【名城大学・女子駅伝部】厳しい夏を乗り越え、一皮むけるために奮闘
名城大学女子駅伝部は今年も長野・富士見高原、岐阜・御岳高原で恒例の夏合宿を実施。昨年度は5年連続での「駅伝2冠」を成し遂げ、今年ももちろん駅伝での頂点を目指して研鑽に励んでいる。10月29日に宮城・仙台で開催される全日本大学女子駅伝まであと2ヵ月と残された時間は多くない。トラックシーズンは各々にとって反省の多いものとなり、課題に向き合ってこの鍛練期を過ごしている。厳しい夏を乗り越え、一皮むけるために奮闘する女子駅伝部の夏を紹介する。
シーズン前半は苦戦、 「〝このままでは勝てない〟という自覚を持ってほしい」(米田監督)
7月に北海道の各地で開催されたホクレン・ディスタンスチャレンジでトラックシーズン前半が終了。米田勝朗監督は今季前半を総括し、「全然だめですね」と苦笑いした。女子駅伝部は長らく駅伝で日本一の座を譲っていないが、それだけに「他のチームはこの6年間『勝ちたい、勝ちたい』と本気で思ってやってきているはずで、そういう状況と比べると甘さが出ている部分が否めません」と現在の状況に厳しい視線を向けている。
打倒・名城を目指す他大学が強化を進めてきたことは間違いなく、上級生が活躍する日本体育大学や、新入生が充実している大東文化大学といった駅伝でのライバル校の選手たちがトラックレースで好成績を収めている。
「〝このままでは勝てない〟と、それぞれが自覚を持たなくてはならないと伝えています」と米田監督は現状の厳しさを説く一方で、「各選手が持っている能力はあるので、この夏に心身ともに立て直せれば駅伝での勝負はできると思います」と信頼ものぞかせる。そして「あとは学生たち自身が、どこまで奮起するかですね」と、選手たちの主体性に任せる方針は一貫して変わっていない。
トラックで2人が日本代表に、アジア金メダリストも誕生
今季前半を振り返ろう。まずは今年、女子駅伝部から2選手が国際大会の日本代表に選出されている。6月4日~7日に韓国・醴泉で行われたU20アジア選手権に米澤奈々香選手(2年)が、7月28日~8月8日(陸上は8月1日~6日)に中国・成都で行われたFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバ)には原田紗希選手(2年)が出場した。
米澤選手はU20アジア選手権の5000mで金メダル(16分37秒37)、1500mでは銅メダル(4分25秒75)を獲得。「順位にこだわったレースをして、ラストで勝ち切れたのは良かったです」と振り返る一方、「一つひとつのレースに合わせられるため、ケガを未然に防げるようにしていきたい」と話すように、2月後半に転倒で左足首を痛めて以来、膝、股関節等のケガを繰り返し、U20アジア選手権も万全の状態ではなかった。その後、大腿骨の疲労骨折と診断され、一時休養。夏合宿では負担の大きいクロスカントリーなどのメニューは控えながら練習に取り組んでいる。「個人でしっかりと良い結果を出すことが駅伝につながってくると思うので、トラックレースで自己ベストを更新し、その後の駅伝に向けて調整していきたい」と秋のシーズンに目を向けた。
原田選手はユニバの選考大会だった3月中旬の日本学生女子ハーフマラソン選手権で3位(1時間11分12秒)に入り、自身初の国際大会出場を決めた。7月5日のホクレン・ディスタンスチャレンジ深川大会で10000mに出場(途中棄権)した後、北海道でのトレーニング期間中に蜂窩織炎(ほうかしきえん)という皮膚の下の組織に細菌が感染することによって起こる炎症で発熱。高熱のため出国の前日まで入院してから中国へ渡った。こういったコンディションの中での出場となり、本番では1時間16分36秒で14位のフィニッシュとなった。
「ユニバで絶対に金メダルを取るつもりで、それを最優先に考えて生活してきました。遊びに行かずに我慢したりもしていたのですが、直前にああいうことになってすごく悔しいというか、情けないというか……」と悔しさをにじませた。ただ、原田選手が他の出場選手とともに完走したことで日本は女子ハーフマラソンの国別団体戦で銀メダルを獲得。意義ある完走となった。
8月上旬に帰国、その後、すぐに長野・富士見高原での合宿に合流してトレーニングを再開。免疫力を高め、強い体づくりに励んでいる。昨年は調子が合わせられず駅伝出走が叶わなかっただけに、「今年は2つの駅伝を絶対に走りたいという気持ちがあります。これまで駅伝と個人のレースの目標で欲張ってしまっていたところがあったので、一番は駅伝だと考えて、合わせられるようやっていきたい」と強い思いを持っている。
故障を克服、チームを盛り立てる上級生
一方、ユニバの出場権を惜しくも逃したのが駅伝優勝メンバーの上級生。主将として今年度のチームを引っ張る増渕祐香選手(4年)、副主将の役割も務めている谷本七星選手(3年)は日本学生女子ハーフマラソン選手権でそれぞれ6位、5位、トラック種目の選考大会となっていた4月の日本学生個人選手権(神奈川・平塚)の10000mでも谷本選手が4位(33分25秒04)、増渕選手が11位(35分18秒98)にとどまって出場権をつかめなかった。
増渕選手はユニバの選考大会はいずれも状態が優れず、特に日本学生個人選手権は「すねの内側に痛みがあったのですが、(ユニバ出場への)最後のチャンスだったので、諦めきれなかった部分があります」と無理を押しての出場で、納得いく結果は出せなかった。5月からは仙骨の疲労骨折で約2ヵ月間走ることは控え、夏に入ってから本格的な練習を再開している。
「走っていなかった期間も、自分で練習を組み立てたことで成長できたと思います。やるべきことはやってきた自負があるので、ブランクはそこまで感じない走りはできていると思います」と前向きだ。「しっかり立て直して、秋の駅伝ではチームで一丸となって優勝をつかみ取りたい」と主将らしく語った。
谷本選手は1月にインフルエンザと新型コロナウイルスに立て続けに感染し、その後、筋力が弱った状態での練習で足にダメージを受けて「前半シーズンのレースはかみ合わなかった」と振り返る。しかし、7月15日のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会5000mで15分41秒24の自己新をマーク。
「調子が良かったわけではなく、気持ち的にも狙っていた大会というわけではなかったのですが、今までになく5000mを最後までうまく走れた感覚があったので、それは自信になります」と明るい兆しが見えている。今年のホクレン・ディスタンスチャレンジのシリーズではこれがチーム唯一の自己記録更新と、部を盛り立てることになった。「これまでは支えてもらう側でしたが、支える側になって、チームを引っ張っていきたい。もっとチームを盛り上げたいです」と上級生としての自覚が強まっている。
各自の課題に取り組んだ夏合宿
「合宿は皆勤です」と、春・夏合宿ともに練習を順調に積めているのは石松愛朱加選手(2年)。チーム内で故障者の多い今季、継続したトレーニングができている数少ないランナーだ。
「夏合宿では駅伝に向けて身体を作っていきます。クロカンでしっかり距離を踏んで、その後のスピード練習につなげていきたい」と充実した練習を行っている。ただ、「練習はできているのですが、試合で走れないということが多かったので自信が持てていない」と本音も漏らし、自信を得るためにも、日本インカレでの上位を目指して邁進している。
柳樂あずみ選手(2年)は2月頃から右アキレス腱の痛みで2ヵ月ほど走れず、春以降のトラックレースも「満足いくような走りは1回もできていません。(好調だった)昨年の自分と比べてしまって、精神的につらいときもありました」と苦い2年目となっている。
練習のできない期間があったことで「ほとんどゼロからのスタートになってしまったと思っているので、どこまでいけるかは自分なりの挑戦だと思っています。まだまだ伸ばさなければいけないところばかりですが、そこは〝伸びしろ〟だととらえていきたい」と自分を鼓舞している。
大河原萌花選手(2年)も春以来股関節の痛みや膝裏に力が入りにくい状態で、練習量を抑えながらトレーニングに取り組んでいる。「故障ぎみですが、体幹をしっかり鍛えている今の時期をプラスにとらえていきたい」と、故障が全快した際によりパワーアップできるよう励んでいる。
「昨年初めて5000mを走ったときには貧血で全然走れなかったので、今年はしっかり状態を合わせていい記録を出したい」と秋には5000mの自己記録更新も目指している。
選手層も厚い2年生は、1年生が加入したことで、先輩としてチームを盛り上げようという意識が高まり、積極的に声を掛け合っているそうだ。
この春チームに加わった1年生たちは、それぞれの課題をクリアするべく、初めての夏合宿に積極的に取り組んでいた。
瀬木彩花選手は「ひたすらついていっているような感じです。けがをしないように頑張りすぎないでコツコツやっています」と話す。「練習での距離を増やしたり、他の1年生が走る本数を追加していたら自分ももう1本走ったりするようになってきました」と身体が馴染んできている。6月4日のU20日本選手権3000mで2位(9分22秒76)。「全国大会で初めてメダルが獲得できたので素直にうれしかった」と笑顔を見せた。
同じく新人の薮谷奈瑠選手は6月頃に右足首とすねを痛めて1ヵ月半ほど練習を中断。その影響で出場予定だったトラックレースは見送ったものもあるが、「今は走り込みもできていい感じだと思います。継続が大事だと監督からアドバイスをもらったので、自分のできる範囲で距離を延ばして、自分で決めた距離を走れていると思います」と明るい表情だ。
初めての夏合宿は「みんな練習の空気は引き締まっているのですが、その他のところはリラックスできていて、オンとオフがしっかり切り替えられている」と感じているそうで、自身も高校生の頃よりメリハリをつけられるようになってきたと話す。
村岡美玖選手も6月初旬から右足大腿部の疲労骨折のため2ヵ月ほどは走らず、バイクやプールで別メニューに取り組んできた。苦しい時期となっているが、「夏合宿ではBチームで走りながら、徐々に体を慣らしています。状態を上げていくことを重視して、自分の状態に合ったメニューでやっています。駅伝に向けても『自分が走るんだ』という思いを持って取り組むことを大切にしたい」と奮起している。
世界陸上に出場した卒業生2人の頑張りが活力に
名城大学女子駅伝部にとってこの夏のうれしいイベントは、8月19日から27日にハンガリーのブダペストで開催された世界陸上だった。卒業生2人が日本代表として出場し、マラソンの加世田梨花選手(2021年3月法学部卒、現・ダイハツ)は19位(2時間31分53秒)、5000mの山本有真選手(2023年3月人間学部卒、現・積水化学)は予選1組20位(16分05秒57)でフィニッシュ。ともに初のビッグゲームながら積極的にチャレンジし、世界の強豪を相手に貴重な経験を積んだ。
現在の4年生は両選手ともに在学期間が重なっており、一緒に汗を流してきた存在だ。1年時に駅伝でタスキをつないだ経験もある増渕選手は「世界で戦うためには、やっぱり与えられた練習メニューだけではなく、自分で練習に向き合って、(練習量を)プラスするという姿勢が大事になるんだな、と身近で見ていて感じていました」と先輩たちと過ごした日々を振り返り、「今回の世界陸上へのお二人の出場を活力にして、私も頑張れると思います」と目を輝かせた。もちろん増渕選手だけでなく、各選手が世界の舞台で戦う先輩の姿に薫陶を受けたようだ。
夏のトレーニング期を終えれば、9月14日~17日の日本インカレ(埼玉・熊谷)、9月30日~10月1日のアスレチックチャレンジカップ(新潟)が主要なトラックレースとなる。 「駅伝までに他のチームに『やっぱり名城に敵わない』と思わせられるか、『勝てそうだ』と思わせてしまうのかで全然違う。秋からはもう試合は多くないので、これから何人の選手がしっかり走れる状態に仕上げられるかが勝負だと思います」と米田監督。駅伝に自信を持って臨むためにも、秋シーズンのレース結果がこれまで以上に重要な意味を持つことになりそうだ。
今年のチームスローガンは「有言実行 己に克つ」。上級生を中心に決めた標語だが、「この夏も昨年以前に引けを取らない練習をしています」と主将の増渕選手は胸を張る。名城大の選手たちは厳しい夏でも己に打ち勝ち、目標達成に向かって駆け抜けていく。