【藤井聡】新型コロナを「正しく」恐れねばならない ~高齢者等の対策「さえ」徹底すれば、死者数は「10分の1」以下に抑え込める~

From 藤井 聡(表現者クライテリオン編集長・京都大学教授)

(1)1万人前後に達した欧米の死亡者数。押さえ込みで今、ピークアウトし始めた
新型コロナウイルスに関する情勢は、日々変わり続けています。

イタリアで死者が一定水準以上(一日に3人以上)出始めてからわずか5週間、フランス、スペインにおいては4週間程度、アメリカやイギリスにおいては未だ3週間、ドイツにいたっては2週間と少しだけですが、その間に、イタリアやアメリカ、フランス、スペインでは、死者が1万人前後に達する状況となりました。
各国はこの死者数の増加に対応すべく、「外出禁止」をさらに徹底し、この死者増加をなんとか押さえ込もうとしています。

その結果、こちらのグラフから分かるように、イタリア、スペイン、フランスでは、死者数の増加がピークを迎え、(少なくとも一旦は)縮小し始めています。
https://www.ft.com/coronavirus-latest?fbclid=IwAR2ikLzR7ME30pJUsacguW9wcsKD5i0SAlYs0sRy-w2sYIjBP52BaF6fZiA

イタリアで全土で外出禁止になったのが3月10日ですからピークアウトまで約3週間、スペインは3月14日から外出禁止でピークアウトまで2週間半、フランスの外出禁止は3月17日に外出制限がかかり4月上旬のピークアウトまで約2週間強。
要するに、全面的な外出禁止措置を執れば、2~3週間程度で、死者の増加がピークアウト、つまり減少に転ずるという傾向が読み取れます。
外出禁止をすれば家庭外の感染はほぼ抑止でき、かつ、新型コロナウイルスの潜伏期間は長くて約2週間とも言われていますから、こうした結果となるのも至極もっともなことだと言えるでしょう。

(2)高齢者の感染「さえ」防げれば、死者数は20分の1から50分の1に押さえ込める
これから詳しいデータが更に報告されてくることとなりますが、少なくとも今手元にある報告によれば、死者の大半が「高齢者」です。

なぜそうなるのかといえば、こちらの表の様な傾向があるからです。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2406585342775728&set=a.236228089811475&type=3&theater

ご覧の様に、高齢者においては、若年層の20倍~50倍もの死亡リスク、そして、重症化リスクがあると推計されています(そして、基礎疾患のある方も、高齢者と同等、あるいはそれに準ずるリスクがあると考えられます)。
当方はこうしたデータに基づいて、前回のメルマガに次のように記載しました。
「こうした新型コロナウイルスの特性を踏まえれば、高齢者や基礎疾患をお持ちの方々さえコロナ感染を徹底的に回避する取り組み「さえ」に行っておけば、基礎疾患の無い健康な若年層については、過剰な自粛は必ずしも必要ではないというのが、現実的な「リスクマネジメント」であると考えられます。」
つまり、今、欧米で1万人前後もの死者が出ていますが、先に示したデータに基づくなら、高齢者対策「さえ」徹底的に可能であったのなら、(このデータが正しい限りにおいて)その死者数は20分の1から50分の1に押さえ込むこともできた、という可能性が考えられるのです。
もちろん、高齢者と非高齢者と同居している世帯が多い事を考えると必ずしも高齢者と非高齢者との間の接触を完全に断つことは必ずしも容易ではありません。しかし、インフルエンザ感染者の自宅療養では、部屋を使って自宅内で隔離することは、どこの家庭でも行われていますから、それくらいの危機意識を持って高齢者・基礎疾患のある方の隔離ができれば、必ずしも若者の外出や社会活動を「過剰」に完全禁止することは、必ずしも必要ではなかったとも考えられるわけです。
ただし誤解を避けるために念のために記載しておきますが、当方は若者に死ぬリスクが全く無いとは主張していません。リスクが「低い」、しかも、高齢者のそれに比べると、比較にならないほどに圧倒的に超絶に「低い」と主張しているのです。
そして、リスクのマネジメントにおいては、こうした統計的判断が決定的に重要になるという話しを申し上げているわけで、したがって、リスク対応を、若者と高齢者で分けて考えるべきだと申し上げているわけです。

(3)医療崩壊を防げれば、死者数はさらに4分の1に押さえ込める
さらに、イタリアがその典型ですが、今医療現場で起こっているのが「医療崩壊」です。それはつまり、重症患者が病院にやってきても、病床や人工呼吸器が無くて治療ができない、という事態を意味します。

つまり、医療需要が、その供給力を圧倒的に上回ってしまうことで生ずるのが医療崩壊です。
この医療崩壊が「最悪」なのは、助かる命を助けられなくなる、という一点にあります。
先に紹介したデータですと、重症化するリスクは(全体で)「5.6%」。
この重症化した人々に十分な治療を施せば、おおよそ4人の内3が回復します(=4.3%/5.6%)。しかし、おおよそ残りの4人の内1人が死に至ってしまいます(=1.3%/5.6%)。
ところが、医療崩壊が起こり、人工呼吸器が準備できなくなると、重症化した人がほぼ全て死に至ることになります。
つまり、重症化して人工呼吸器などがあれば4人の内3人が助かるのに、医療崩壊していれば誰一人助から亡くなるのです!
このことはつまり、医療崩壊をすれば、死亡率が一気に4倍に跳ね上がることを意味します(具体的に言うなら、医療崩壊前の死亡率は1.3%に押さえられますが、医療崩壊後は5.6%にまで上昇してしまうのです)。
・・・・このことは、もし、イタリア等で医療崩壊が起こっていなければ、その死者数は4分の1に抑えられることとなるのです。逆に言うなら、イタリア(さらにはニューヨーク)等では、医療崩壊のせいで死者数が4倍に跳ね上がってしまっているのです!
だからこそ、我が国でも今最も警戒しなければならないのは「医療崩壊」なのです。繰り返しますが、それは死者数を一気に4倍にまで拡大してしまうのです。

(4)医療崩壊を導いた最大要因は高齢者の感染であった
ではなぜ、医療崩壊したのかというと・・・これもまた、高齢者の感染拡大が原因でした。

先にも指摘したように、若年層と高齢者とでは、病状の進行が全く違います。
(ここで仮に年齢階層別の死亡率の差異と重症化率の差異が同様であるとすれば)、高齢者は若年層の20倍~50倍の頻度で、重症化していくことになります。
これはつまり、仮に若者も高齢者と同じ数だけ感染したとすれば、若者が1人重症化している間に、高齢者は20人~50人も重症化していくことを意味しています。
だから、若者に感染が広がっても、医療崩壊するリスクはとても低い一方、高齢者に感染が広がれば瞬く間に医療崩壊が起きてしまうのです。
数字で言うなら、若者の感染の20倍から50倍ものスピードで高齢者は限られた医療資源を使っていってしまうわけで、したがって、20倍から50倍もの医療崩壊リスクをもたらすポテンシャルが、高齢者にはあるわけです。
したがって、死者数を抑制するためだけでなく、医療崩壊を避けるためにも、高齢者の社会活動の禁止・自粛を徹底していくことが必要となっているのです。

(5)高齢者等の社会活動からの「隔離」をはじめとした、高齢者対策を徹底せよ。。
この点を踏まえれば、高齢者の外出の徹底的抑止や、感染対策を行えば、それだけで、死者数は20分の1~50分の1にまで低減でき、かつ、医療崩壊を回避することも容易となり、それを通して、さらに死亡率を4分の1に縮小できる・・・ということを踏まえると、高齢者等の社会活動からの「隔離」を始めとした感染対策を徹底すれば、合計で80分の1~200分の1にまで、死者数を激減させることに成功することも考えられるのです。
ちなみに、60歳以上の高齢者は今、全人口の三分の一。「極端なケース」として、60歳以下の対策を全く進めず、60歳以上の高齢者の感染対策「だけ」を徹底的に進めて感染がゼロになったと仮定するだけで、トータルの死者数は12%割程度に抑えられることになります。これに、「基礎疾患のある方」の感染対策を徹底すれば、健康な若者の活動を一切自粛させなくても、死者数は1割以下に抑え込めることになります。
さらに言えば、この取り組みを通して「医療崩壊」が回避できたとすれば、死者数はそのさらに4分の1に抑え込むことができます。結果、若年層の活動をかなり許容した上でも、対策前に比べて総死者数は2~3%程度にまで激減させることも可能となるのです。
無論、こうした数字については、今後さらに報告されるデータに基づいて精緻化していくことが必要ですが、こうした傾向があることは間違いないと、筆者は考えます。

(6)狼狽えてはならない。狼狽えれば狼狽えるほど、人が死ぬ。
とはいえ、とにかく感染を止めるという視点に立つなら、年齢を度外視して外出禁止にするのが効果的ではあります。
しかし、それをあまりにやり過ぎれば、経済が崩壊してしまいます。
無論、(我が国は残念なことに不幸な例外ですが・・・)諸外国は、外出禁止と同時に徹底的な所得・損失補償を施しています。が、それだけでは、経済の崩壊は食い止められません。なぜなら、この状態を1年も2年も続ければ、早晩産業が崩壊することになるからです。
そして事実、完全終息は、治療薬・ワクチンができるまでは不可能だと考えざるを得ません。
そもそも中国の武漢にしか無かったウイルスが、通常の社会・経済活動が続いていた状況ではたった数ヶ月で世界中にばらまかれてしまったのですから、治療薬・ワクチンが完成するまで、昨年の様な「普通の社会・経済活動」の開始は不可能なのです(無論、アフリカや南米も含めた世界中の国々から完全駆逐できればいいですが、普通に考えればそれは無理でしょう)。だから、欧米は今は短期勝負で「外出禁止」とやっていますが、それによって一旦死者増が食い止められたとしても、少し緩めればすぐにまた、大流行になることは必至です。
さらに言うなら、スペイン風邪の様に、来年の冬頃までにウイルスの変異が生じ、さらに毒性の高いものとなっている可能性すら考えられるのです。そうなれば、この程度の毒性のウイルスに対してここまで激しく外出禁止をやっている以上、外出禁止の解除がますますできなくなってしまうでしょう。
しかし、今のような外出禁止がいつまでも続けられる筈がありません。食料をはじめとした「産業」が全て止まり、人間が生きていけなくなるからです。どこかの時点で、ウイルスがどれだけ恐ろしくとも、社会・経済活動を再開せざるを得なくなるのです。
今のままでは、パンデミックや世界大恐慌の次に、確実に「世界食糧危機」が訪れることでしょう(言うまでも無く、そうなったときに最大の被害を受けるのは、自給率の低い我が国日本でしょう)。そうした事態を避けねば、人類は生き残れなくなってしまいます。
だとしたら、結局は、前回メルマガでも主張した通り、「高齢者と基礎疾患のある人々の徹底的な社会活動への参加禁止」と「若年層の、可能な限りの社会経済活動の継続」が必要となるのです。
もちろん、この政策展開において「抗体検査」も重大な役割を担うでしょう。つまり、社会活動の水準を調整するにあたり、抗体検査の結果を活用していく方法が考えられるのです。
もちろん、ワクチン・治療薬さえ早期に開発されるなら、こうした問題は全て解消されるのですが・・・それがいつになるか、不確実なのです。
・・・いずれにしても、こういう危機の時代には、入手可能なデータの範囲で、最大限の想像力を働かせ、最善の道を探り続ける態度が求められるのです。そしていつ如何なるときも、「狼狽えること」は避けねばなりません。
第二次大戦では数千万人もの命が失われたこと、日本だけでも毎年10万人もの方が肺炎で亡くなっているという事実、日本のデフレ不況で15万人もの自殺増があったという事実、さらには、毎日平均3700人もの方が何らかの理由で亡くなっているという事実にも思いを馳せながら、どのような原因で亡くなったとしても、いずれの命も貴重な命なのだという一点を忘れず、冷静にこのパンデミックに対応していかなければなりません。
そう考えれば、為政者たるもの、「たかだかこの程度の殺傷能力のコロナウイルスごときに狼狽え、とち狂った過剰反応をしてはいけない」と構える程の胆力が必要なのです。なぜなら、そう構えることができて始めて、我々は死ぬ人の数を最小化できるのです。
逆に言うなら、過剰に恐れ、狼狽え、「高齢者の各離等の感染対策を徹底的に進める」という正しい整斉な判断ができなくなれば、その結果、死者数は何十倍、さらには本稿の論考に基づくなら、100倍、200倍にもなってしまうのです!(そしてまさに今の我が国の安倍政権は、そうなりかけているのです・・・)
ついては本稿が、できるだけ多くの命を救うリスク・マネジメントへと結びつくことを祈念しつつ(メルマガとしては少々長文となりましたが)、本稿を終えたいと思います。

追申:
以上の方針に基づく具体策を考える上で、一番今、重要なのが、感染症対策の最前線である「自治体」に対する徹底的な財政支援です。是非、下記もご一読ください。
https://foomii.com/00178/2020040315331965184

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没落する西洋と引き籠もるアメリカ、そして失われた日本とは裏腹に、中国は凄まじい大躍進を遂げた。 今般のコロナ大恐慌においても、日米欧における経済被害が日々拡大している一方、いち早く収束を見た中国の「一人勝ち」の様相が濃密になりつつある。 こうして爆発的に成長し続ける中国に対して、停滞する欧米諸国において「憧憬」を億面なく表明する風潮が近年急速に拡大している。 こうした動きは今「中華未来主義」(サイノフューチャリズム)と呼ばれ、グローバリズムを礼賛する新自由主義や技術至上主義等の思想的潮流の中でさらに加速している。 しかしこの中華未来主義は、人間の生の豊穣性を否定し、伝統、文化、社会を根底から解体させる破壊力を明確に秘めており、したがって我々は決然と「対決」する姿勢が今、強烈に求められている。 本特集は、この中華未来主義とは一体如何なるものなのか、そして、如何に対決していくべきなのかを、徹底的に論じようとするものである。 こうした考察は必ずや、コロナショックへの強靭な対応、ならびにコロナショック後の「世界」の有り様を考える上で決定的に重大な意味を持つ。 表現者クライテリオン編集長 藤井 聡
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