東京大学と堀場製作所がカーボンニュートラル実現に向け 独自のアプローチで挑む  「環境調和型エネルギーシステム社会連携講座」を 4月1日に開設

~非定常な研究開発であっても的確な予測技術により 最適なエネルギーマネジメントを実現~

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(所在地:東京都文京区、研究科長 染谷 隆夫、以下「東京大学」)と株式会社堀場製作所(本社:京都市南区吉祥院宮の東町2、代表取締役社長 足立 正之、以下「堀場製作所」)は、「環境調和型エネルギーシステム社会連携講座」※1を2022年4月1日に開設しました。

世界各国で様々な施策が講じられているカーボンニュートラルの実現に向けて、LCA(ライフサイクルアセスメント)などによる環境負荷評価の重要性が増しています。こうした中でエネルギーの効率的な利用による二酸化炭素(CO2)排出量の削減が急務となっています。
本講座では、東京大学が世界に誇る「予測技術(AI)」と、堀場製作所が長年培ってきた「分析・計測技術」を掛け合わせ、研究開発現場におけるエネルギー消費量を「見える化」し、最適な利活用へと繋げる「エネルギーマネジメントシステム」の構築に取り組む共同研究を行います。複雑・多様な試験を行い、非定常に稼働する研究開発現場のエネルギー利用を最適化する独自の取り組みです。構築したシステムを事業化し、自動車をはじめとするあらゆる産業界の研究開発施設へ社会実装することにより、製品ライフサイクルにおけるエネルギーの最適利用・CO2削減に貢献します。なお、研究活動における各種実証実験は、堀場製作所のびわこ工場「HORIBA BIWAKO E- HARBOR(ホリバビワコイーハーバー)」(滋賀県大津市)内にある自動車開発の総合試験設備「E-LAB(イーラボ)」で実施します。
将来的には、仮想空間上でソフトウェアを用いたエネルギー利用のシミュレーションを行い、研究開発施設の建設における前段階から最適な設備提案を行うシステムの開発もめざします。

社会実装のイメージ図

本講座開設の背景

カーボンニュートラルの実現に向けては、電力や発電時に発生する熱といったエネルギーを最適に利用するマネジメントシステムの変革が求められています。
こうした取り組みにおいて重要な役割を担う自動車産業においても、LCA評価で要求されるように、電動車両など完成車のCO2排出量低減のみならず、原料の調達から製造、使用、廃棄、リサイクルに至るすべての段階での環境負荷低減が責務となっています。なかでも研究開発施設は、オフィスや工場など定常的に稼働する施設と異なり、非定常に実施する試験や実験の複雑・多様化によってエネルギー使用の最適化に課題があります。
これらの背景から、電力システムの研究に強みをもち、最先端の予測技術により最適な需給バランスの解明に取り組む東京大学と、自動車開発設備メーカーとしての顔を持ち現場を知り尽くすとともに、中長期経営計画「MLMAP 2023※2」においてエネルギー/環境分野でのビジネス拡大を掲げる堀場製作所が手を組み、両者の強みを掛け合わることで、研究開発現場の実態に即した革新的なエネルギーマネジメントシステムを構築する共同研究を行う運びとなりました。

共同研究を通じてめざす姿

(1)エネルギーマネジメントシステムの構築と事業化【目標:2025年】
本講座で構築したエネルギーマネジメントシステムを事業化し、自動車をはじめとする産業界の研究開発施設へと幅広く展開。カーボンニュートラルの実現に向け、CO2をはじめとした温室効果ガス(GHG)の排出を最小化した研究開発環境を提案します。

(2)サイバー空間上のシミュレーションへの発展【目標:2025年以降】
(1)で確立したシステムを応用し、仮想空間上でソフトウェアのみを用いたエネルギー利用のシミュレーションを可能とする機能へと進化。研究開発施設の建設における前段階から最適な設備提案を行うサイバーフィジカルシステム※3として、より発展的なビジネスへと展開します。

エネルギーマネジメントシステム構築に向けた具体的な取り組み

(1)研究開発の現場を想定したエネルギー消費状況の見える化
バッテリーや燃料電池、内燃機関といったユニット単体から完成車に至るまで、複合的な試験を行うことができる「E-LAB」は、自動車の研究開発現場を想定した最適な「実験場」の資質を備えています。「E-LAB」内の分析・計測装置および付帯設備の計測データを一括管理する堀場製作所のデータマネジメントシステム「STARS Enterprise(スターズエンタープライズ)」と、東京大学の予測技術を掛け合わせ、CO2排出量や電力使用量、設備発熱量などのデータを効率よく「見える化」します。

(2)最新の技術動向に適合するアップデート

電力系統への供給源としての対応

電力の取り引きを行う需給調整市場において、需給を一致させるために必要な電力である「調整力」は、応動時間(指定した出力値へ達するまでに要する時間)の短縮化が求められています。本システムのエネルギー最適利用によって生まれる余剰電力を、電力系統における「調整力」として活用することも念頭に、電力市場の進化へフレキシブルに対応する拡張性強化に取り組みます。

開発する要素技術

・太陽光発電の出力や設備稼働のエネルギー需要における予測技術の高度化
・蓄電機能の特性把握

水素社会の実現に向けた分析・計測ニーズへの対応

「E-LAB」の設備を活用・拡充し、水素エンジンや、水電解による水素製造など、カーボンニュートラル実現に向けた最新技術の分析・計測ニーズに対応。対象範囲を拡大した実証実験を推進します。

(3)データの検証・蓄積を通じたエネルギーマネジメントシステムの構築
上記を通じて蓄積した実験データを総括し、研究開発施設でのあらゆる稼働状況に対応した、最適な電力供給や排熱の再利用などを行うエネルギーマネジメントシステム構築へと繋げます。

想定する例

・エネルギー消費量を最小にする実験計画の作成
・研究開発設備の使用負荷(ピーク時/アイドリング時など)に応じた供給電力の調整
 (コージェネレーションシステム※4の最適運転)
・設備稼働により生じた排熱の空調などへの再循環

(4)両者の交流による人材育成
共同研究を通じた継続的な交流により、エネルギーマネジメントに関する研究開発をリードし、次世代を担う高度人材を育成します。さらに、蓄積したノウハウを役立て、新たな産学連携などへ繋げることで、「智慧」の輪を拡げ、持続的な技術革新へ発展させていきます。

左から、東京大学大学院工学系研究科長 染谷 隆夫、堀場製作所 代表取締役会長 兼 グループCEO 堀場 厚

「環境調和型エネルギーシステム社会連携講座」の概要

代表教員:東京大学大学院工学系研究科 熊田 亜紀子 教授
設置期間:2022年4月1日から2025年3月31日(3カ年間)

※1 社会連携講座:
公共性の高い共通の課題について、東京大学と共同して研究を実施しようとする民間など外部の機関から受け入れる経費などを活用して設置される講座。
※2 MLMAP(Mid-Long Term Management Plan):
堀場製作所では、中長期経営計画を「MLMAP」として社内浸透させています。
※3 サイバーフィジカルシステム:
実世界(フィジカル空間)にある多様なデータを収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術などを駆使して分析/知識化を行い、そこで創出した情報/価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図るものです。
※4 コージェネレーションシステム(熱電併給システム):
天然ガス、石油などを燃料として発電し、その際に生じる排熱を回収し冷暖房、給湯などに利用するシステム。

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