柔軟な長鎖アルキル基の導入により融解する半導体配位高分子を開発 -PCP/MOFの成形加工性の飛躍的向上に期待-

関西学院大学の秋吉亮平助教、田中大輔教授、高村駿也さん(理工学研究科博士課程前期課程2年生)、小笠原一禎教授、大阪大学大学院工学研究科の佐伯昭紀教授、金沢大学の栗原拓也助教、近畿大学の大久保貴志教授、杉本邦久教授、Goo Zi Lang博士研究員(現 大阪大学大学院理学研究科)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の森祐紀研究員(現 兵庫県立大学大学院)、河口彰吾主幹研究員、中村唯我研究員、伊奈稔哲研究員、片山真祥主幹研究員、山田大貴主幹研究員、下野聖矢研究員らの研究グループは、柔らかいアルキル基を半導体配位高分子*1 に導入することで、融解可能な半導体材料の開発に成功しました。金属と有機架橋配位子から構成される有機-無機複合材料は、金属-有機構造体(PCP/MOF)や配位高分子(CP)と呼ばれ、現代の固体化学や材料科学の中核を担う結晶性固体材料です。これまでの研究では、多孔性(固体の結晶構造内部に細孔を持つこと)など結晶状態における周期構造に焦点が当てられてきましたが、近年では、融解や液晶性を示すMOFやCPが成形加工性の観点から注目されています。しかし、従来のMOFやCPの多くは、加熱すると融解する前に熱分解してしまうという問題がありました。本研究では、次世代半導体材料として期待される含硫黄CP*2 に柔軟な長鎖アルキル基を導入することで、半導体特性を維持したまま、融解性および液晶性を付与することに成功しました。このたびの成果は、これまで課題とされてきたMOFやCPの成形加工性の飛躍的な向上につながり、光電子デバイスなどで実用化されることが期待されます。本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に2026年2月9日付(日本時間)で掲載されました。
【ポイント】
・長鎖アルキル基を導入することで、半導体配位高分子に融解性および液晶性を付与することに成功しました
・導入するアルキル基の長さを調整することで相転移挙動*3 および半導体物性の調整に成功しました
・融解挙動を活用して薄膜を作製し、光電子デバイスとしての応用可能性を実証しました
【研究の背景と経緯】
MOFおよびCPは、2025年のノーベル化学賞の受賞にも象徴されるように、次世代の結晶性固体材料として大きな注目を集めています。これらの材料は高い設計自由度を有しており、気体の貯蔵や分離、触媒などへの応用が期待され、世界中で活発に研究が行われています。最近では、硫黄を配位原子とするMOFやCPが、金属-硫黄結合に由来する優れた半導体特性を示すことが実証され、光触媒としての利用はもとより、光電子デバイスへの応用の観点から注目されています。このように優れた半導体物性を示す含硫黄CPですが、従来型のCPやMOFと同様に、成形加工性に乏しいという課題を抱えていました。特に、太陽電池などの光電子デバイスを開発するためには薄膜の作製が不可欠ですが、CPの高い融点や溶媒に対する低い溶解性が、薄膜形成に向けた大きな制約となっていました。もし、液晶性や低融点を示す含硫黄CPを開発することができれば、融解過程を利用した材料プロセッシング(材料の真の価値を引き出す技術)が可能になり、塗布型半導体や半導体インクとしての利用が期待されます。
【研究成果】
このたび、研究グループは、狭いバンドギャップ*4 や高い電荷移動度*5 などの優れた半導体物性を示す含硫黄CPに対して、柔軟な長鎖アルキル基を導入することで、融解性および液晶性を付与することに成功しました。本研究で開発したKGF-34(C6)と呼ばれる含硫黄CPは、鉛-硫黄結合から成る無機骨格と柔軟な長鎖アルキル基から構成されており、優れた半導体特性と構造柔軟性の両方を併せ持つ新材料です(図1a)。また、KGF-34(C6)は、柔軟な有機分子を組み込んだ無機材料と捉えることもでき、このような材料は「超セラミックス」*6 と呼ばれる新しい物質群としても注目を集めています。
研究グループは、KGF-34(C6)が高い光伝導性を示すことを見出し、その伝導機構を明らかにしました。また、大型放射光施設SPring-8*7 のビームライン(BL01B1、BL02B1、BL02B2、BL04B2)における放射光実験を通して、液晶転移や融解などの相転移に伴う構造変化を解明することに成功しました(図1b)。さらに、KGF-34(C6)の融解性を活用して薄膜デバイスを作製し、光検出器として応用可能であることを実証しました(図2)。加えて、導入するアルキル基の長さを変化させることで、半導体特性や融点、液晶特性の最適化に成功しました。

【今後の展開】
本研究では、次世代の半導体材料として期待される含硫黄CPに柔らかいアルキル基を導入することで、有機半導体のように低い融点や液晶性を備えた半導体材料の開発に成功しました。今後は、これらの材料を基盤とした電界効果トランジスタ*8 などへの応用展開が期待されます。また、本研究で得られた知見をその他の含硫黄CPに適用することで、塗布による薄膜作製が可能となり、含硫黄CPを基盤とした光電子デバイスの開発が加速的に進展すると期待されます。また、本戦略は含硫黄CPのみならず、多様なMOFやCPにも適用可能であり、これまで課題とされてきたMOFおよびCPの材料プロセッシングに革新を切り拓くと考えられます。
【研究助成】
本研究は、豊田理研スカラー、川西記念新明和教育財団、徳山科学技術振興財団、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP22H05145、JP23K26503、JP23H04637、JP23H04642、JP25H01660、JP25H01688、JP25H01689、JP25K18054)の支援により行われました。
【論文情報】
タイトル:Meltable Semiconducting Lead-Thiolate Coordination Polymers with Long Alkyl Chains
著者 :Ryohei Akiyoshi*、Shunya Takamura、Chie Sawada、Naohiro Takahashi、Takashi Okubo、
Akinori Saeki、Zi Lang Goo、Kunihisa Sugimoto、Yuki Mori、Shogo Kawaguchi、
Yuiga Nakamura、Toshiaki Ina、Misaki Katayama、Hiroki Yamada、Seiya Shimono、
Takuya Kurihara、Kazuyoshi Ogasawara、Daisuke Tanaka* (*責任著者)
掲載誌 :Angewandte Chemie International Edition
DOI :10.1002/anie.202518379
URL :https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202518379
【用語の説明】
*1 半導体配位高分子:電気をよく通す導体とほとんど通さない絶縁体の中間的な性質を示す配位高分子。
*2 含硫黄CP:硫黄を配位原子とするCP。金属-硫黄結合に由来する優れた半導体特性を示す。
*3 相転移挙動:氷が溶けて水になるように、温度や圧力などの外場によって物質が異なる状態に変化する現象。
*4 バンドギャップ:電子に占有された最も高いエネルギーバンドの頂上から、最も低い空のバンドの底までの間のエネルギー差。
*5 電荷移動度:電流を担う電荷の移動のし易さを示す指標。
*6 超セラミックス:無機材料に分子性のユニットを組み込んだ新材料。
*7 大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設。利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行う。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
*8 電界効果トランジスタ:電圧を使って電流の流れを制御する半導体デバイス。
【関連リンク】
理工学部 エネルギー物質学科 教授 大久保貴志(オオクボタカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/345-okubo-takashi.html
理工学部 理学科 教授 杉本邦久(スギモトクニヒサ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2743-sugimoto-kunihisa.html


