[奈文研コラム]デコボコが気になる

2024-09-20 16:00
小山状に残されていた基壇の痕跡(平城宮跡第615次調査)

平らな場所など、ない。

 「お前さあ、何度も行き来しているのに、ただぼーっと歩いてただけなの?」

 今からウン十年前、先輩の研究者から言われた言葉です。
 当時私は発掘調査に出たての大学生。日々測量機材を担いで、調査の前の計測にあちらこちら、十分な知識も何も持たないまま、東京の下町で元気だけをたよりに歩き回っていました。東京低地と呼ばれるこの地域は、河川の堆積によって陸化した平らな地形が続いています。測量では、同じ場所を何度も往復して作業しますが、機械の扱いと計算結果ばかり気にしていた時に、言われたのでした。

 「見通しのよい道では、遠くまで目を凝らして、土地の起伏を見るんだ。」

 確かに、平らと思いこんできた場所でも、よくみると高い場所、低い場所があります。河川による堆積は均一ではありません。川岸の近くは堆積が厚く、僅かな高まり、微高地を生み出します。自然堤防と呼ばれるこの部分は、河川に近い湿潤な土地に住む人々にとっては住みやすい場所でした。河川から自然堤防を挟んで広がる湿地、後背湿地は肥沃な土壌が堆積し、用排水において利便性が高い点で農業生産の場として好まれることも多いようです。反面、川によりもたらされる恵みは水害の危険と引き換えでもあります。豊かさと危険、これはいつの時代にも課題になる事項です。

気付くと気になる考古学研究者

 それからというもの、少し開けた場所や、直線的な道路に出くわすと、どうも地面のデコボコが気になって仕方がありません。あそこに集落がありそうだな、ここはお城か古墳にいいな、その隣は...。とやりはじめると、正直なところ仕事を離れた骨休めの旅行であっても落ち着かなくなります。
そんな問題点?もありますが、なにげなく見ている風景から先人達の暮らしの場を考えることは、私にとって興味深く感じるのです。

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