発光回転方向が変わるペプチドCPL発光体を開発 生体適合の可能性があり、医療用途への応用に期待

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科の准教授 今井喜胤(いまいよしたね)らの研究グループは、映画館などで3D立体映像を映し出す際に使われる、「円偏光」を発するCPL※1 発光体を開発しました。この発光体は、複数個のアミノ酸の結合体であるペプチドを元に作成しており、溶液などの外部環境によって光の回転方向が変わる特徴があります。また、アミノ酸由来のため、生体適合(人体に使用しても副作用などの害がないこと)の可能性があります。
本件に関する論文が、Wileyが発刊する「Chemistry A European Journal」の姉妹紙『Chemistry Select』に平成29年(2017年)9月11日(月)に掲載され、表紙に選出されました。
※1 CPL…Circular Polarized Luminescence 円偏光発光

【本件のポイント】
●ピレニルアラニンをペプチド固相合成法※2 で結合すると、CPL発光体になることを発見
●ペプチド型の発光体としては世界で初めて、溶かした溶液の種類により、円偏光の回転方向が制御可能
●アミノ酸ベースのため、生体適合の可能性があり、将来的に医療用途への応用の可能性
※2 ペプチド固相合成法…溶液中で単純に結合させるのではなく、アミノ酸の分子を一つ一つ順番に結合させる方法。簡単かつ正確にペプチドを作成できる。

【本件の概要】
特定の方向に振動する光を偏光といい、振動方向が直線状のものを直線偏光、らせん状に回転しているものを円偏光といいます。多くの発光体は直線偏光であるため、フィルターを用いて直線偏光を円偏光に変換していますが、フィルターを通すことで光強度が減少し、エネルギー効率が悪化するため、円偏光発光体の開発が進められています。
研究グループは、アミノ酸の一種であり、光を発する特性を持つピレニルアラニンをペプチド固相合成法でペプチドにすると、CPL発光体になることを発見しました。この発光体は、溶液の種類により円偏光の左右の回転方向が制御できるという特徴があり、環境によって用途を変化させることができます。
また、アミノ酸から構成されているため、生体適合の可能性があります。将来的には、がんなどの腫瘍に付着して発光することで腫瘍を発見しやすくするマーカーなど、医療用途への応用が期待されます。
なお、本研究は文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択された「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の一環です。

【掲載誌】
■雑誌名・・・『ChemistrySelect』Wiley発刊、Chemistry A European Journalの姉妹誌
■論文名・・・“Solvent-Sensitive Sign Inversion of Excimer Origin Circularly Polarized Luminescence in Bipyrenyl Peptides”
■著 者・・・Yuki Mimura, Sayaka Kitamura, Motohiro Shizuma, Mizuki Kitamatsu, Michiya Fujiki and Yoshitane Imai

【研究の詳細】
アミノ酸の一種であるピレニルアラニンを、ペプチド固相合成法を用いてペプチドにすることにより、青色の円偏光を発するCPLペプチド発光体の開発に成功しました。2つのピレン間の炭素数が4である、光学活性ペプチド-ピレン有機発光体(L2-C4)を用い、その溶媒依存CPL特性について検討を行いました。その結果、興味深いことに、ジクロロメタン(CH2Cl2)溶液中では、正(+)のCPLを発光したのに対し、ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中では負(-)のCPLを発光することに成功しました。このように、単一の光学活性ペプチド-ピレン有機発光体において、用いる溶媒の種類を変えることにより、CPLの回転方向を制御できる、環境依存型CPL発光体の開発に成功いたしました。

【今後の展望】
円偏光発光(CPL)に関しては、最近、様々な利用法が検討されていますが、CPLを生み出す高輝度・高円偏光度(高い光の回転度)を備えた有機CPL発光体は、まだ開発途上段階であり、生体中で使用可能な生体適合CPL発光材料についても試行錯誤が続いています。
今回の研究により、ペプチド化合物が、外部環境である溶液の種類によりCPLの回転方向が制御できる発光体として利用できることを見出しました。今後、生体内での環境の違いによりCPL特性が変化する、新しいCPLペプチド発光体の開発を試みます。さらに、多彩な機能を持った円偏光発光体の作出や、高輝度・高円偏光度の円偏光発光体の開発を進めていきます。

【研究者プロフィール】
近畿大学理工学部 応用化学科 准教授 今井 喜胤(いまい よしたね)
研究テーマ:キラリティー材料と円偏光発光(CPL)とのベストミックスフィールドの創出、「色」変化を利用した超高感度分子センシングシステムの開発、ナノポーラス型電荷移動(CT)錯体を利用した新奇な可視的水素貯蔵材料の開発
専   門:有機光化学、不斉化学、超分子化学
受   賞:コニカミノルタ画像科学進歩賞(2009年)

【「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の概要】
■研究内容
太陽光エネルギーを利用して水素ガスやメタノールといった1次エネルギー物質を生成する際に必要不可欠とされるソーラー触媒の開発や人工光合成における化学的機能の開拓(研究テーマ1)を推進します。同時に、ウェアラブル端末などに広く利用可能な薄膜太陽電池における光電変換効率の高効率化(研究テーマ2)、さらには、光磁気機能を駆使した省エネルギー記憶媒体に関わる基盤的物質の創成(研究テーマ3)を目指します。

■プロジェクトの波及効果
東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、わが国のエネルギー政策は歴史的な転換期にあり、利用可能なエネルギー資源の特徴を生かしつつ各々を効果的に運用していくための施策を必要としています。その際、立ち遅れの目立つ太陽光エネルギー利用についても可能性をポジティブに評価したうえで有効に活用していく必要があります。太陽光エネルギー利用の可能性を最大限に引き出すための基盤的研究を推進します。

■プロジェクトの将来と人材育成
総合理工学研究科・理工学部の教員16人の参画を得て発足した本研究プロジェクトは将来的に近畿大学における原子力、火力、太陽光研究をゆるやかに束ねる総合エネルギー研究開発拠点として社会基盤の整備等に関して科学的見地から発信力を強化していくことを目指します。また、活動を通じて優れた人材の育成に力を尽くします。

【関連リンク】
理工学部応用化学科 准教授 今井 喜胤(イマイ ヨシタネ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html

今回開発した発行体の化学式
今回開発した発行体の化学式

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