【宮沢孝幸&藤井聡 対談】コロナ禍は「人災」である

From 『表現者クライテリオン』編集部

「外出中は鼻くそはほじるな、口に指を入れるな」というツイッターが大ヒット

藤井 今回は、三月十六日にお話をお聞きした前回に引き続いて二度目の座談会となります。新型コロナウイルスの感染症の問題は日々状況が変わっていきますから、前回からおおよそ一月が経った今の時点での状況も踏まえて、色々とお話をお聞きしようと思います。最初は当方と対談させていただいて、最後に、編集委員からの質問等にもお答えいただきたいと思います。よろしくお願いします。
宮沢 よろしくお願いします。
藤井 宮沢先生には、当方がユニット長を務める「京都大学レジリエンス実践ユニット」にこの四月一日から正式メンバーにもご着任いただき、前にも増して色々とこの感染症の問題について日々ご相談させていただいているところです。今日は四月十日でありますが、今のこのウイルスの状況について、宮沢先生、どうお感じになってらっしゃるか、まずお話をお伺いしたいと思います。
宮沢 前回の三月中旬の対談の時からすると、状況は変わりましたね。特に、三月二十日からの三連休の頃は、これはやばいなと思いましたね。
藤井 報告される感染者数が拡大していった頃ですね。「二一万いいね」を記録したツイートを最初に出されたのもその頃ですよね。読者のためにご紹介すると、宮沢先生はこういうツイートを出されている。「考えをひっくり返せ! 移らんようにするより、『移さんこと』に意識を集中する」「外出中は手で目を触らない、鼻を手でさわるな、ましてや鼻くそはほじらない。(かくれてやってもダメ!) 唇触るのもだめ。口に入れるのは論外。意外と難しいが、気にしていれば大丈夫!」「ウイルスが1/100になれば、まず感染しない。」「人と集まって話をする時は、マスクしろ。他人と食事する時は、黙れ。食事に集中しろ!」「酒を飲んだら、会話するだろ。大声になるだろ。それが危険なことわからんやつは、とっとと感染しちまえ。一ヶ月会社休んで回復したら、みんなの代わりに仕事しろ。ただ、爺ちゃんばあちゃんの前には治るまで絶対でるな。」「たった、これだけ! これだけで感染爆発は防げる。」「いつかはお前もかかる。かかった時助かるように、いまからなるべく栄養つけろ。よく寝ろ。タバコはこれを機にやめろ。」これは感染させないためのエッセンスが全て詰まっているツイートです。これが一気に広がりましたね。
宮沢 その頃に、感染爆発になったらやばいから、抑えにかからなきゃいけないと思ったわけですよ。皆さんちゃんと守ればこのウイルスを何とか制御できるっていうのを伝えるがために、Facebookとかで発信してたんですね。ところが全然伝わらなくて、もう絶望してたわけですよ。三月二十七日の夜に、私も頭にきたというか、もうダメだっていう気分で、夜中の十二時ぐらいに、十五分ぐらいでさっと書いたのがあの文章です。その後これ言いすぎたなと思ってたんですが、多くのFacebookのフォロワーさんから、これ良かったよ、ということだった。だから同じ内容をTwitterに上げさせていただいたところ、こういうふうに広まったんです。ただ、まだ皆の行動は変わってないですよね。

感染爆発した欧米、しなかったアジア諸国

藤井 前回の対談が三月十六日でしたが、未だその頃は、中国や韓国等のアジアで感染が広がっているだけで、欧米での感染はまだ初期段階だった。ところがその後、アジアの感染はさして広がらない一方、欧米が一気に感染爆発していった。これは要するに、再生産数(つまり、一人の感染者が平均何人にうつすのか)、特にそのベースの値となる「基本再生産数(R0)」が欧米とアジアで全然違うってことを意味するわけですが、なぜこんなに違うんでしょうか?
宮沢 色々な要因が考えられて、やっぱり密着しやすい文化とか、サッカー文化が欧州にはあったりとか。後は喋り方とかも、言語学的なこととか、やっぱり肺活量多いですし、彼らは。つばが飛びやすいとかそういう色々なのがあって。あとは手洗いの習慣もなかったわけだし、お風呂もそんなに入らないです。僕らはイギリスのとき一週間に一遍ぐらいしか(お風呂〔シャワー〕に)入らないんで、そんなのもあってかなと。
藤井 それから、当方の知人の医師から伺った一つの仮説が、お箸を使うかどうかも重要じゃないかと。欧米は手づかみでパンを食べるが、日本は基本全てお箸を使うから接触感染しづらいという説です。それから欧米ではキスやハグが習慣化しているからとか、家族構成が日本では核家族化している一方、ヨーロッパ、特にイタリアでは大家族でおじいちゃん、おばあちゃんと同居しているのが一般的だから高齢者の感染者が増え、重症者・死者が拡大したとか。あと、欧米では靴をはいて部屋に入るとか。こう考えると、ほとんど多くの社会文化条件からして、ヨーロッパの方が東アジア、特に日本よりも感染が拡大しやすいという側面はありそうですね。
宮沢 あとは、僕は大きな要因はマスク(だと思うの)ですね。飛沫が飛ばなくなりますから。これを皆がしていると、感染リスクは大いに減る。
藤井 日本は昔からマスクをしますからこれが感染抑止に役立ったという仮説ですね。

「全員一律八割自粛」戦略以外にも、経済を傷つけない対策はたくさんあった

藤井 ところで、感染症対策で特に大事なデータだと思っているのが、年齢階層別の死亡率の推計値のデータです。それで見ると、若年者は、死亡率は〇・一%程度ですが、高齢者になるとその五〇倍、一〇〇倍の五%や一〇%という水準になっていきます。もちろん重症化についても同様の傾向がある。中国でもイタリアでも日本でも、皆こういうデータが出されていますが、これはかなり普遍性のある傾向なんですよね?
宮沢 そうですね。今回のウイルスの大きな傾向で、例えばインフルエンザは若い子供も結構やられるんですけど、今回は子供はほとんどやられてない。まあたまに例外はありますけど、概ねほとんど影響はない。
藤井 その例外も、ひょっとすると、見つかっていない基礎疾患があったのかもしれない。
宮沢 そうですね。
藤井 今の政府は緊急事態宣言をやって、やたらと八〇%の接触を減らすべきだと言っていますが、この政府はひょっとしてとてつもないバカなんじゃないかと素朴に思いました。そもそも、「感染を広げない」というのが目的なはずですよね。だとしたら、人と人が接触をしても、その接触の仕方によって全然感染リスクは変わるわけですから、「人と会うな!」というだけじゃなくて「人と会う時にはこうしろ!」と言うべきですよね? あるいは「高齢者は危険だから特に会うな!」とかいう言い方もありますよね。そんな話をほとんど何もせずに、ただただ暴力的に「人と会うな!」って言うなんて、政府はこの国を潰す気なのかとすごく憤りを持ったんですけど、いかがですか?
宮沢 八〇%という数字は、北海道大学の西浦博教授のコンピューター・シミュレーションから出てきた数字なんですが、本来なら行動様式を変えれば計算結果も全然変わるし、年齢階層もあるし、もう色々な要因が複雑に絡み合っているので、ここはもうちょっと頭を使ってほしいと思うんですよね。
藤井 ほんとそうなんですよね。
宮沢 八〇%(接触削減)なんて、止められる(できる)わけがなくて。
藤井 自民党の二階幹事長は、八割接触減なんて「できるわけがない」って言って、ネット上で大炎上になっていましたが、ある意味正しいわけですよね。
宮沢 正しいですね、止めたらえらいことになります。

藤井 例えば基礎的な医療や食料すら、十分に回せなくなるリスクだってある。
宮沢 しかも、本当に家の中に一カ月八割の人が閉じこもって、どれだけ効果があるのかという問題もある。

藤井 おっしゃる通りです。海外のロックダウンについての検証記事なんかを見てても、その効果に疑問を呈する記事もたくさんある。一方で、高齢者は死者が多く若年者は少ない、両者の差異は数十倍から百倍以上、という傾向の存在は確実です。だから、シミュレーションで年齢階層別に感染リスク、死亡リスクを設定すれば、全く同じ接触頻度でも死者数は瞬くまに何十倍にも何十分の一にもなる。もっというと、手を洗う頻度、顔を触る頻度、一緒に食事をする頻度、換気をしている頻度等をモデルに入れれば、いくらでも結果は変わってくる。もちろん、細かすぎるシミュレーションは難しいでしょうが、理論的にいえばそうであることは確実。だから、それらを全て無視して大雑把に「八割減らせば良い」なんていう結論を導いて、それを全国民にやらせようなんて、僕には正気の沙汰には思えない。
特に、「接触機会を減らす」ことに伴う被害は何兆円、何十兆円というオーダーになって、自殺者数すら何千、何万と増えていくリスクがあるけれど、手を洗う頻度や目鼻口を触る頻度が変わったところ、誰も損しないし、誰も死なない。

宮沢 そうなんですよ。その通りです。
藤井 にもかかわらず、最も被害が大きな「接触頻度」を政策目標に掲げて、それを八割削れということにするなんて、どういう了見だと大変に深い憤りを感じました。それと同時に、その理不尽な政府要請によって苦しめられる国民を思うと、悲しくて悲しくて、なんともやりきれない気持ちになりました。

感染症・医学の専門家たちの「事なかれ主義」発言で、経済社会が激しく傷ついている

藤井 さらにね、これ僕もう本当に怒髪天を衝く勢いで憤ったのは、西浦先生たち専門家の数値計算のいい加減さです。ちょっと一般の方には分かりにくいかもしれませんけれど、我々理系の人間にしてみれば、「べき乗」の数値が少し違うだけで、結果が全く変わってくるなんてことは、常識中の常識じゃないですか。
宮沢 そうそうそう(笑)。
藤井 だから基本再生産数っていうのは、方程式において「べき乗」のパラメータですから、その想定が少し違うだけで、結論が全く異なったモノになるなんてことは、感染症の専門であろうがなかろうが、理系の研究者だったら、誰だって当たり前のように分かる話です。
宮沢 それをちょっと変えるだけでずいぶん変わってきますよね。それをね、またさっき言ったように、接触を八割減らせってそんな単純な問題じゃない。
藤井 そうです、そうです。そもそも、八割減らせという結論は、そのべき乗のパラメータを「二・五」という、WHOが設定している「最も高い値」を使った場合のものなんですよね。でもそんな水準である可能性は万に一つもない。だってそれって、欧州の中でも特に高かったケースの数値で、かつ、さっきも話題に上りましたが、日本は欧州よりも圧倒的に感染速度が遅いんですから、馬鹿が考えても二・五なんて値はあり得ないということは分かるはずです。
宮沢 安全側の議論として、例えば極端に二・五を想定したら八割減が必要だという結論が出るんだと西浦先生は言ってるだけだともいえるのかなと……だからそれをどう解釈するかはまた総理大臣の判断だともいえるかと。
藤井 ただ、僕は政府の皆さんと参与時代に一緒に仕事してきましたので分かりますけれど、政治家というのは、よほどかみ砕いて説明しないと何も理解してもらえないものなんです。仮に西浦教授たちの助言を総理大臣が誤解したのだとしても、誤解させた結果、経済が大打撃を受けることになったわけですから、総理大臣を誤解させてしまった罪は重い。特に、内閣官房の参与としてそうした仕事に日々携わっていた当方からすると、学者としてあまりにも配慮の足りない無責任な振る舞いだと感じます。
宮沢 ただ、理解されないのは総理大臣だけじゃないんですよね、結構なちゃんとした知識人とか、お医者様とかもあまり理解されてないところがあって。
藤井 確かにそうですね。テレビ見てますと、本当に腹立たしいことが多い。特に、最近よくTVに出てくるお医者さんたちの物言いに憤りを感じることが多い。なぜかというと、要するに彼らは「国民を救おう」と思って言葉を選んでるんじゃなくて、「今ここで自分が非難されないようにするにはどうしたらいいのか」っていう基準だけで言葉を選んでいるっていうのが、見え見えなんですよね。例えば、「こうして大丈夫ですか?」と聞かれれば、九九・九九九%大丈夫なことでも、「いや、絶対大丈夫とは言えません」なんて答える医者が多い。そんなことがTVで繰り返されているから、普通の社会生活がどんどんどんどん、できなくなっていってしまってるんです。
宮沢 そうそう、そうなんですよ。
藤井 例えば若くて基礎疾患がなければほとんど死ぬことはないですよね、なんて言うと、「そんなことは言えません!」なんて言う。こちらは絶対死なないって言ってるんじゃなくて、「ほとんど死ぬことはない」と言っているだけなのに、「コロナを侮ってはいけません」みたいに説教臭いことを言われる。でも、若年層と高齢者で五〇倍一〇〇倍と致死率が違うってことがデータ上明らかなんだから、そこの違いはちゃんと言語表現しろよ、って思うんです。
宮沢 だから結局あれですよね、外に出たら交通事故に遭うかもしれないから外に出ない方がいいですよね、っていう話ですよね。
藤井 それと同じですね。これも宮沢先生とご相談しながら、我々で行ったシミュレーションでもね、六十歳以上だけ完璧な予防対策ができれば、それだけで死者数は二・六%に圧縮できるっていう結果が出てるんです。国民を慮るんだったら、こういう計算結果に基づいて、高齢者の保護を徹底的に主張するっていうような医者がTVに出てくるべきなのに、ほとんど出てこない。

現場の医者は素晴らしいが、政府の感染症「対策」は、驚くほど稚拙である

宮沢 あと今ややこしいことは、感染者を全部入院させてたり、隔離してるでしょ。これが医療現場を大きく圧迫している。なおかつ、ECMO(体外式膜型人工肺)にもあまり期待するのもいかがなものかと思います。ECMOでやっても助からない方も多いし、仮に助かっても後遺症が残る。
藤井 しかも、ECMOのためにスタッフが一〇人とか二〇人とか必要になる。
宮沢 それをやるんだったら、限りある医療スタッフを、中等度で助かりそうな人を中心として対応してもらった方が、より多くの命が助かる。だから今回のウイルス騒動を見ていて、僕もなんか、なんでこんなことになっちゃっているのかと思います。
藤井 僕、もうちょっと日本の感染症対策はもっとちゃんとしてるのかと思ってたんですけど、現実は当方がイメージしてたものよりも遙かに稚拙でびっくりしました。現場の医師の水準は世界的に見て凄まじく高いようなのですが、感染症対策の「行政」が惨いと感じました。
宮沢 ちっちゃいところばっかり見てて、それで大きいところを見られてなくて、もろとも死んでしまうみたいな。
藤井 そうですよね……。
宮沢 ちっちゃいところを一生懸命ケアしよう、ケアしようとしているうちに、全体がやられてしまうような感じですよね。そもそもこのウイルス、そんなに大きなインパクトはないものなんです。
藤井 もっと強毒のウイルスっていうのもあるわけですね。
宮沢 そうです。例えば昔のスペイン風邪もそうですし、明治時代とかは結核が流行ってたわけですよ。昔は毎年一〇万人当たり二〇〇人から二五〇人ぐらい死んでたわけですよ。そうすると今の人口に合わせると二〇万から三〇万人毎年死んでた。それでも社会システムは普通に動いてたんですよね。なのに、今回数万人が死ぬかもっていうことで、こんなに社会が混乱してるのは、なんなんだろうと思います。今までの最強のウイルスだとか最強の病原体だとか人類初めてだとか、全然(噓)ですよ。
藤井 そんなことあり得ないですよね。十四世紀のペストのパンデミックでは、世界人口の四分の一が死んだといわれてますから、それに比べれば最強だなんて絶対いえないですよね。

宮沢 この程度でシステムが崩壊する、ってことは、結局これまで作ってきた社会っていうのは、本当に脆弱で、強靱性(レジリエンス)がものすごく低いものだったんだなと。
まあ東京一極集中もそうなんだけど、電気に頼りすぎている生活とか、金融システムが(実体経済からはずれて)コンピューターで制御されているとか、そういうのでレジリエンスが下がっているので、今回それが露呈しちゃったなと。本当にこの程度で混乱するっていうのは、情けない。後々にきちんと検証しなきゃいけないですよね。
で、政府や社会の対応といえば、細かなところにいきすぎちゃって、全体を見ない。例えば今回でいうと直接死ばっかり考えてて、例えば今回医療崩壊したら、がんの人も助からなくなってくるわけですよね。経済崩壊で自殺者も増える。それを全部包括的に考えて、どれをどうすれば一番最適に最小化できるのかっていうことを考えないといけないのに、そんな話を全て度外視して、コロナウイルスの感染抑止だけ考える状況にある。

感染症対策にはリスクマネジメントや獣医学、衛生学の「マクロ」の視点が不可欠

藤井 さらにいうと、「人口ピラミッド」(年齢階層別人口の棒グラフ)という概念がありますが、昔は「ピラミッド型」だったのが、今はだんだん「逆ピラミッド」になってきた、って小学校でも習いますけど、なんでかつてそうだったのかっていうと、高齢者の方が亡くなる確率が今よりもかつての方が高かったからです。ということは、この新型コロナが流行したら、逆ピラミッド型の人口分布が、かつてのピラミッド型に「若干近づく」ということになるわけです。高齢者の数%から一割程度が亡くなる一方で、五十歳以下はほとんど死なないわけですから。
宮沢 今回は、これから次代を担っていく若い人たちにはそんなに影響がないっていうのは不幸中の幸いで。これは私からしたら乗り越えられる(ものです)。
藤井 もちろん高齢者の命も大切ですから、そこだけめちゃくちゃプロテクトすれば、ほぼ全員の命をコロナから守れる、っていうことになる。
宮沢 そうです、そうです。

藤井 それで若い人たちの間でゆっくりと感染が広がっていってしまう状況になって、で、抗体の有効性が期待できるなら、いわゆる集団免疫が形成されていけば、早晩、再生産数が一を下回って、自粛など何もしないままに感染が収束することになる。
宮沢 だから、高齢者を保護しながら、若い人を街に出させた方が、早く収束するんじゃないかっていう可能性もある。

藤井 もちろんそれで人工呼吸器が必要な方が出てくれば、そういう方たちを手厚く治療していくことが必要です。残念ながらそれで亡くなる方も出てくるかもしれませんが、交通事故で若い方が毎日亡くなっているのも事実。にもかかわらず、自動車社会をそのまま放置しているのが我が国なわけですから、そういうリスクとのバランスも勘案しながら、コロナ対策を考えていかないといけない。
そう考えると、リスクマネジメントをやる人が医学の人の意見を聞いて全体のトータルを考えたり、あるいは宮沢先生のように獣医学・ウイルス学を「マクロ」な視点から研究されている方の意見を重視するとか、そういう視点が不可欠だと思います。

宮沢 そうですね。よく宮沢は医者じゃないんだから黙っとけとか言う人がいるんだけど。
藤井 そもそも僕らだってホモサピエンスという「獣」ですからね。
宮沢 そうです(笑)。そもそも今回のウイルスだって、人獣共通感染症なんですね、動物から来る。これはお医者さんの領域っていうよりは獣医の領域。僕も実は公衆衛生学も教えてたんです。
藤井 なるほど。実は我々の「土木工学」の中にも「公衆衛生工学」って分野があるんです。医学系の公衆衛生学は「人間」から衛生を語る一方で、我々は、都市空間から衛生を語るっていう意味での差はありますが、双方とも同じ問題を扱ってるわけで、そういう意味では非常に近いですね。

コロナ禍は、不真面目な政治・世論による「人災」である

藤井 これから政策として、先生、どうされるのがいいと思われますか?
宮沢 ちょっと悲観的になっちゃってるんです、僕は。今までの状況を見てると、やっぱりもう駄目だなって。けど、それを言うと皆さん、「宮沢には明るい未来を描いてほしい」って言うんですが、ここ一月から四月までの動き、政府の動きとか、国民、一般の方々の動きを見てると、かなり悲観的にならざるを得ない。
藤井 そうですね、その気分は僕にも濃厚にあります。だからある意味、そういう意味では人災ですよね。
宮沢 人災ですよね。

藤井 だって例えば私どもがまとめたレポート(京都大学レジリエンス実践ユニット「リスク・マネジメントに基づく『新型コロナウイルス対策』の提案」)での提案を真面目に政府がやれば、死ぬ方っていうのは一%ぐらいに抑えられるんだけど、どうやら政府はそういうまっとうな対策を目指そうという気配はない。
宮沢 もちろん、「最適解」を見つけるのに色々と試行錯誤はせんといかんでしょうけど、そこを「目指す」ことはできますよね。でも最適解を見つける努力をしてないですよね。

藤井 しかも、「目鼻口を触らない」ってのと「換気する」ってこと、そして、話す時はマスクするってことを徹底すれば、経済を全く傷つけずに感染者を減らすことができる。しかも、高齢者や基礎疾患者など、特に弱い方の予防をもっと強化すれば死者数も激減する。そういう努力をなすべきだとどれだけ言っても、政府は全然動かない。一般の人の中にも「そんなの無理だよ」って言い出す。
でもそんなの絶対できます。これだけ皆が手洗いするようになったのは、朝から晩までTVで手を洗いましょう、って言い続けたからです。だったらそれと同じように「鼻と口は触らないようにしましょう」ってPRしまくれば状況は絶対変わります。高齢者の保護だって「そんなの現実的じゃない」って言う人が多いけど、今よりも高齢者を「相対的」に保護していく現実的方法なんて何十何百何千とある。でも、その努力を全然やろうとしないんで「無理だ、無理だ」って言うのを見てると、勉強する前から諦めてだらだらゲームばっかやって全然勉強しないダメな子供を相手にしているような気分になる。ホント、大人になっても人間ってここまで馬鹿なんだなぁと心底残念に思います。

宮沢 だいたい、基本的な感染がどうやって起こるかっていうのを皆分かってないんです。手洗いだって一〇秒ぐらいでもいい。石鹸でやればそれはベストですけど、それがイヤなら水だけでもいい。ウイルスが一個付いたところで感染しないんですよ。仮に手に一〇〇万個付いてたとしても、一〇秒ぐらい洗ったら一〇〇万個が一万個ぐらいになりますよ。
藤井 つまり、「一〇〇%の安全」を目指すんじゃなくて、できるだけ感染しないように努力を積み重ねましょう、っていう話ですよね。そもそも、ちょっとくらいならウイルスが入ってきても、免疫システムがあるからそれだけでは罹患しない。そもそも私たちの体の中では常に、私たちの免疫システムがいろんなウイルスとせめぎ合っているわけです。

宮沢 仮にウイルスが鼻から入っても、肺まで行くまでいろんな障壁がある。だから絶対とはいわないですけど(鼻や口から)ウイルスが入ってきても、それが微量だったのならほぼほぼ大丈夫です。ビビってたら世の中生きていけへんよって。
だからちょっとした工夫をすれば、感染も経済も何とかなるのにって思います。

藤井 ホントおっしゃる通りです。でも、政治家はそういう発想になっていかないんですが……。なんでそうなるのかっていうと、結局、政治家のほとんどが結局は真面目に仕事してないからなんです。そもそも僕は大衆社会論とか社会心理学の研究を二十年以上やってるんですけど、そういう学問が教えてくれるのは、いかに多くの人々が本来の目的ではなく、目先の空気や利益に左右されて振る舞っているか、っていう悲しい現実。現政権はいうに及ばず、今俄に人気が出始めている東京や大阪の知事たちにしても、結局コロナや不況から人々を守ろうなんて本気で思っちゃいないっていうのがよく分かります。彼らの言動を見ていれば、単なるスタンドプレーで、大衆の人気取りのために動いているようにしか思えない。だってコロナ禍前に病院や保健所を弱体化させてきた事実や、都合の悪いデータを隠蔽したりしている事実を見てれば、その不真面目さは明らかだと僕は思います。
宮沢 結局、国民の方を向いてないんですよね。自分が責任かぶらんようにはどうかとか、人気取るためにはどうかとか、次の再選がどうとか、そういうことを考えておられるのが見て取れますよね。
藤井 だからこの危機の時だからこそ、一体誰が噓つきだったのか、どっちの方向を向いて研究してたのか、とかってことが、皆はっきりと見えてくるんでしょうね。
(以下、質問コーナー)

「死生観」の歪みが、リスク「ゼロ」をヒステリックに求める態度を生み出している

柴山 重症化率、死亡率はとても低く、若年層に限ってもほぼゼロということですが、でも世間の人からするとゼロじゃなくて「ほぼ」ゼロってことで、死ぬこともある、というふうに考えて、恐れてる人が多い。それについてはどう考えたらいいでしょうね。
藤井 そこは、ある種の「胆力」が必要なんでしょうね。死ぬかもしれないということを、最悪の場合死ぬということを受け入れるための。
宮沢 僕はもう二月の初めぐらいに、もうこれは、正しく受けるしかない、って思ってました。
藤井 なるほど、いわば自分のこととしていうなら、半ば死んでもしょうがないって考えたということですね。
宮沢 そうです、これはもうしょうがない。
藤井 例えばこの部屋の誰かが感染してるかもしれないし、マスクもしてるし、換気してはいますけど、それでも感染リスクはほぼゼロではあるけど完璧にゼロってわけじゃない。そんなことを分かりながらも、別に僕たちはパニックにならずにここで話してるわけです。
宮沢 そうそう。このウイルスには絶対罹らないようにしましょうとか、逃げましょうとか言うけど、絶対逃げられないんですよ。順番に罹っていって、ある程度の感染率までいかないと落ち着かないとすれば、もうこれはどんと構えるしかない。「来るなら来い、来たらもう寝るだけやから俺」って話です。
藤井 そうそう、僕も全く同じ気分です。罹らないように努力はするけれど、罹ってしまったら後はもう自分の抗体で何とか気合いで頑張るしかしょうがない、って思ってます。
宮沢 それで運悪く死んじゃったらそれは僕の運命やし、それも魂の修行かなって感じで、極楽浄土に行けるならまあええかなっていう。

死に対する「諦念」があって初めて、感染症対策が科学的で合理的になる

藤井 ホントそうですよね。しかも、そういうふうな宗教的ともいえる諦めの境地を心の中に持っていれば、逆説的ですが意外と「科学的」にもなれます。絶対罹らないっていう無理な目標を立てると極端なことでもやらない限り絶対無駄になりますが、「死ぬときは死ぬし、もうしょうがない」という諦念・諦観があれば「リスクを下げよう」というマイルドな目標を落ち着いて立てることができます。そしてそうなれば、様々なリスク低減にとって合理的な対策を粛々と実施していくことが可能となりますものね。今の政府や世論に科学的、合理的な提案が響かないのは、きっとここに原因があるんでしょうね。要するに皆、絶対罹りたくないっていう無理な目標を立ててるから、科学的になれないんですよね。
宮沢 昔の本とかを読んでると分かるんですけど、結核が流行っていた時に、昔の人たちは、結核に罹ってて体が満足に動けないのに文学やってたり、胆力があったわけですよ。
藤井 そのうち死にますから、我々ね。僕がうつりたくないのは、僕の母親がうつって死ぬのは避けたいと思うし、母親を殺す権利は僕にはないと思うし、そのためには最善を尽くそうと思う。だけど、どれだけ必死に感染しないようにしても、それでもうつるリスクはある。それは残念なことだけど、しょうがない。ゼロリスクは不可能だからです。
宮沢 最善を尽くしてだめだったら受け入れるしかないんですよ。僕の父親も、両親ともに施設に入っていて、この前三八度超えててもう苦しそうだったから、これコロナやなと思って、これはもう会えなくてお別れかなと思ってたんですけど、幸いにして治ったんですけど、その時はその時ですよ。お父さんごめんなさいって感じで。
藤井 毎日ちゃんと、こう、お父さんお母さん大切にして。
宮沢 普段からね。いつ別れが来るかどうか分からないし、それは運命なので。ちょっとね、日本人の死生観にも関わってくると思うんですけど、昔から煩悩が変わってないなと思うんですよ。これは人間避けられないものなので、やっぱりこれはしょうがないよねって、こういうウイルスできちゃったんだから、逃げまどってパニックになるのは実に愚かで。
藤井 もう武漢で一人目の感染者が出た「前の日」には、私たちは戻れない。コロナウイルスがあるっていう前提で、これからの人生を生きていかないといけないわけです。それがどれだけ怖かろうがそうでなかろうが、それを前提にしなきゃいけない。

新型コロナウイルスは、少々肺炎になりやすい「風邪」ではないか?

川端 新型コロナウイルスはインフルエンザと比較することもありますが、やはり、肺炎と比べるとまた意味が違ってくるように思うんです。肺炎ってもともと重い病気で、発症するとだいたい十何%が死ぬと聞きました。今回コロナウイルスに罹っても、風邪症状みたいなので終わる場合もあれば、肺炎に進展する場合もあって、問題はその肺炎の方だと思うんですよね。もともと肺炎で一二万人年間で死んでいて、今日一日でだいたい二~三〇〇人は死ぬわけですよね。肺炎との対比で新型コロナウイルスを評価したらどうなりますか?
宮沢 肺炎で一二万人死んでるんですけど、新型肺炎でこれからお亡くなりになる人は、今のところ千人未満ですが、数千人、僕は悪くて一万人とか二万人と見てます。そうだとすると、肺炎死者数が一二万人から一三万人や一四万人に増えるということになりますが、そうなったとしても、インパクトはそれほどないということになる。もちろん、これからもっともっと増えれば話は別ですが、そうでない限り、僕が考える最悪のケースでも、ちょっとなんか違う病気が流行って、肺炎でたくさんの人が死んだな、程度のインパクトになるのだと思います。
浜崎 今回新型コロナっていってますけど、コロナウイルス自体はあったわけですよね。今回新型がついて、それにみんな集中というか注目をして怖がっているっていうことの、原理というか理屈っていうのは、単にワクチンがないというだけなんですか。
宮沢 なんなんでしょうね。ワクチンがない病気なんて山ほどあるし。
藤井 風邪って完璧な治療薬があってそれで治るっていう病気じゃないですよね。
宮沢 治らないです、普通の風邪でも死んでますから。
藤井 新型コロナウイルスは、肺炎の症状が特殊だということなんでしょうか。
宮沢 そういう人もいるということなんですよね。じゃあこれまでのコロナでなかったんですかって言われると、そんなことはないんじゃないかと。今回のSARS─CoV─2ですけど、ACE2っていう受容体を使っているけども、今までの風邪のコロナでも、いろんな風邪のコロナがあるんですけど、ACE2を使ってるコロナもあるので、同じような症状が起こっていてもおかしくなかったけど、今まで無視されてきたわけです。今まで風邪のコロナウイルスって、ワクチン作ってたんですかっていったら作ってない。
浜崎 じゃあなぜ今コロナウイルスだけがここまで注目されて、不条理なほどの騒ぎを起こしているのか、何か理屈はあるんですか。
宮沢 まず最初に、名前がSARS─CoV─2っていうので、SARSというのに引っ張られちゃってるのかもしれないですね、怖い怖いって。私も分からない。普通にピュアな心でこのウイルスを眺めたとしたら、そんなに恐れおののき逃げまどうようなものでもない。
藤井 ただ武漢のデータを見ますと、ピークの時には一日当たり一五〇人から一七〇人ずつぐらい死んでいた。武漢くらいのサイズの街なら、仮に日本と同じ密度で肺炎死があるとすれば、一日多くても肺炎死者数って四〇人か五〇人くらいでしょうから、それに比べると、肺炎死が多いなぁ、ということにはなっていたのかと思います。ただ、インフルエンザが武漢で大流行した時にはピーク時では、同じくらいの肺炎死者数が出ていたでしょうけれど。
川端 この新型コロナは肺炎が起こりやすいとはいえるんでしょうか。
宮沢 起こりやすいんでしょうね。逆にですね、風邪症状がなくても肺炎になっているというよく分からないことが起きている。肺炎になりやすく、それは注意しないといけないんですけど、それでも結局は一部の人にとってのことだと思います。
藤井 なるほど。この新型コロナウイルスについて最も恐ろしい側面である「肺炎」について考えてみても、一体我々は何に怯えてるんだろうっていうふうに思えてきますね。今回はお話、ありがとうございました。

※本記事は、4月10日に収録した以下の対談動画をテキスト化の上、再構成したものです。
https://www.youtube.com/watch?v=oQf9KQL4sVg
https://www.youtube.com/watch?v=xe3qSPpcFCc

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