水と有機溶媒両方に溶ける CPL発光体を開発 セキュリティー認証や虫除けなど、特殊な薬品・化粧品開発に期待

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科の准教授 今井喜胤(いまいよしたね)らの研究グループは、映画館などで3D立体映像を映し出す際に使われる、「円偏光」を発するCPL※1 発光体を開発しました。この発光体は、水および有機溶媒の全く異なる2種類の溶液中に溶解する「両親媒性」という特徴を持っています。このたび、本件に関する論文が、エルゼビアが発刊する有機化学分野の週刊誌『Tetrahedron』に平成29年(2017年)10月31日(火)に掲載されます。
※1 CPL…Circular Polarized Luminescenc 円偏光発光

【本件のポイント】
●水と有機溶媒の両方に溶けるCPL発光体を開発
●1種類の材料から、光の回転方向が異なる2種類の発光体を作出できるため、CPL発光体の合成コスト削減に期待
●人体に塗布しても害がない水に溶けるため、円偏光を利用したセキュリティー認証ペイントや、虫除けなどの特殊な機能を持った薬品・化粧品などの開発が可能

【本件の概要】
特定の方向に振動する光を偏光といい、振動方向が直線状のものを直線偏光、らせん状に回転しているものを円偏光といいます。現在、多くの発光体は直線偏光であるため、フィルターを用いて円偏光に変換していますが、フィルターを通すことで光が弱まり、エネルギー効率が下がるため、CPL発光体の開発が期待されています。
研究グループは、有機溶媒中で円偏光発光することがすでに知られているビナフチルに電気を帯びた部位を導入することにより、水中と有機溶媒中の両方で円偏光発光するCPL発光体の開発に成功しました。この発光体は、1種類のビナフチルから左回転・右回転の2種類の発光体を作出できるため、合成コストの削減が見込まれます。
将来的には、水と有機溶媒の両溶媒に溶ける性質を生かし、円偏光発光する石鹸・洗剤・化粧品などの開発が期待されます。例えば、円偏光の回転を暗号化して、ゲート通過の認証を行うセキュリティーペイントや、昆虫が嫌う回転の円偏光を放つことで虫除けになるスプレーなど、円偏光を生かした特殊な機能を持った薬品・化粧品などが考えられます。
なお、本研究は文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択された「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の一環です。

【掲載誌】
・雑誌名・・・『Tetrahedron』エルゼビア発刊、インパクトファクター2.65
・論文名・・・“Circularly Polarized Luminescence from Open- and Closed-style Axially Chiral Amphipathic Binaphthyl Fluorophores in Water”
・著 者・・・Takumi Kitatobe, Yuki Mimura, Shintaro Tsujimoto, Nobuo Tajima, Michiya Fujiki and Yoshitane Imai

【研究の詳細】
研究グループは、光を回転させるキラリティー導入ユニット、また、光を放つ発光性ユニットとして光学活性ビナフチルユニットを用い、電荷を有する部位として窒素カチオンユニットを導入したオープンスタイルの光学活性ビナフチル発光体とクローズドスタイルの光学活性発光体を精製し、水溶液に溶解させ、希薄溶液にて円偏光発光(CPL)スペクトルを測定しました。(CPL測定には、日本分光製CPL-300を使用)
オープンスタイル、クローズドスタイルの発光体からは、水中で、それぞれ、374nm、371nmの青色の円偏光発光を観測しました。円偏光発光を光学材料として用いる場合、基本的に、左回転・右回転2種類のCPLが必要です。そのため、従来の手法では、キラリティーの異なるR体・S体2種類の光学活性な発光体を必要としていました。しかし、水中においても、同じR体のビナフチルユニットを用いているにもかかわらず、オープンスタイルとクローズドスタイルでは、光の回転方向を反転させることができることを発見しました。

【今後の展望】
円偏光発光(CPL)に関しては、最近、様々な利用法が検討されていますが、CPLを生み出す高輝度・高円偏光度(高い光の回転度)を備えた有機CPL発光体は、まだ開発途上段階であり、そのほとんどが、有機溶媒中でのCPL発光に限定されています。
今回の研究により、ビナフチル化合物が、水中および有機溶媒中と、全く異なる2種類の両溶液中に溶解し、円偏光発光することを見出しました。今後、有機溶媒中および水中に溶ける性質を活かし、円偏光発光する石鹸・洗剤・化粧品などの開発を試みます。さらに、多彩な機能を持った円偏光発光体の作出や、高輝度・高円偏光度の円偏光発光体の開発を進めていきます。

【研究者プロフィール】
近畿大学 理工学部 応用化学科 准教授 今井 喜胤(いまい よしたね)
研究テーマ:キラリティー材料と円偏光発光(CPL)とのベストミックスフィールドの創出、
      「色」変化を利用した超高感度分子センシングシステムの開発、
      ナノポーラス型電荷移動(CT)錯体を利用した新奇な可視的水素貯蔵材料の開発
専   門:有機光化学、不斉化学、超分子化学
受   賞:コニカミノルタ画像科学進歩賞(2009年)

【「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の概要】
■研究内容
太陽光エネルギーを利用して水素ガスやメタノールといった1次エネルギー物質を生成する際に必要不可欠とされるソーラー触媒の開発や人工光合成における化学的機能の開拓(研究テーマ1)を推進します。同時に、ウェアラブル端末などに広く利用可能な薄膜太陽電池における光電変換効率の高効率化(研究テーマ2)、さらには、光磁気機能を駆使した省エネルギー記憶媒体に関わる基盤的物質の創成(研究テーマ3)を目指します。

■プロジェクトの波及効果
東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、わが国のエネルギー政策は歴史的な転換期にあり、利用可能なエネルギー資源の特徴を生かしつつ各々を効果的に運用していくための施策を必要としています。その際、立ち遅れの目立つ太陽光エネルギー利用についても可能性をポジティブに評価したうえで有効に活用していく必要があります。太陽光エネルギー利用の可能性を最大限に引き出すための基盤的研究を推進します。

■プロジェクトの将来と人材育成
総合理工学研究科・理工学部の教員16人の参画を得て発足した本研究プロジェクトは将来的に近畿大学における原子力、火力、太陽光研究をゆるやかに束ねる総合エネルギー研究開発拠点として社会基盤の整備等に関して科学的見地から発信力を強化していくことを目指します。また、活動を通じて優れた人材の育成に力を尽くします。

【関連リンク】
理工学部応用化学科 准教授 今井 喜胤(イマイ ヨシタネ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html

水中における光の回転方向制御
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