働くための最強アイテム、コミュニケーションスキルを身に付ける練習法を紹介の本 特別支援学校で教科書採用も
就労支援のためのSST−「仕事だいじょうぶの本」著者・北岡祐子さんの講演より
医療法人尚生会 就労移行支援事業・就労定着支援事業 (創)シー・エー・シー所長で精神保健福祉士の北岡祐子さんが、このほど、大阪SST研究会にて『就労支援のためのSST』というテーマで登壇。30年にわたり就労・生活を支援してきた北岡さんが、これまでの経験を一般の人にも分かりやすく伝えて、活用してもらいたいとまとめた初の著書『仕事だいじょうぶの本〜職場の人と安心してコミュニケーションできるSSTレッスンBOOK』(ペンコム・刊)をベースに、就労支援について解説しました。
当日の説明資料をもとにご紹介致します。
本記事の中盤以降で、同書から、「練習の方法」「あいさつ」「相談するスキル」を抜粋して掲載しています。
働くために必要なものはコミュニケーション
30年にわたり就労・生活を支援してきた北岡祐子さん。いろいろな働きづらさ(精神障害や発達障害、引きこもりなどの経験)のある方たちの就労支援を行う中で感じたことは次のようなことでした。
●仕事のスキルは、ある程度は身につけることができる
●しかし、働く力が発揮されない大きな理由のひとつは、コミュニケーション・スキルがわからないということ
具体的に、利用者の皆さんからはこういう声がありました。
「わからないことがあっても、2回以上質問できなかった」
「『もっと早くして』と言われたが、どうしていいかわからなかった」
「職場の皆の輪の中に入りたかったが、どうしていいかわからなかった」
「相談の仕方がわからなかった」
「うまく仕事ができなくても、言い訳をしてはいけないと思っていた」
つまり、「コミュニケーションの仕方がわからなかったため、ひとりで悩み、対処や解決方法がわからず、苦しまれた方がほとんどだった」のです。
そこで北岡さんは、思いました。
「コミュニケーションの方法・コツさえ知れば、練習して、スキルを使うことができるようになる!
働くコミュニケーションを身に付ければ、自信を取り戻し、前向きに働き充実した人生を送ることができるはず!
ならば、まずはコミュニケーション・スキルを自分で学ぼう」と。
そして、「コミュニケーション・スキルを身につけるというのは、社交的になることや友達100人作ることが求められているのではありません。例えば、職場において『その場で使えると働きやすくなる』という、その時々の言い方やポイントさえわかり、必要なときに自分で使えるようになればいいのです」と。
この時の思いを、次のように書いています。
「私は約30 年にわたり、精神および発達障がいのある人たちの『働く』ことを支援してきました。1990 年に米国で地域精神保健福祉を学ぶ機会があり、そこでSST を実際に受講し、これはすべての人に役立つと実感したのです。
その後、日本で始まった東京大学医学 附属病院精神科デイホスピタルでのSST 研修に参加し、早速、生活・就労支援プログラムに取り入れ、今日に至るまで事業所や利用者さん、ハローワークや企業の方から意見を聴きながら試行錯誤を重ね、現場に即したSST を構築してきました。」(『仕事だいじょうぶの本』P10より)
SSTとは、Social Skills Trainingの略で、社会生活に困難をきたす人に向け、その特性に配慮しながら、コミュニケーションや対処技能を効果的に学習するための方法として開発されました。今や、教育や就労関係、司法分野などにも幅広く活用されている援助技法です。
すべて実例。利用者さんからあがった「困ったこと」を解決する15の方法
北岡さんが事業所や研修等で行うSSTの特徴は、実際に利用者さんからあがった「困ったこと」を利用者さんやその場にいる人たちと共に知恵を出し合いながら練習していく点にあります。
著書で紹介している会話の例も、これまでに就労移行支援事業所やハローワークなどで行った実例に基づいています。
練習手順や参加者の意見をホワイトボードに書き出し、内容を写真撮影し、その都度、自宅でも練習できるようにとテキストにまとめて参加者に配布してきました。
みんなが悩み、対処方法を模索し、練習してきた長年の蓄積を本に盛り込んでいます。
【『仕事だいじょうぶの本』で解説している15のコミュニケーション練習テーマ】
1.あいさつの仕方
2.指示を受ける。指示を再確認する
3.報告する
4.連絡する(遅刻・早退・業務について)
5.相談する(仕事、休暇、体調等)
6.質問する。再質問する
7.電話応対
8.休暇を取る
9.お願いする
10.断る
11.仕事で注意や批判されたとき
12.仕事で失敗や間違いをしてしまったとき
13.休憩時間や宴会などでの雑談
14.プライベートな話題(自己開示について)
15.家族や支援機関に思いを伝える(病気など)
練習方法。できることから、できる範囲で。無理しないで取り組みましょう
練習すれば働くうえで必要なコミュニケーションスキルや対処法を身に付けることができます。そして、あなたの働く力と意欲が引き出されます。
しかし、練習はできることから、できる範囲で、無理しないで。継続が大事です。
1.1人で練習する場合
①「場面の例」を声に出して読んでみましょう。
②覚える必要はありません。何度も声に出して読んでいるうちに、自然とコツが身に付いていきます。
自分の仕事体験の例を会話に当てはめながら練習すると更に効果的です。
2.相手役と一緒に練習する場合
①知り合い(友人、家族、先生、支援者など)に相手役になってもらい、各項目の練習「場面の例」を、声に出して読んでみましょう。
②あなたの「困った実例」の解決法を相手役の人と一緒に考えて、あなたの実例に沿った練習をすると更に効果的です。
【このときの相手役の注意事項】
●相手役の人はできたところや良いところをほめましょう。本人の自信につながります。
●できないところを「指摘しない」「怒らない」「叱らない」「イライラしない」で進めましょう。
これから社会に出る高校生・大学生向け
「あいさつ」の練習
ここからは、コミュニケーションの練習方法を紹介します。
まずは、働くための基本。「あいさつ」の練習です。
あいさつは働く上で大切なコミュニケーションです。どの職場でもあいさつを大事にしていますし、大きな声でのあいさつは人間関係を円滑にします。「あ」かるく、「い」つも、「さ」きに、「つ」づけて、という言葉があります。
働く上で得をする「あいさつ」を場面ごとに練習していきましょう。
下記に、本文から抜粋して掲載します。
仕事が長続きしないと悩んでいる人向け
「相談する」コミュニケーション
「相談するスキル」こそが、長く働き続けることのできる大事なスキルの1つです。
『仕事だいじょうぶの本』に沿って練習してみましょう。
「相談するスキル」こそが、長く働き続けることのできる大事なスキルの1つ
仕事のこと、職場の人間関係、体調のこと、生活の中の悩みなど、日々過ごしていればいろいろな悩みが出てきます。1人で悩み続けると、仕事にも影響してしまうことがあります。また働く気力がなくなり、辞めたくなることもあります。実はこの「相談するスキル」こそが、長く働き続けることのできる大事なスキルの1つです。相手に相談することによって早く対処することができ、気分も持ち直し、またがんばって働こうという気持ちになります。
下記に、本文から抜粋して掲載します。
コミュニケーションを練習して再就職した先輩たちの声
本書では、コミュニケーション練習に加えて、実際に役立ったストレス解消法や、気分転換の方法など、具体的な情報を多く掲載しました。
このテキストで練習した先輩たちは次のように話しています。
●何度も練習し自信を取り戻し、スムーズに職場に馴染んでいけました。就労経験のない人や若い人にも有意義なトレーニングだと思います。
●会話が苦手で緊張して話せなかった私が、今は職場で休み時間にいろんな話ができることがすごく楽しい。
●私は休憩中の雑談の対処法について練習をしました。生きてきた中で何となく自然と身に付いていくと思い込んでいたようなことを、SSTではあえて取り上げて練習します。このコミュニケーションは、何となく身に付くことではありませんでした。練習し実践することでとても役立つスキルになりました。
「仕事だいじょうぶの本」に寄せられたご感想
お読み頂いたから、多くのご感想をお寄せ頂いています。一部をご紹介致します。
◎当事者視点でわかりやすく、実践で鍛え上げられた実に実践的ご本だと思います。 (精神科医 SST認定講師)
◎具体的な例があって、実践的なアドバイスが続いていますね。なるほど。私も社会に出る前に、こんなふうに教えてほしかった!(一般企業社員)
◎本はすごくいいと思う。相談に来た若者と、本を見ながらまず一緒に読み合わせして、やり方を本のセリフに合わせてロールプレイした。若者はやる気があってもどういえばいいのか言葉がわからない。練習しようといったら積極的に取り組んだ。どうしていいかわからなかっただけで、やり方がわかり練習すればできるようになる。挨拶も自分から言えるようになり顔つきも変わった。(ハローワーク)
生きるための最強のアイテム、コミュニケーション力を身に付けて
生きるための最強のアイテム、コミュニケーション力は、「ここぞ」というときに使える力です。
『仕事だいじょうぶの本』の出版に当たっては、実際にSSTで使っているテキストに加え、訓練に参加した人たちが直面した実例や、その解決法を取り上げてポイント解説もしています。
レッスンに参加しているようなデザインになっていますので、本人はもちろん、支援施設や職場、学校でも、すぐに活用していただけます。本書の内容に沿って、ぜひ声に出して練習してみてください。
職場のコミュニケーションに悩む方々、働きたい方々のお役に立てることを願っています!
書籍説明
●著者 北岡祐子 (キタオカ ユウコ)
就労移行支援事業 (創)シー・エー・シー所長
精神保健福祉士
精神保健福祉の仕事に携わって約30年。主に精神障がいや発達障がいのある方々の就労及び生活支援に携わってきた。
1990年米カリフォルニア州の地域精神保健福祉研修(地域生活・就労支援、ケースマネジメント、州立病院にてSST、コンシューマー・セルフヘルプセンター、ピアカウンセラー養成研修等)での経験が仕事の大きな礎となった。特にSSTの学びは働く力をつけるための有効なツールであることを実感。
現在は就労移行支援事業(創)シー・エー・シー所長。精神保健福祉士。社会活動として日本更生保護協会の保護司SST研修を担当するなど全国で講演活動も多い。1968年東京生まれ、島根大学教育学部卒、現在神戸市在住
『本人・家族のためのSST実践ガイド』『現代版 社会人のための精神保健福祉士』などへの執筆がある。
就労移行支援事業(創)シー・エー・シー https://www.minatogawa.jp/assist/work1.html
●目次
第1章「働くことが難しい」その原因は? 解決法は?
第2章 職場で今すぐ役立つコミュニケーション練習(基本編)
第3章 職場で良い人間関係を作る伝え方の練習
第4章 就職に向けて
第5章 就職活動
第6章 職場で役立つコミュニケーション練習(応用編)
第7章 上手な気分転換、仕事のストレス解消法
●仕様
書籍名 :『仕事だいじょうぶの本-職場の人と安心してコミュニケーションできるSSTレッスンBOOK』
著 者 :北岡祐子 就労移行支援事業 (創)シー・エー・シー 所長、精神保健福祉士
定 価 :1,980円(本体1,800円+税10%)
体 裁 :B5判/128ページ
I SBN :978-4-295-40545-0
●お問い合わせ先
株式会社ペンコム(担当:増田)
電話 078−914−0391(直通)
FAX 078−959−8033
メール office@pencom.co.jp Web https://pencom.co.jp/
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