ペロブスカイト量子ドットからマルチカラー円偏光の発生に成功 3D表示用有機ELディスプレイ等の製造コスト削減に期待

2024-01-19 11:00
ペロブスカイト型量子ドットからのマルチカラー発光

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科教授 今井喜胤(いまいよしたね)、同エネルギー物質学科准教授 田中仙君(たなかせんく)らの研究グループは、近年注目の半導体材料であるペロブスカイト量子ドット※1 について、外部から磁力を加えることでらせん状に回転しながら振動する光「円偏光」を発生させ、その組成を変えるだけでマルチカラーに色調を変えることに成功しました。さらに、加える磁力の方向を変えることで、全ての色の円偏光の回転方向を制御できることも明らかにしました。
本研究成果を用いることで、円偏光発光体の製造コストを安く抑えることができるため、将来的に、高度な次世代セキュリティー認証技術の実用化や、3D表示用有機ELディスプレイ等の製造コスト削減などに繋がることが期待されます。
本件に関する論文が、令和6年(2024年)1月3日(水)に、無機化学分野の国際的な学術誌"European Journal of Inorganic Chemistry(ヨーロピアン ジャーナル オブ インオーガニック ケミストリー)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●半導体材料であるペロブスカイト量子ドットを用い、外部から磁力を加えることで、円偏光の発生に成功
●ペロブスカイト量子ドットの組成を変えることで、マルチカラー円偏光の発生に成功
●高度な次世代セキュリティー認証技術の実用化や、フルカラー3D表示用有機ELディスプレイの低コスト製造への応用が期待される研究成果

【本件の背景】
特定の方向に振動する光を「偏光」といい、その中でも、らせん状に回転しているものを「円偏光」といいます。円偏光は、3D表示用有機ELディスプレイ等に使用される新技術として注目されています。通常の発光体から発せられる光は、右回転円偏光と左回転円偏光の両方を含んでおり、片方の円偏光だけを得るには、フィルターを用いてもう片方の偏光をカットする必要がありますが、この方法では光量が半分になってしまうという問題があります。そのため現在、世界中で一方の円偏光を優先的に発することのできる円偏光発光体の開発が進められています。しかし、現在の技術では鏡面対称(左手と右手のような鏡像関係)の構造をもつキラル(光学活性※2)な発光体の対から、右回転円偏光または左回転円偏光を発生させるのが一般的です。
本研究に用いた量子ドットとはナノメートルサイズの半導体材料で、高輝度かつ幅広い色域の光を発光します。テレビやLED照明などさまざまな場面で活用されており、その貢献度から量子ドットの発見に関する研究は、令和5年(2023年)のノーベル化学賞を受賞しました。量子ドットとしては、元々中毒性の高いカドミウム類が使われていましたが、環境配慮の観点から、最近ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の分子が用いられるようになり、ディスプレイに応用すれば高輝度で広色域、高解像度の製品が実現できると期待されています。
本研究グループは、先行研究においてアキラル(光学不活性※2)な分子を用いた場合でも円偏光を発生させる新しい手法を開発しています。今回、ペロブスカイト量子ドットを用いて、より安価にマルチカラーの円偏光を発生させることを目指し、研究に取り組みました。

【本件の内容】
ペロブスカイト量子ドットは、室温で高い発光効率を示すことから、発光ダイオード用発光材料や太陽電池の材料として近年盛んに研究されています。
研究グループは、アキラル(光学不活性)なペロブスカイト量子ドットに対して、外部から磁力を加えることによって、円偏光を発生させることに成功しました。また、磁力の方向を変えることで円偏光の回転方向を制御し、単一の発光体から右回転円偏光と左回転円偏光の両方を選択的に取り出すことに成功しました。さらに、ペロブスカイト量子ドットの組成を変えることで、マルチカラーの円偏光を発生させることにも成功しました。
本研究成果は、将来的に高度な次世代セキュリティー認証技術の実用化や、3D表示用有機ELディスプレイ等の製造コスト削減などに繋がることが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌 :European Journal of Inorganic Chemistry
     (インパクトファクター:2.551@2022-2023)
論文名 :Multi-Color Magnetic Circularly Polarized Luminescence from Achiral Perovskite (Cs+Pb2+X3) Quantum Dots
     (アキラルペロブスカイト(Cs+Pb2+X3)
      量子ドットのマルチカラー磁気円偏光発光)
著者  :尼崎凌、北原真穂、田中仙君、今井喜胤* *責任著者
所属  :近畿大学理工学部
DOI  :10.1002/ejic.202300621
論文掲載:https://doi.org/10.1002/ejic.202300621

【本件の詳細】
研究グループは、高い発光効率を示すことが知られている5種類のアキラル(光学不活性)なペロブスカイト量子ドットについて、外部から磁力を加えることによる円偏光の発生を検討しました。
ペロブスカイト量子ドットに溶液中で外部から磁力を加えて光を発生させたところ、アキラルであるにもかかわらず円偏光の発生に成功しました。また、磁力の方向を変えることにより、光の回転方向が反転しました。さらに、ペロブスカイト量子ドットの組成を変えることにより、円偏光発光の色調(波長)を青色から赤色へと300nm以上変えることに成功しました。
本研究は、室温かつ永久磁石による磁場下で、マルチカラーを容易に発生させることができるアキラルな量子ドット半導体から円偏光の発生に成功したという点で優れています。

【研究者のコメント】
今井喜胤(いまいよしたね)
所属  :近畿大学理工学部 応用化学科
職位  :教授
学位  :博士(工学)
コメント:磁場を用いる我々の手法により、従来の方法に比べて、格段にデバイスに適応可能な発光体の範囲が広がりました。今回、ペロブスカイト量子ドットからマルチカラーな発光色を取り出せたことにより、円偏光発光ダイオードの低コスト開発が期待されます。

【研究支援】
本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B)(課題番号 JP23H02040)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)A-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)、研究課題「磁場駆動MCP-OLEDおよびMCP-LECデバイスの開発」によって実施されました。

【用語解説】
※1 ペロブスカイト量子ドット:ペロブスカイト構造CsPbX3(Xは、Cl、Br、Iのいずれか)を有する10nm程度のナノ結晶材料。ハロゲンアニオン(X)やその組み合わせ、量子ドットサイズを変えることで発光波長を制御できるため、ディスプレイや照明への応用が期待されている。
※2 光学活性/光学不活性:物質が直線偏光の偏光面を回転させる性質(旋光性)があるとき、この物質は光学活性であるといい、偏光面を回転させる性質がないとき、この物質は光学不活性という。

【関連リンク】
理工学部 応用化学科 教授 今井喜胤(イマイヨシタネ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html
理工学部 エネルギー物質学科 田中仙君(タナカセンク)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/312-tanaka-senku.html

理工学部
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/

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