低降伏点鋼を利用した 免震用フェイルセーフ制動装置の性能を実証  - 想定を超える巨大地震から免震建築物の安全を守る -

2024-05-30 11:15

安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:国谷 一彦)は、株式会社川金コアテック(本社:埼玉県川口市、代表取締役社長:鈴木 信吉)および平和発條株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:春木 博之)と共同で、南海トラフ地震等の巨大地震時に免震構造の建築物の安全性をより確実なものとするため、フェイルセーフ制動装置の性能を実証しました。

写真1:フェイルセーフ制動装置の性能実証実験の様子
  1. 開発の背景
    南海トラフ地震等の巨大地震が発生すると免震建築物は、長時間続く長周期地震動により、免震支承や減衰ダンパーが大変形を繰り返すと予想されます。それに伴い、これらのエネルギー吸収性能が低下するため、免震支承の変形が設計で想定した範囲を超え、上部構造が免震層周囲の擁壁に衝突する等のリスクが高まります。
    2017年4月以降、関東、静岡、中京、および大阪地域で新築する免震建築物は、国土交通省の技術的助言(注1)により、南海トラフ沿いで発生するとされている巨大地震の影響を考慮して安全性の検証を行うことが求められています。
    巨大地震に対応する技術としては以下の方法等が考えられます。

・擁壁と上部構造の間隔(免震クリアランス)を拡大
・減衰ダンパーを多く設置して、上部構造の水平変位を抑制

前者は建設コストの増加や建築容積の低下につながり、後者は上部構造の応答加速度が増加するため、建築基準法等で考慮すべき地震(設計範囲)における免震性能の低下をまねきます。これらの問題を解決するため、フェイルセーフ制動装置の開発に取り組んでいます(図1)。

図1:巨大地震を考慮しない免震構造と免震フェイルセーフ構造
  1. フェイルセーフ制動装置の概要
    フェイルセーフ制動装置(図2)は設計範囲を超える巨大地震が生じると、過大となった上部構造の水平変位にブレーキをかける(制動する)革新的な装置で、以下の特徴を有しています。

・免震クリアランスを拡大することなく、巨大地震対策が可能です。
・設計で考慮している地震動の免震性能に影響しません。
・制動力には、低降伏点鋼の塑性変形(注2)による力を利用しており、高いエネルギー吸収能力を有します。これにより、上部構造の損傷を最小限に留めます。
・シンプルな構造を採用しているため、長期間の使用に耐えることができます。
・免震用オイルダンパーと取付け部の形状が同じなので、施工が容易です。

図2:フェイルセーフ制動装置の概要
  1. 実大免震試験機E-Isolationにて大地震時の性能を実証
    2024年2月には、一般財団法人免震研究推進機構が保有する実大免震試験機E-Isolationを用いて、フェイルセーフ制動装置の性能実証実験を行いました(写真1)。E-Isolationは、実際の地震で作用する荷重や速度で免震支承や減衰ダンパーの試験が可能な国内初の施設として2023年6月に運用を開始し、民間の開発利用としては今回が初の取り組みとなります。
    実証実験により、想定した免震建築物の免震クリアランス60cmに対し、設計範囲(無感区間)の水平変位±50cmでは制動力が生じることなく、上部構造の免震性能に影響しないことを確認しました。一方、巨大地震では約10cmの制動区間内で上部構造の擁壁衝突を回避し、その際、高いエネルギー吸収能力を伴う約1000kNの制動力で、速やかに制動することを実証しました(図3)。

今後は新築および既設の免震建築物に本装置の幅広い適用を図り、免震建築物の巨大地震に対する安心、安全の向上に取り組んでいきます。

図3:フェイルセーフ制動装置の復元力特性

(注1)国土交通省の技術的助言
平成28年6月24日 国住指第1111号
「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震対策について」
(注2)低降伏点鋼の塑性変形
塑性変形とは鋼材に力を加えて変形させた際、力を除いても元の長さに戻らなくなる変形ことで、低降伏点鋼は塑性変形性能に特に優れた材料です。

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