世界初!切除不能な中期肝がんに対する新たな治療法を開発 先行した免疫療法と根治治療で中期肝がん患者の35%を治癒

アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)
アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室主任教授 工藤 正俊を中心とする研究チームは、国内6施設と香港1施設との共同研究において、切除不能な中期進行肝がん患者を治癒に導く新規治療法を世界で初めて開発しました。研究チームは、アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)という2種類の薬剤を用い、腫瘍が縮小した症例は切除等で根治させることができ、また、縮小しなかった場合も肝動脈塞栓療法(TACE)を複合免疫療法と併用することで、TACEで狙ったがんのみでなく、その他の部位に存在するがんも治癒に導けることを証明しました(Atezolizumab plus Bevacizumab followed by Curative Conversion治療:ABCコンバージョン治療)。
本研究成果は、将来的に、中期進行肝がん患者に対する世界的な標準治療法になることが期待されます。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)4月14日(金)AM0:00(日本時間)に、肝細胞がんの最高峰の国際的学術誌"Liver Cancer"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●切除できない中期進行肝がんに対して先行して複合免疫療法を行い、腫瘍縮小効果が得られた時に根治治療を行う新たな治療法を、世界で初めて開発
●免疫療法での縮小効果の有無に関わらず、根治療法との併用で治癒が得られることを証明
●本研究成果が、将来的に中期進行肝がん患者に対する標準治療法になると期待

【本件の背景】
中期進行肝がんでは、カテーテルで抗がん剤と塞栓物質※1 を注入してがん細胞の増殖を抑えるTACEという治療法が一般的と言われていますが、近畿大学医学部を中心とする研究チームが令和元年(2019年)にTACEの効果が期待できない病態を初めて提唱し、日本の肝癌診療ガイドラインに掲載したことで、その後、ヨーロッパや米国にもその概念が取り入れられるようになりました。現在、TACE不適の患者に対する新規治療法開発が、世界的に緊急の課題となっています。
肝がんの治療薬としては、長い間ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)やレンバチニブ(商品名:レンビマ)が用いられてきましたが、令和2年(2020年)にアテゾリズマブとベバシズマブという、免疫チェックポイント阻害剤を併用する治療法が保険承認となり、進行肝がんを中心に多数の患者に使用が開始されました。本研究チームの主任研究者である近畿大学医学部内科学教室主任教授 工藤 正俊は、アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法が、進行肝がんだけでなく、TACE不適の中期進行肝がんの患者にも適応でき、その治療効果により腫瘍が縮小した段階で切除・ラジオ波※2 等の治療に踏み切ることで、完全に治癒できるのではないか、という仮説をたてました。また、腫瘍が縮小しない場合も、TACEを加えることで腫瘍壊死だけでなく腫瘍抗原が放出され、その後の免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)により、免疫作用が賦活されることで根治が得られるのではないか、という仮説もたてました。

【本件の内容】
近畿大学医学部を中心に、長崎大学、徳島大学、武蔵野赤十字病院、高松赤十字病院、秀和総合病院、岩手医科大学、香港中文大学の7施設で構成された研究チームは、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法で腫瘍の縮小効果が得られた後に切除を行う治療法で、中期進行肝がんを完全に治癒できる場合があることを証明しました。また、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法で縮小効果が得られなかった患者にも、併用して選択的TACEを行うことで、腫瘍壊死と免疫賦活効果を得ることにより、完全治癒を目指す新規治療概念の立証試験を行いました。その結果、7施設の中期進行肝がん110症例中、免疫療法後の切除、ラジオ波もしくは免疫療法と選択的TACEを併用し38例(35%)が根治、このうち薬物治療を終了しても再発のない患者は25例(23%)となりました。
本研究成果は、予後が極めて不良であるとされてきた中期進行肝がんにも治癒をもたらす可能性のある画期的な治療法であり、今後、中期進行肝がん患者に対する標準治療法になると期待されます。

【論文概要】
掲載誌:Liver Cancer(インパクトファクター:12.43@2022)
論文名:Achievement of Complete Response and Drug-free Status by Atezolizumab Plus Bevacizumab Combined with or without Curative Conversion in Patients with Transarterial Chemoembolization-Unsuitable, Intermediate-stage Hepatocellular Carcinoma: A Multicenter
(中期ステージ肝細胞がんかつ肝動脈塞栓療法不適患者に対してのアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用免疫療法先行・根治治療導入療法による完全治癒の達成:多施設共同、新規概念実証試験)
著者 :工藤 正俊1*、青木 智子1、上嶋 一臣1、土屋 薫2、盛田 真弘1、千品 寛和1、田北 雅弘1、萩原 智1、南 康範1、依田 広1、西田 直生志1、小川 力3、友成 哲4,、中村 典明5、黒田 英克6、武部 敦志7、竹山 宜典7、日髙 匡章8、江口 晋8、Stephen L Chan9、黒崎 雅之2、泉 並木2  * 責任著者
所属 :1 近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)、2 武蔵野赤十字病院 消化器科、3 高松赤十字病院 消化器内科、4 徳島大学大学院医歯薬学研究部消化器・腫瘍内科、5 秀和総合病院 外科、6 岩手医科大学内科学講座消化器内科分野、7 近畿大学医学部外科学教室(肝胆膵外科部門)、8 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科、9 香港中文大学

【本件の詳細】
アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法は、平成30年(2018年)~平成31年(2019年)にかけて実施された、肝臓がん臨床試験の先行研究である「IMbrave150 trial」において、中期肝がんに対して奏効率※3 44%と極めて効果が高いことが明らかになっています。アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法により腫瘍縮小が得られ、切除やアブレーション※4 および選択的TACEを用いたコンバージョン治療により、薬物治療がなくても根治できる症例が増加しています(ABCコンバージョン治療)。
今回、研究チームは、多施設共同研究においてTACE不適の基準をみたす中期肝がんを対象に、ABCコンバージョン治療の成績と適応を明らかにする目的で解析を行いました。対象は、7施設における切除不能かつTACE不適の中期肝がんにおいて、1次治療としてアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法を導入したChild-Pugh※5 Aの連続110症例としました。この110例に対して、切除やラジオ波および選択的TACEにてABCコンバージョン治療を行った症例における根治率、薬物不使用でも再発をしない割合、肝予備能※6 の維持率、PET検査陽性肝がん※7 に対する有効性、無増悪生存期間※8 、全生存期間※9 について検討しました。ABCコンバージョン治療は44例に行い、38例が根治となりました。ABCコンバージョン治療の内訳は、切除7例、アブレーション(TACE後アブレーションを行った症例を含む)13例、選択的TACE(レンバチニブ-TACE逐次治療を含む)14例であり、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法のみでmRECIST※10 の基準において腫瘍が完全に消失している症例は4例でした。このうち、薬物治療を終了しても再発がない症例は現時点で25例(観察期間中央値21.2カ月)、また、無増悪生存期間は31.8カ月で根治後に再発がみられたのは2例のみでした。全生存期間では1例も死亡例はみられず、良好な結果が得られました。ALBI grade※11 はTACEによる低下はみられず、局所治療の介入によって肝予備能は悪化しませんでした。PET検査陽性患者は7例中全例で根治し、うち4例が薬物治療を終了しても再発がない状態となりました。
結論として、切除不能かつTACE不適の中期肝がんにおいて、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法先行投与による根治率は35%であり、現時点で薬物治療を終了しても再発のない治癒した症例は23%でした。したがって、本研究成果を元に、肝外転移もなく、遠隔転移もない中期肝がんにおいて薬物治療は(たとえ効果があっても)あえて継続せず、TACEやラジオ波や切除を用いることで、再発しない治癒の達成を治療目標とすべきであると結論づけられました。

アテゾリズマブ+ベバシズマブ投与開始からの全生存期間 ABCコンバージョン治療併用群(n=38)、非併用群(n=72)。非併用群の患者、または完全奏効を得られなかった患者の観察期間中央値は18.5カ月であった。ABCコンバージョン治療併用群で完全奏効を達成した患者の死亡例はなかった。
アテゾリズマブ+ベバシズマブ投与開始からの全生存期間 ABCコンバージョン治療併用群(n=38)、非併用群(n=72)。非併用群の患者、または完全奏効を得られなかった患者の観察期間中央値は18.5カ月であった。ABCコンバージョン治療併用群で完全奏効を達成した患者の死亡例はなかった。

【研究代表者コメント】
工藤 正俊(くどう まさとし)
所属  :近畿大医学部内科学教室(消化器内科部門)
職位  :主任教授
学位  :医学博士
コメント:TACEに対して効果がないTACE不適の中期肝がんに対しては、新規の治療法の開発が待ち望まれていました。今回の我々の開発した方法は従来の常識を覆すものであり、現在、この概念検証試験の良好な結果を踏まえて医師主導無作為化比較第3相臨床試験も、私が責任者となって全国200施設でこの夏から開始の予定になっております。この臨床試験が成功すれば我々の開発したこのABCコンバージョン治療は、中期の肝がんに対しての世界の標準治療になると確信しています。

【用語解説】
※1 塞栓物質:血液の流れを止め、腫瘍への養分などの供給を断つ物質。
※2 ラジオ波:正確にはラジオ波焼灼療法。電極針を腫瘍に刺し、ラジオ波を通電して針の周囲に熱を発生させることで、腫瘍を壊死させる方法。
※3 奏効率:がんの治療において治療を実施した後に、全体集団の中でがん細胞が縮小もしくは消滅した患者の割合を示したもの。
※4 アブレーション:腫瘍を専用の針で焼く、もしくは凍らせることで、腫瘍の組織を破壊する手法。主にラジオ波、マイクロ波などがある。
※5 Child-Pugh:肝臓の残された機能(肝予備能)を評価する分類法。この評価に基づき、治療法を決定する。
※6 肝予備能:肝臓の残された機能を示す指標。
※7 PET検査陽性肝がん:PET検査で放射性物質を標識したブドウ糖が取り込まれる肝がん。一般的に悪性度が強く再発しやすいため予後が不良とされる。
※8 無増悪生存期間:治療中や治療後に、がんが進行せず安定した状態の期間。
※9 全生存期間:抗がん剤の臨床試験において、試験登録日もしくは治療開始日から生存した期間のことを示す。亡くなった原因ががんであるかどうかに関係なく、がん以外の病気や交通事故などで亡くなっても、統計上は同じ死亡として取り扱われる。
※10 mRECIST:modified RECISTの略。肝細胞がんの治療効果は他のがんとは異なり、腫瘍の縮小だけでなく腫瘍壊死でも判定できるため、腫瘍の壊死部分を計測に含めずに評価する方法。
※11 ALBI grade:肝予備能の評価で、Child-Pughに代わる分類法。総ビリルビン、アルブミンという2種類の検査データのみを用いて統計学的に評価する方法。

【関連リンク】
医学部 医学科 教授 工藤 正俊(クドウ マサトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html
医学部 医学科 特命准教授 上嶋 一臣(ウエシマ カズオミ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1540-ueshima-kazuomi.html
医学部 医学科 医学部講師 田北 雅弘(タキタ マサヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1772-takita-masahiro.html
医学部 医学科 特命准教授 萩原 智(ハギハラ サトル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1577-hagihara-satoru.html
医学部 医学科 医学部講師 南 康範(ミナミ ヤスノリ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1525-minami-yasunori.html
医学部 医学科 医学部講師 依田 広 (イダ ヒロシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1980-ida-hiroshi.html
医学部 医学科 臨床教授 西田 直生志 (ニシダ ナオシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/653-nishida-naoshi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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