名:physica status solidi (b)
タイトル: In Situ Center Wavelength Control of AlInN/GaN Distributed Bragg Reflectors with In Situ Reflectivity Spectra Measurements
著者名:Kenta Kobayashi, Taichi Nishikawa, Ruka Watanabe, Tetsuya Takeuchi,*Satoshi Kamiyama, Motoaki Iwaya, and Toshihiro Kamei
掲載日時: 2024/3/25
DOI: 10.1002/pssb.202400010

本件に関するお問い合わせ先

・研究内容に関すること
 名城大学理工学部材料機能工学科 教授 竹内哲也
 Tel: 052-838-2293  
 Email: take@meijo-u.ac.jp

・広報担当
 名城大学渉外部広報課
 Tel: 052-838-2006 
 Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp

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