肝がんの免疫療法後二次治療でのレンバチニブの有効性を実証 生存期間が約2倍に延長されることを世界で初めて確認

2020-10-20 09:00
分子標的薬「レンバチニブ」(商品名:レンビマ)

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(消化器内科部門)主任教授の工藤 正俊らの研究チームは、切除不能の肝がん(肝細胞がん)に対する免疫チェックポイント阻害剤※1 の効果がなくなった後の二次治療として、分子標的薬「レンバチニブ」(商品名:レンビマ)が極めて有効であることを実証しました。レンバチニブは肝がんの一次治療としても有効ですが、本研究の結果、免疫チェックポイント阻害剤療法の直後に使用することでさらに効果が高まり、生存期間が約2倍となることが世界で初めて確認されました。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)10月20日(火)AM9:00(日本時間)に、腫瘍学部門の専門誌“Cancers”にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●肝がんの免疫療法の二次治療として、分子標的薬「レンバチニブ」が有効であることを実証
●免疫チェックポイント阻害剤療法の直後にレンバチニブを使用すると、生存期間が約2倍となる
●今後、レンバチニブによる二次治療の効果が、肝がんの根治治療に繋がることに期待

【本件の内容】
肝がんは、がん死亡原因としては世界で3番目に多く、日本でも毎年約3万人が亡くなる極めて予後の悪いがんです。
本研究グループは、エーザイ筑波研究所で創薬された「レンバチニブ」(肝細胞がんで2018年に国内承認取得)が、免疫チェックポイント阻害剤の効果がなくなった後の肝がん(肝細胞がん)の二次治療として極めて有効であることを実証することに成功しました。特に、レンバチニブ導入直後の腫瘍縮小効果が強く、その効果は一次治療薬として使用するよりもさらに長く続くことが示されました。免疫チェックポイント阻害薬中止後、その効果が持続している期間(約20カ月間)に投与することで、レンバチニブの免疫微小環境※2 の改善とあいまって相乗的な効果に繋がったと推測されます。また、レンバチニブを一次治療として使用するよりも、はるかに良好な生存期間延長効果が実証されました。
今後、レンバチニブによる二次治療の効果で切除不能であった腫瘍が縮小することによって、動脈化学塞栓療法(TACE)※3 やラジオ波・肝切除術などよる根治治療に繋がることが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:
Cancers(インパクトファクター:6.126 @ 2019)
論文名:
Exploratory Analysis of Lenvatinib Therapy in Patients with Unresectable Hepatocellular Carcinoma Who Have Failed Prior PD-1/PD-L1 Checkpoint Blockade
(PD-1/PD-L1抗体療法に不応となった切除不能肝細胞癌に対するレンバチニブの有効性についての探索的検討)
著者:
青木 智子1、工藤 正俊1※、上嶋 一臣1、盛田 真弘1、千品 寛和1、田北 雅弘1、萩原 智1、依田 広1、南 康範1、鶴﨑 正勝2、西田 直生志1
※ 責任著者:工藤 正俊
所属:
1 近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)
2 近畿大学医学部放射線医学教室(放射線診断学部門)

【本件の背景】
これまで、切除不能の進行肝がんに対する薬物療法の一次治療薬には、レンバチニブとソラフェニブの2つがありました。これに対し、令和元年(2019年)11月、切除不能の進行肝がんについて、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法が、ソラフェニブと比較して大幅に生存期間を延長するという研究結果が発表されました。これにより、今後はアテゾリズマブ+ベバシズマブが肝がんに対する一次治療薬となると考えられています。
日本では、令和2年(2020年)9月25日、厚生労働省によりアテゾリズマブ+ベバシズマブが肝がんで初めての免疫療法として承認され、日常臨床でも使用可能となりました。しかしながら、アテゾリズマブ+ベバシズマブが不応となった後の二次治療についてはいまだ確立されておらず、有効な治療法を早急に確立する必要があります。

【研究の詳細】
本研究は、免疫チェックポイント阻害剤に不応となった肝がん(肝細胞がん)への二次治療としてレンバチニブが投与された36症例を対象としています。先行する免疫チェックポイント阻害剤の投薬期間中央値は3.7カ月(範囲:1.7-8.8カ月)で、多くの症例が免疫チェックポイント阻害剤の効果がなくなり中止されました。治療終了後、0.95カ月(範囲:0.055-4.08カ月)の期間をおいてレンバチニブが導入され、ほとんどの症例はレンバチニブを充分量内服できました。
免疫チェックポイント阻害剤の後で投与されたレンバチニブの無増悪再発期間※4 は中央値10.03カ月(範囲:8.3-11.8)で、レンバチニブ開始時点からの全生存期間※5 は中央値15.8カ月(範囲:8.5-23.2)、免疫チェックポイント阻害剤開始時点からの全生存期間は中央値29.8カ月(範囲:25.3-34.4)と極めて良好な成績でした。(下図)
肝がん治療効果判定に使用されるmRECIST(肝がん治療効果判定基準)による完全奏効は2.8%、部分奏効は52.8%、 病勢安定は30.6%、 病勢進行は11.1%で、奏効率55.6%、病勢コントロール率86.1%でした。レンバチニブ投与開始後4週目までに、83.3%の患者で腫瘍の縮小が観察され、4例を除く26例では再増大することなく、効果が維持されました。
切除不能肝がん(肝細胞がん)に対するレンバチニブの一次治療の成績はREFLECT試験※6 で報告された通りで、無増悪再発期間中央値は7.4カ月、全生存期間中央値は13.6カ月、奏効率は24.1%、病勢コントロール率は73.8%です。
今回の結果は、一次治療の開始時点からの全生存期間が29.8カ月と、レンバチニブ単独開始の全生存期間(13.6カ月)や免疫チェックポイント阻害剤、ニボルマブの一次治療の単独療法の全生存期間(16.7カ月)に比べ2倍程度、生存期間を延長したと言えます。
本研究は、二次治療以降のレンバチニブの成績ですが、免疫チェックポイント阻害剤が体内に残って免疫細胞に結合している期間に同薬を投与した点が独創的なポイントです。単純に比較することはできませんが、現在、臨床試験が進行中の免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法に劣らない治療成績が示されたことは、極めて重要な結果といえます。免疫チェックポイント阻害剤不応後の二次治療としてレンバチニブの高い有効性を示した本研究結果は、今後の肝細胞がん治療に大きなインパクトを与えると考えています。

免疫チェックポイント阻害剤の後で投与されたレンバチニブの無増悪再発期間

【用語解説】
※1 免疫チェックポイント阻害剤:がん細胞の一部は、免疫チェックポイントに偽シグナルを送ることで免疫から逃れ、増殖を繰り返して体に悪影響を与える。がん細胞を免疫チェックポイントに結合させなければ、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなる点に注目して開発された免疫治療薬。

※2 免疫微小環境:腫瘍組織やその周囲に混在する正常組織や免疫細胞、それらが分泌する液性因子など、様々な細胞・非細胞成分から構成されるもので、腫瘍の進行・増悪や免疫療法の有効性に大きな役割を果たすことが知られている。

※3 動脈化学塞栓療法:肝臓にできた悪性腫瘍の治療法のひとつで、足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、肝臓内の腫瘍を栄養する細い動脈までカテーテルを進めることにより腫瘍を栄養する動脈を詰める兵糧攻めともいわれる治療法。抗癌剤などを入れ、動脈の血流を遮断し、腫瘍細胞を壊死させる治療方法であるが、正常肝組織は門脈によっても栄養されるため壊死を免れる合理的な治療法である。

※4 無増悪生存期間:抗がん剤治療の成績に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪もしくは死亡が確認されるまでの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

※5 全生存期間:抗がん剤の臨床試験において、試験登録日もしくは治療開始日から生存した期間のことを示す。亡くなった原因は、がんによるものかどうかに関係なく、がん以外の病気や交通事故などで亡くなっても統計上は同じ死亡として取り扱われる。

※6 REFLECT試験:Child-Pugh分類Aの切除不能肝細胞がん患者に対して1日1回レンバチニブ8~12mg単剤療法を投与する群(N=478人)、または1日2回ソラフェニブ400mg単剤療法を投与する群に1対1の割合で無作為に振り分け、レンバチニブの予後延長効果をみた多施設共同非盲検下第3相試験。

【関連リンク】
医学部 医学科 教授 工藤 正俊 (クドウ マサトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html
医学部 医学科 講師 上嶋 一臣 (ウエシマ カズオミ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1540-ueshima-kazuomi.html
医学部 医学科 講師 田北 雅弘 (タキタ マサヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1772-takita-masahiro.html
医学部 医学科 講師 萩原 智 (ハギハラ サトル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1577-hagihara-satoru.html
医学部 医学科 講師 依田 広 (イダ ヒロシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1980-ida-hiroshi.html
医学部 医学科 講師 南 康範 (ミナミ ヤスノリ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1525-minami-yasunori.html
医学部 医学科 准教授 鶴﨑 正勝 (ツルサキ マサカツ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/650-tsurusaki-masakatsu.html
医学部 医学科 准教授 西田 直生志 (ニシダ ナオシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/653-nishida-naoshi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/

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