<芝翫茶・路考茶など>着物の伝統色に見る歌舞伎由来のトレンドカラー
江戸時代のトレンドカラーとは?
毎シーズン各ファッション誌やメディアなどで発信され、注目を集めているトレンドカラー。
洋装にはもちろん和装にも取り入れられており、今風のエッセンスをまとわせたセンスフルなコーディネートを演出しています。
それは江戸時代でも同様で、当時も数多くのトレンドカラーが登場し、
ファッションにおいても粋を追求していた江戸っ子たちのオシャレ欲を刺激していました。
そんな流行を牽引していたのが"歌舞伎役者"です。現在も日本の伝統色には彼らの名前を冠したものが多数残っており、その人気ぶりを伺い知ることができます。今回は、そんな歌舞伎役者を由来とする江戸時代のトレンドカラーをご紹介します。
01 芝翫茶(しかんちゃ)
上方(大坂)で高い人気を得ていた三代目中村歌右衛門(初代中村芝翫)が好んで用いた色。
文化・文政・天保の頃にかけて流行しました。
02 璃寛茶(りかんちゃ)
三代目中村歌右衛門とともに上方で人気を二分していた、二代目嵐吉三郎が好んだ色。"璃寛"は俳名を由来としており、色のほかに璃寛縞という柄でもトレンドを生み出しました。
03 路考茶(ろこうちゃ)
『八百屋お七恋江戸紫』にて、二代目瀬川菊之丞が下女のお杉役で着た衣装の色を由来とするもので、男女ともに着物のトレンドカラーとして愛されました。
彼は"王子路考"とも呼ばれて一世を風靡した人気女形役者で、路考茶のほか、路考結びと呼ばれる女性用の帯結びや路考髷・路考鬢といったヘアスタイルなどにも名を残しています。
04 梅幸茶(ばいこうちゃ)
別称・草柳(くさやなぎ)とも呼ばれ、享保~天明期にかけて活躍した初代尾上菊五郎(俳名:梅幸)が好んだ色です。
江戸と上方両方で活躍した名優で、『鳴神』の雲の絶間姫や『仮名手本忠臣蔵』の大星由良助などが当たり役として知られています。
05 岩井茶(いわいちゃ)
五代目岩井半四郎が愛用していた色。生世話物を得意としていた女形役者で、七代目市川團十郎と並んで江戸っ子たちの人気を集めていました。
ファッションにおいてもトレンドリーダーとして絶大な支持を得ており、彼の名を冠した小紋や絞り、お香、櫛などが流行ったそうです。
06 高麗納戸(こうらいなんど)
四代目松本幸四郎が『鈴ヶ森』の幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)を演じた際に着用していた合羽の色に由来。“高麗”は松本幸四郎の屋号・高麗屋を、“納戸”は暗い青色のことを指しています。
余談ですが、梅幸茶に名を残している初代尾上菊五郎との間には確執があり、つかみ合いのケンカをしたこともあったのだそうです。
07 舛花色(ますはないろ)・團十郎茶(だんじゅうろうちゃ)
五代目市川團十郎が愛用し、市川家の家紋である“三舛形”を由来とする色。実悪系統の役を得意とする一方、女形や道化、侠客などさまざまな役柄を演じた実力派として活躍しました。
また、五代目市川團十郎は、代々團十郎が用いていた柿色を『暫』の素襖の色に取り入れ、團十郎茶という呼び名が定着するきっかけを作ったことでも知られています。
今回は、歌舞伎役者を由来とするトレンドカラーをご紹介しましたが、他にも歴史を鮮やかに彩ったたくさんの伝統色があり、今も着物や帯、和装小物などに使われています。
先人たちが紡いできた色の先にあるストーリーを想像しながら色をまとえば、一味違った和装の楽しさや奥深さを感じられるかもしれません。
【参考】
・濱田義信・他『日本の伝統色』(ピエ・ブックス)
・菊地ひと美『江戸衣装図鑑』(東京堂出版)
・和色大辞典