【ディズニーランドは魔法の学校だった!】ユニフォームを渡してくれる「魔法使い」から教わったこと

あさ出版
【ディズニーランドは魔法の学校だった!】ユニフォームを渡してくれる「魔法使い」から教わったこと

もうすぐ新年度になってから2ヶ月が経ちますが、学生生活とは全く異なる、新しい生活にまだまだ慣れない新社会人の方も多いのではないでしょうか。

はじめて経験する業務や、チームで仕事をすることにわくわくする一方、仕事を始めて最初のうちは、アシスト業務や細々した作業が多く、「この仕事はなんの役に立っているのだろう」と虚しい気分になることもあるかもしれません。

そんなときは、「仕事をする上で自分に与えられた役割」を意識してみると、自分が行っている仕事への見方が変わり、仕事へのモチベーションが上がるそうです。

そこで、香取貴信 著『新版 社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』http://www.asa21.com/book/b456680.htmlより一部抜粋して、仕事に前向きに取り組めるようになるエピソードをご紹介します。

東京ディズニーランドには、スタッフが着るユニフォームのクリーニングや補修などの管理を行なう、美装部という部署があります。

著者である[私]は、「シンデレラ城ミステリーツアー」というアトラクションのスタッフとして働き始めてから1年が経ち、新人スタッフのトレーニングを担当していました。

これはその当時、美装部でスタッフが着たユニフォームを受け取り、新しいユニフォームと交換する交換カウンターの仕事を担当していた川本くんから聞いたお話です。

※以下、本文より抜粋

これじゃあ魔法使い失格ですよね

その日は、朝からあいにくの雨……。

レインコートを着て現場に向かおうとトレーニー(トレーニングを受ける新人スタッフ)のほうを見ると、なんだかレインコートがつんつるてんです。

シンデレラ城のスタッフは、冬になると黒のロングコートを着ます。

コートは丈が長いため、その上に着るレインコーは“ドレス用”といって、通常のレインコートよりも長いものでないと、コートをレインコートで覆うことができません。

ところが、私のトレーニーが着ていたレインコートはどう見ても短く、ロングコートが見えています。

どうやら間違えて通常サイズのレインコートが貸し出しされたようです。

すぐに私とトレーニーは、レインコートをドレス用に替えてもらうために、交換カウンターへ向かいました。

「すみません。このレインコート、間違えて貸し出されたみたいなんで、ドレス用に交換してもらえます?(怒)」(私)
「あっ!!本当ですね。ごめんなさい。いますぐ専用のものと交換します」(川本くん)

(レインコートを受け取り、新しいドレス用のレインコートを取りに行く川本くん)

「ったくなあ〜。間違えんなっつーの」(私)
「私も確認しなかったので……、ごめんなさい」(トレーニー)
「いいんだよ、知らなかったんだから。美装部のヤツが悪いんだよ。来たら文句言ってやる!!」(私)
「お待たせしました。すみません。新しいレインコートです」(川本くん)
「あのね、今度から間違えないでよね」(私)
「はい、本当にごめんなさい。これじゃあ魔法使い失格ですよね」(川本くん)
「んっ……。ま・ほ・う・つ・か・い???」(私)
「……いや、なんでもないです。本当にすみませんでした」(川本くん)

トレーニーに新しいレインコートを着させて、通常どおりトレーニングを開始したものの、川本くんが言った「魔法使い」のフレーズが気になって仕方がありません。

トレーニングを終え、着替えて外のベンチに座ってコーヒーを飲んでいると、ベンチの奥に川本くんの姿を見つけました。

私は、どうしても「魔法使い」の意味が聞きたくて、川本くんのところへ行きました。

シンデレラがより綺麗でいられるように魔法を使うのが僕たちの役目

「お疲れさまです」(私)
「香取さん、お疲れさまです。今朝はごめんなさい。トレーニング初日だったのに……」(川本くん)
「ああ、いいんだよ!!そんなこと、もう気にしてないから。貸し出ししたのだって川本くんじゃないんだし、そんなに責任感じなくてもいいよ」(私)
「はあ……。でも、僕たちはそれが役目だから……」(川本くん)
「それよりさぁ、今朝、“魔法使い”って言ってたよね?」(私)
「ああ(笑) すみません。つい……」(川本くん)
「ねえ、“魔法使い”って、どういうことなの?」(私)
「僕たち美装部は、ステージ(舞台)に上がるみなさんの衣装を担当する役じゃないですか」(川本くん)
「うん……」(私)
「じつは僕が新人トレーニングのとき、僕のトレーナーが教えてくれたんですよ。僕たちが扱うものは、ユニフォームじゃない。みなさんがステージで着る衣装、コスチュームなんだよって……」(川本くん)
「うん……」(私)
「つまり、僕ら美装部の配役は、シンデレラの物語でいうと、魔法使いのおばあさんなんだって!!」(川本くん)
「魔法使いのおばあさん!?」(私)
「そうなんです。みなさんが上がるステージがお城の舞踏会だとすると、その舞踏会にふさわしいドレスやガラスの靴を用意する、魔法使いのおばあさんなんだって!!」(川本くん)
「……」(私)
「だから、いつでもシンデレラ役のスタッフに、魔法をかけてあげるんだよって……。僕らはステージに上がることはないけれど、そうやって魔法をかけてあげることで、シンデレラがより一層、綺麗でいられる。それが僕たちの役なんだって。だから、魔法をかけるときには充分、気をつけないといけないんです」(川本くん)
「……」(私)
「あぁ、香取さん、ごめんなさい。変な話ですよね。もう間違えないようにがんばりますから、本当にごめんなさいね」(川本くん)
「……こっちこそ、ごめんなさい。そんなの全然気がつかなくて……」(私)

この話を聞き、私の目の前は真っ暗になりました。

いままで、そんなふうにバックステージで働く人のことを考えたこともなければ、コスチュームを交換に出すときに「お願いします」や受け取ったときに「ありがとうございました」って言ったことすらなかったからです。

ましてや、この話を聞くまで、言葉では“コスチューム”と言っていましたが、本当の意味を知りませんでした。

川本くんの話を聞き、自分たちスタッフは、本当にシンデレラを、与えられた役を演じきれていたのだろうかと、深く考えさせられました。
 
それから私は、トレーニングのときには必ず、川本くんから聞いた話を伝えました。そして毎日、コスチュームを交換に行く際に魔法をかけてもらいました。

いまでも川本くんのあの笑顔と「行ってらっしゃい!!」を思い出します。

著者プロフィール

香取 貴信(かとり・たかのぶ)

1971年、東京都生まれ。もとはヤンキーだったが、高校1年のとき(1987年)に東京ディズニーランドでアルバイトを始め、日々の体験のなかで「仕事」「教育」「サービス」の本当の意味をつかみ始める。1995年、レジャー施設などの現場運営コンサルティングを行う(株)SHUU研究所に入社。ディズニーランドでの知識と経験を活かし、各地のテーマパークで「来場するすべてのゲストに笑顔と素敵な思い出を」をテーマに活躍している。
主な著書に「ディズニーランドであった心温まる物語」(あさ出版)などがある。

書籍情報

タイトル:新版 社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった
著者:香取貴信
ページ数:248ページ 
価格:1,430円(10%税込) 
発行日:2019年6月15日
ISBN:978-4-86667-146-8
http://www.asa21.com/book/b456680.html

amazon:https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4866671467/asapublcoltd-22/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/15900002/?l-id=search-c-item-text-01

目次

第1章 「働く」って、こういうことなんだ
◯ディズニーランドで働き始めたのはほんの軽い気持ちから
◯「怒る」のではなく「叱る」ということ  ほか

第2章 「教える」って、どういうことなんだろう
◯最初に受けた感動は絶対忘れないんだよ
◯教えないことが逆にトレーニングになることもあるんだ  ほか

第3章 「本当のサービス」って、なんだろう
◯“ひと握りの勇気”も大切なサービスなんだ
◯本当にお客さまを大切に思うなら ほか

第4章 テーマパークはいろいろなことを教えてくれる
◯自分の言っていた「サービス」って
◯本当の自分と直面させられる  ほか