『住宅の連鎖(チェーン)』を回していく 自治体 ” 空き家対策最前線 ” Vol.1 さいたま市「住民の意識を変える3つのトリガー」|property technologies

人口減少と高齢化が進む日本で、空き家問題が臨界点を迎えようとしています。総務省の試算では2040年に空き家率が30%を突破する見通しとなる中、物件を所有する高齢者、相続に直面する次世代、行政対応に奔走する地方自治体、生活への影響を受ける周辺住民—これら関係者が直面する多層的な課題の実態を取材します。
空き家問題解決への道筋は、『住宅の連鎖(チェーン)』を循環させること—自治体における実効性のある取り組みに注目していきます。
本記事(vol.1)では、埼玉県さいたま市の「空き家課題解決」のための取り組みについて、解説します。
今回の取材にあたり、さいたま市役所 環境局 環境共生部 環境総務課 環境政策係の斉藤係長、永吉主査にご協力をいただきました。
1.空き家について正しく知ろう
空き家の定義
総務省「住宅・土地統計調査」上では、空き家は以下のとおり定義されます。
① 「売却用の空き家」は、不動産市場で売却活動が行われている物件です。
② 「賃貸用の空き家」は、賃貸市場で流通しており、入居者を募集中の物件です。
③ 「二次的住宅」は、別荘やセカンドハウスなど、主住居以外の目的で所有される住宅です。
④ 「売却・貸用及び二次的住宅を除く空き家」は、で、活用予定がない等の住宅です。
この図は、上記①~④の空き家に加え、現在は居住中ながらも将来空き家になる恐れのある「空き家予備軍(⑤)」を加えて、その関係性をまとめました。それぞれの空き家が、所有者、地域住民、行政といった関係者とどう結びついているのかを視覚的に示しています。

なお、各自治体で実務上扱う「空家等対策の推進に関する特別措置法(国交省)(以下、空家特措法)」上では、以下のとおり定義されます。
① 空家等(基本的な定義):継続的に人が住んでおらず、事業などにも使われていない建物とその敷地全体を指します。
② 管理不全空家等:管理が不十分で、このまま放置すると後述の「特定空家等」になるおそれがある状態の空き家です。
③ 特定空家等:周辺の生活環境に悪影響を及ぼしている空き家です。以下のいずれかに該当すると指定されます。
危険:倒壊や建材の落下など、保安上危険な状態
不衛生:ごみの放置や害虫の発生など、衛生上有害な状態
景観阻害:管理されず、著しく景観を損なっている状態
その他:立木の越境や不審者の侵入など、周辺の生活環境を脅かす状態
2. さいたま市、空き家対策の最前線
「所有者の意識」に働きかける発生予防で未来への負債に挑む
さいたま市が、深刻化する空き家問題に対し、「発生予防」を核とした先進的な取り組みで挑んでいます。国が発表する統計では、賃貸用や売却用を含めた広義の「空き家」が全国的に増加の一途をたどる中、市は管理が行き届かず地域の安全や景観を損なう「問題のある空き家」の発生を未然に防ぐことに注力。所有者やその予備軍となる市民の意識に直接働きかける、地道かつ熱意のこもった施策を公民連携で展開しています。
課題は「これから生まれる空き家」
「私たちが日々対応しているのは、すでに問題が起きている管理不全の空き家です。しかし、同時に目を向けなければいけないのは、これから空き家になる可能性のある家々。将来の空き家問題を見据えてそこに手を打つことが極めて重要です。」
市の担当者は、対策の核心をそう語ります。市の空き家対策として動き出す主なきっかけは、「庭の木が伸びてきた」「建物が壊れそうだ」といった近隣住民からの相談や苦情です。市が対応する空き家問題は、その大半が戸建て住宅です。国交省の空き家所有者実態調査(令和元年)によると、空き家の取得原因の半数以上は「相続」だといいます。高齢の所有者が亡くなり、遠方に住む子ども世代が実家を相続するものの、管理が行き届かずに放置されてしまうケースが後を絶ちません。
市は平成27年度から令和6年度までに92件を「特定空家等」として判定し、指導や助言を続けてきました 。しかし、所有者との話し合いが難航したり、相続問題が複雑に絡み合ったりすることで、改善に至らないケースも少なくありません。
こうした状況を踏まえ、市は「将来、大量の空き家が発生する可能性がある」と危機感を募らせます。市の人口は2035年頃にピークを迎えると予測されており、その後は住宅需要の減少とともに空き家が急増する可能性があるからです。担当者は「大量の管理不全空家等を発生させないためにも、所有する市民一人ひとりに相続や適正な管理のための知識を持ってもらうことが不可欠です」と、発生予防の重要性を強調します。
3. 住民の意識を変える三つの取り組み
市が重点的に取り組むのが、市民の意識改革を促す三つの取り組みです
- ワンストップ相談窓口の充実
市は不動産関連等の専門家団体と連携し、空き家の売却や相続、管理等に関する相談をワンストップで受け付ける窓口を設置しています。相談件数は年々増加しており、令和2年度の84件から、直近の令和6年度には139件へと増加しました。
相談内容は「空き家を売却したい」「相続について知りたい」といった具体的なものが多く、市民の関心の高さがうかがえます。この窓口は、空き家問題を抱える所有者が第一歩を踏み出すための重要な受け皿となっています。
市はワンストップ相談窓口事業者等と連携して、月1回程度市内で相続・空き家に関するセミナー・個別相談会を開催しており、相続や空き家の適正管理のための知識を持ってもらうための働きかけを行っています。

- 公民連携による「ハードル下げ」
「空き家は、我々行政職員だけではなく、不動産の専門知識を持つ民間企業の力を借りなければ、所有者の個別の悩みに寄り添うことはできません」と担当者は語ります。
市は、不動産テック企業などと積極的に連携協定を締結。スマートフォンで建物の解体費用や土地の査定額を知ることできるサービスや家の所有者とリフォームする職人を直接つなぐサービスを紹介するなど、これまで「不動産会社に相談することはハードルが高い」と感じていた市民が気軽に相談できる環境を整えています。
担当者は、「自分の家の価値が具体的な数字で見えれば、多くの人が『動こう』という気持ちになる。その背中を押すきっかけ作りをしたいと考えています。」と、連携の目的を語りました。

- 自治会への「出前講座」という一手
市の取り組みで特に特徴的なのが、職員が地域に出向いて行う「自治会向けの出前講座」です。空き家に関する住民の困りごとは、まず地域の自治会長等に寄せられることが多いーその実情に着目し、地域のキーパーソンである自治会長たちに、空き家問題の現状や市の相談窓口、対処法などを直接伝えることで、地域全体の課題解決能力を高める狙いがあります。
担当者は「この講座を始めてから、『うちの地域でもやってほしい』、『自治会内で情報を共有したいので資料を送付してもらいたい』という声が寄せられるようになりました。我々が直接お話しすることで、役所に行くのはハードルが高いと感じていた方々にも情報が届く。手応えを感じています」と語ります。

取材後記|さいたま市の「誰一人取り残さない」という決意
今回取材に対応して頂いた市の担当者は、他の部署から異動してきて初めて空き家問題に携わった際に、「行政だけでは絶対に解決できない課題だ」と痛感したそうです。
「私たちは法律に基づいて指導や勧告を行う立場ですが、それだけでは人の心は動きません。民間の専門家の知見やノウハウを取り入れ、所有者一人ひとりの事情に寄り添いながら、売却や賃貸、活用といった様々な選択肢を一緒に考えていく。そうした本当の意味での『公民連携』が、今後ますます重要になります」
「市民の方々が安心・安全に暮らせるように、一つでも多く状態の悪い空き家を減らしたい。そして、これから空き家が生まれないよう努力したい」
―その言葉には、課題解決への強い意志が込められていました。
空き家という「未来への負債」を次世代に残さないために。さいたま市の地道で熱意ある挑戦は、今日も続いています。
未来にむけて|空き家問題解決の鍵:「住まいのエンディングノート」
不動産価値の定期更新で空き家リスクを軽減
空き家問題の解決には、不動産所有者、相続人、自治体、周辺住民がそれぞれ主体的に行動することが重要です。特に所有者は、現在居住中であっても将来的に空き家となる可能性を考え、不動産の資産価値を正確に把握しておくべきです。例えば市場価値5,000万円の物件であれば、その価値を認識し、適切な管理や処分を考えるはずです。

この問題に対処するために有効なのが「わたし(たち)の住まいのエンディングノート」を作成することです。これは通常のエンディングノートと異なり、不動産に特化した情報を整理するものです。不動産基本情報シート(所在地、面積、境界、権利関係、ローン状況、資産価値)、関連書類リスト(登記簿、固定資産税納付書、設計図面などの保管場所)、維持管理情報(管理会社、自治会、修繕履歴)などを記録します。特に『資産価値』の項目は最も重要な情報です。これにより、将来の相続がスムーズに進み、空き家発生リスクを低減できます。

さらに重要なことは、資産価値の定期的な更新です。公示価格やマンション価格は年々変動しており、特に最近は上昇傾向にあります。数年前に確認した価値では不十分で、定期的な見直しが必要です。「投資商品」ではなく「実需商品」だからこそ、正確な価値を把握しましょう。
資産価値を知るには、不動産仲介会社に査定を依頼するのが一般的な方法です。立地や条件によりますが、数日で市場流通価格の結果が得られます。
また、Web上で資産価値を知ることも可能です。例えば、AIを活用した査定サービス「KAITRY」などを利用すれば、マンションの場合は、マンション名と基本情報(広さ、間取り、階数)を入力するだけで、簡単に資産価値を知ることができます。戸建ての場合は、現在「戸建住宅用」に同サービスを開放していないため下記までご連絡頂けますと知ることができます。
法的権限だけでなく、民間の専門知識と行政の公共性を組み合わせた「本当の意味での公民連携」こそが、複雑化する現代の地域課題解決の要諦であるのではないでしょうか。今後も当社グループは、空き家問題の解決を図り、地域社会へ貢献できる持続可能な取り組みを広げてまいります。
(編集・執筆/property technologies 永江 直人)
適用に際しての具体的な注意点
・上記は令和6年10月末時点の適用法令・通達等に基づき記載しております。
・上記事例等は一例であり実際に適用する場合にはご自身が適用要件を満たしているか専
門家等にご確認の上適切にご対応頂きますようお願い致します。
・本記事の記載内容にあてはめて適用することを保証するものではありませんのでご留意
願います。
株式会社property technologies(プロパティ・テクノロジーズ)について
「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」というミッションを掲げています。年間36,000件超の不動産価格査定実績やグループ累計約13,500戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で実現する「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来に向け、手軽でお客様にとって利便性の高い不動産取引を提供しています。
<会社概要>
会社名:株式会社property technologies
代表者:代表取締役社長 濱中 雄大
URL:https://pptc.co.jp/
本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階
設立:2020年11月16日
上場:東京証券取引所グロース市場(5527)
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