新型コロナウイルス感染症による肺炎症状を自動診断 人工知能の活用で、画像診断を行う放射線医をサポート

新型コロナウイルス感染症による肺炎症状の自動診断システムの解析画面
新型コロナウイルス感染症による肺炎症状の自動診断システムの解析画面

近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)生命情報工学科講師 永岡 隆らの研究グループは、近大の英知を結集した人工知能システム、「ヒトに優しい人工知能kindAI(キンダイ)」の技術を利用し、新型コロナウイルス感染症による肺炎症状を自動診断するシステムを開発しました。
本件に関する論文が、令和4年(2022年)3月18日(金)に日本生体医工学会が発行する生体医工学領域の国際総合学術雑誌"Advanced Biomedical Engineering"にオンライン掲載されました。
なお、本件は、近畿大学が全学を挙げて取り組んでいる「"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」の一環として実施しているものです。

【本件のポイント】
●ヒトに優しい人工知能kindAIの技術を利用し、CTに映った陰影が新型コロナウイルス感染症に起因するか否かを自動診断
●人工知能の活用で、画像診断を行う放射線医をサポートするシステム
●"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクトによる成果

【本件の内容】
研究グループはこれまでに、公益社団法人日本青年会議所主催「第1回超生産性向上大賞」で内閣総理大臣賞・文部科学大臣賞をW受賞した、「ヒトに優しい人工知能kindAI」を開発しました。これは、近畿大学の総合大学としてのメリットを生かし、生物理工学部や理工学部、医学部のほか、近大病院の医療従事者などの知見を投入したもので、食生活や睡眠など日常生活のデータをビッグデータ化することで、これに基づく適切な医療を人工知能が提案することをめざしたものです。その開発ノウハウを生かし、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に起因する肺炎を診断できる人工知能、通称「kindAI COVID」を開発しました。
今回開発したシステムは、AIが肺の情報だけでCOVID-19に起因する肺炎か否かを鑑別するもので、80%を超える高い正診率を示す人工知能の開発に成功し、現在は臨床環境での評価を進めています。CTに映った陰影を判定する際に放射線医をサポートするもので、今後は臨床現場での有効活用を目指しています。

【論文掲載】
掲載誌:Advanced Biomedical Engineering
論文名:
A deep learning system to diagnose COVID-19 pneumonia using masked lung CT images to avoid AI-generated COVID-19 diagnoses that include data outside the lungs
(AIが生成する肺以外のデータを含むCOVID-19肺炎診断を回避するため、マスクした肺CT画像を用いたディープラーニングシステム)
著 者:
永岡 隆1、小塚 健倫2、山田 誉大3、波部 斉4,5、根本 充貴6、多田 昌裕4,5、阿部 孝司4,5、半田 久志4,5、吉田 久1、石井 一成2,3、木村 裕一1,5
所 属:
1 近畿大学生物理工学部生命情報工学科、2 近畿大学医学部放射線医学講座放射線診断学部門、3 近畿大学高度先端総合医療センター PET分子イメージング部、4 近畿大学理工学部情報学科、5 近畿大学情報学研究所、6 近畿大学生物理工学部医用工学科

【研究の詳細】
本研究は、コンピュータ断層撮影(CT)のスライス画像を用いて、COVID-19に起因する肺炎を診断する、人工知能(AI)をベースとした新規システムの開発を目的として行われました。本研究グループの先行研究では、AIが肺ではない部分(CTに映り込む心臓や背骨といった他臓器や患者が寝るベッド)を肺と誤認して診断することが危惧されていました。また、AIに複数施設の装置で撮影されたCT画像を学習させることにより、施設や装置に特有のノイズの影響を受けて診断してしまう可能性も指摘されていました。そこで本研究では、単一の施設とCT装置で計測したCTデータのみを診断対象としました。また、肺の画像とCTスライス画像を組み合わせて、AIが肺の情報だけでCOVID-19に起因する肺炎か否かを鑑別するシステムを開発しました。
近畿大学医学部で撮影された、COVID-19症例132件と非COVID-19症例62件を用いて検証を行なったところ、本システムの感度(COVID-19症例を正しく診断する確率)は76%、特異度(非COVID-19症例を正しく診断する確率)は84%、精度は81%となり、単一施設、単一装置という先行研究よりも厳しい条件を適用したにもかかわらず、臨床的に有用な値が得られました。また、人工知能に肺の情報のみを与えて診断させるネットワークの構造は、「kindAI COVID」独自の新しい試みであり、この先発生が想定される各種変異株にも適用が期待されます。今後は、実際の臨床現場での有効活用を目指し、早期にシステムの開発と臨床現場への導入を進める予定です。

【オープンイノベーションの創成を目指した全学横断型研究プロジェクト】
本研究は、近畿大学が推進する「オープンイノベーションの創成を目指した全学横断型研究プロジェクト」の「医情連携によるAIの医学応用(kindAI-Med)」の枠組みを活用し、生物理工学部を中心に、医学部放射線診断学部門と理工学部情報学科(情報学部※)の教員が連携して行われました。
本プロジェクトは大学ガバナンスのもとで、産学連携や産学協働の深化によるイノベーション創成を進めるため、本学のあらゆる学問分野で活躍する研究者が部局を超えて全学横断型の共同研究を推進するものです。
※ 情報学部:令和4年(2022年)4月開設

【"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト】
近畿大学は、令和2年(2020年)5月から「"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」を始動させました。これは、世界で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症について、医学から芸術までの研究分野を網羅する総合大学と附属学校等の力を結集し、全教職員から関連研究や支援活動の企画提案を募って実施する全学横断プロジェクトです。これまでに126件の企画提案が採択され、約2億3千万円の研究費をかけて実施しています。

【関連リンク】
生物理工学部 生命情報工学科 講師 永岡 隆(ナガオカ タカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1345-nagaoka-takashi.html
医学部 医学科 医学部講師 小塚 健倫(コヅカ タケノリ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1711-kozuka-takenori.html
理工学部 情報学科 准教授 波部 斉(ハベ ヒトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/473-habe-hitoshi.html
生物理工学部 医用工学科 講師 根本 充貴(ネモト ミツタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2094-nemoto-mitsutaka.html
理工学部 情報学科 准教授 多田 昌裕(タダ マサヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/468-tada-masahiro.html
理工学部 情報学科 准教授 阿部 孝司(アベ コウジ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/450-abe-kouji.html
理工学部 情報学科 教授 半田 久志(ハンダ ヒサシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/456-handa-hisashi.html
生物理工学部 生命情報工学科 教授 吉田 久(ヨシダ ヒサシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/404-yoshida-hisashi.html
医学部 近畿大学病院 教授 石井 一成(イシイ カズナリ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/543-ishii-kazunari.html
生物理工学部 生命情報工学科 教授 木村 裕一(キムラ ユウイチ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/565-kimura-yuuichi.html

生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/
医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/
理工学部
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/
情報学部
https://www.kindai.ac.jp/informatics/
近畿大学病院
https://www.med.kindai.ac.jp/


AIが記事を作成しています