野生ミナミハンドウイルカの斑点模様の年齢や雌雄による違いを発見 生体を傷つけない年齢推定法の開発につながる世界初の研究成果
近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)博士前期課程(当時)八木 原風と講師 酒井 麻衣、御蔵島観光協会 小木 万布の研究グループは、伊豆諸島の御蔵島周辺海域に生息する野生のミナミハンドウイルカの斑点模様の変化と年齢の関係を明らかにしました。また、生殖孔※1 付近の模様が雌雄で異なることを世界で初めて発見しました。本研究成果により、ミナミハンドウイルカの斑点模様の機能解明や、生体を傷つけない水中観察のみでの年齢推定方法の開発につながることが期待されます。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)7月1日(木)に、海棲哺乳類学の国際誌"Marine Mammal Science"に掲載されました。
【本件のポイント】
●ミナミハンドウイルカの斑点の出現パターンと年齢の関係について、水中観察により調べた世界初の研究成果
●ミナミハンドウイルカの生殖孔付近の模様の雌雄差を世界で初めて発見
●斑点模様の機能解明や、生体を傷つけない年齢推定方法の開発につながる知見
【本件の背景】
鯨類の一つであるハクジラ亜目の一部の種には、哺乳類の中でも非常に珍しい、生活史を通した体色の変化が見られます。しかし、多くの研究フィールドでは船上から観察を行うため、生きているイルカの体色について詳しく観察することは困難です。さらに、鯨類の体色には個体群による違いも報告されているため、個体群ごとの調査が必要とされていました。
【本件の内容】
ミナミハンドウイルカ(学名:Tursiops aduncus)は、成獣になると腹部及び体側に斑点模様が出現します。これまで、斑点模様が性成熟の後に出ることが報告されていましたが、体全体を詳細に調べた研究はありませんでした。
透明度が高く、水中観察に適した伊豆諸島の御蔵島周辺海域では、周辺に生息するミナミハンドウイルカの個体を対象に、平成6年(1994年)から水中映像を利用した観察が行われており、多くの個体の実年齢と水中映像が蓄積されています。
本研究では、この個体群の水中映像を利用して、詳細な斑点の出現パターンと年齢や性別の関係を世界で初めて明らかにしました。
【論文掲載】
掲載誌 :
"Marine Mammal Science"(インパクトファクター:1.651,2020-2021)
論文名 :
Age-related changes to the speckle patterns on wild Indo-Pacific bottlenose dolphins.
(野生ミナミハンドウイルカの斑点パターンの年齢依存的な変化)
著 者:八木 原風1,2、酒井 麻衣1、小木 万布3
所 属:1 近畿大学大学院農学研究科
2 三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程
3 御蔵島観光協会
論文掲載:https://doi.org/10.1111/mms.12845
DOI :10.1111/mms.12845
【研究の詳細】
研究チームは、伊豆諸島の御蔵島周辺海域に生息するミナミハンドウイルカについて、斑点模様は生殖孔の周辺で6.5歳ごろに出現し、その後成長に伴い頭部及び体側に出現範囲が広がっていくことや、27歳までの間に斑点が増えていくことを確認しました。さらに、年齢不明の高齢個体は27歳の個体よりも多くの斑点を持つことがわかり、斑点は生涯を通じて増え続けると考えられます。
また、個々の斑点の形状にも変化があり、出現当初は点状の斑点が加齢に伴い楕円形に変化していきました。斑点の出現する年齢や増える方向は、個体間・性別間で大きな差が見られなかったことと、生活史を通して斑点が増えていくことが示唆されたことから、この斑点模様がミナミハンドウイルカの年齢形質として有用であると結論づけました。
一方で、生殖孔のすぐ近くには斑点が出現しない部分が存在し、これがメスではうちわ状であるのに対し、オスでは線状であることを発見しました。本種の体色について性的二型を報告したのは、本研究が初めてです。
本研究により、斑点の多さが年齢の指標になることや、生殖孔付近の模様の違いが雌雄判別の指標になる可能性が示唆されました。今後、イルカの斑点の認識能力などを調べることで、斑点の機能が明らかになることが期待されます。また、斑点の多さを指標として、生体を傷つけずに、年齢がわからない個体の年齢を推定する手法の確立に役立つ情報が得られました。
【用語解説】
※1 生殖孔:生殖器が収まっているスリット。イルカはオスの生殖器も体内に格納されているため、オスもメスも生殖孔を有する。
【関連リンク】
農学部 水産学科 講師 酒井 麻衣(サカイ マイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1358-sakai-mai.html