企業担当者が知っておくべき海外駐在員の個人所得税申告について【ベトナム編】#2 AAA Consulting
※2022年3月3日「YJ STYLE( https://yjstyle.jp/)」にて下記の情報を公開。
アジア諸国の中でも人件費が安く、生産コストが抑えられることもあって、多くの日系企業が進出しているベトナム。日本人駐在員を送り込み、現地でのリサーチや市場開拓によってビジネス拡大を狙う企業は多い。しかし意外に知られていないのが、外国人への個人所得税申告に関するルールだ。
特にベトナムは、外国人への税金に関する取り締まりが厳しい国の一つのため、企業の担当者は事前にしっかりと情報収集や専門家に相談しておくことが大切だと言われている。
前回は、「企業担当者が知っておくべき海外駐在員の個人所得税申告」についてベトナムの税務申告や駐在員の所得税申告支援などを行う専門家である「AAA Consulting」代表の今森さんに話を聞いた。
今回は、引き続き今森さんに、誤解しやすいベトナムでの税制ルールで、担当者が気をつけるべき点ついて聞く。
前回の「企業担当者が知っておくべき海外駐在員の個人所得税申告について〜ベトナム編〜」では、簡単にまとめると下記3つのポイントをお伝えしました。
ベトナムでの個人所得税3つのポイントおさらい
ポイント1: 個人所得税の申告は1回ではない
個人所得税は基本的に毎月申告・納税が必要であり、それに加えて日本で支払われている給与や、「毎日の源泉徴収額」と「四半期の納税額」との合計と比較した年額との違いなども申告をする必要があります。
ポイント2:外国人への厳しい取り締まり
ベトナムでは、外国人への取り締まりが厳しいため、税制ルールをしっかりと把握し、対応していないと、税務調査でペナルティーを課せられる可能性があります。
ポイント3: 課税ルールについての注意点
ベトナムでは、「居住者」か「非居住者」かで課税ルールがかなり違いますので、事前にそれらに関する取り決めなどを調べ、注意しておく必要があります。
ベトナム赴任者の納税開始時期は?
ベトナムへ赴任する方は、ベトナム居住者として課税ルールが適応されますが、混乱しやすいのが、一体いつから納税の義務が発生するかということかもしれません。
基本的には、最初にベトナムに入国した日とされていて、1日でもベトナムで働いた場合は納税義務がそこから発生することになります。
もし、ベトナム企業のみから給料をもらうという場合は、現地での勤務開始初日や、まだ会社を設立していない時に入国しているなどの場合、法人設立日もしくは駐在員事務所の設立日を納税の開始日とすることが多いのが現状です。
しかし、一般的には日本の親会社からも給料の支払いがあるケースが多く、その場合は、パスポートのデータを税務局に提出するため、ベトナム入国日から納税を計算するということになります。
一方で、過去の事例としては、出張で何度もベトナムを訪れた後に駐在員としてベトナムの居住者となった人が、正式な赴任日を納税開始の日として申告していた際、税務調査で指摘を受け赴任前の出張についても納税時期に含めるよう指摘をされたというケースもあります。
社員などを赴任させる場合は、そういう過去の事例などがあることもふまえて様々なことを進めていく必要があります。
非居住者でもベトナムでの勤務には納税義務がある
ベトナムへの赴任ともなれば、事前に何度かベトナムに入国し、業務のための様々な準備や市場調査などをおこなうことも少なくありません。しかしそれらの場合、まだ「居住者」ではないので納税義務はないと考えがちです。
以前はベトナムに滞在した出張者も、申告や納税をすることなくそのまま指摘されない場合もありましたが、最近はベトナムでも税務調査で出張者リストを要求されたり、日本側と連携をしている場合もあり、指摘を受けるリスクが昔よりも格段に高まってきています。
また、法人の代表者に対しては、特に税務調査が厳しくなりがちなため、適切に対応する必要があります。
しかし非居住者でも納税の義務が発生してしまうベトナムでは、一定の要件を満たせば、免税を申請することができるのです。
例えば、滞在の期間が183日未満であったり、給与や報酬がベトナムの現地法人やベトナム国内の施設から支払いをされていない場合は、「短期滞在者免税」というものを申請することができます。
免税の申請のためには、様々な書類を準備しなければならず負担は少なくない一方で、将来的に税務調査で免税適用の条件をクリアしていないということで、罰金などが課されるケースが発生しています。
そのような状況に陥らないためにも、担当者は事前に専門家に相談しながら進めていくのがおすすめです。
経費や手当に課税されるリスク
会社から駐在員として現地に派遣されているとなれば、様々な手当などが支給されていることが多いですが、例えば赴任の際の引っ越し手当や各種必要書類の取得費用などについても、社内規定や労働契約書に会社が費用を負担することについて記載されていなければなりません。万が一、明記されていない場合は、給与所得とみなされて課税されていまうリスクがあるからです。
また、経費精算のために領収書が必要なのは日本も同じですが、ベトナムでは公式な領収書でないと、経費自体が個人に対する所得とみなされてしまい、個人所得税として課税されてしまう可能性があります。
そして、個人所得税においては、海外出張などで使った経費に関する領収書も、すべてベトナム語に翻訳する必要があります。
まとめ
2回にわたってベトナムでの個人所得税申告についてお伝えしてきました。ベトナムでは税制に関するルールが、度々変更になり、最新の課税に関する取り決めを常に企業の担当者が把握し続けることが難しい状況にあります。
また、外国人への税務調査も厳しくおこなわれているため、後になって追徴課税や罰金などを支払うなどという状況にならないためにも、やはり事前に専門家に相談しながら丁寧に対応していくことが重要かと思います。
また、今回お伝えした内容は、2022年3月現在のものとなります。ベトナムの税制については、よく変更がなされるため、最新の情報に基づいて対応をすることが大切です。