基礎医学医療研究に向けた助成金「生体の科学賞」 基礎生物学研究所の野田 昌晴氏が第2回の受賞者に決定
公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団(所在地:東京都文京区本郷1丁目28番24号 IS弓町ビル7階、理事長(代表理事):野々村 禎昭)は、2018年2月15日(木)、第2回「生体の科学賞」を基礎生物学研究所の野田 昌晴氏に授与することを決定しました。
受賞概要
受賞者氏名:野田 昌晴(のだ まさはる)
1953年8月25日生(64歳)※2018年3月9日現在
所属 :自然科学研究機構 基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門
役職 :教授
所在地 :愛知県岡崎市明大寺町字東山5-1
履歴 :1977年3月 京都大学工学部工業化学科卒業
1979年3月 京都大学大学院工学研究科修士課程修了
1983年3月 京都大学大学院医学研究科(生理系専攻)博士課程修了
1983年4月 日本学術振興会・奨励研究員
1984年4月 京都大学医学部・助手(医化学第二講座)
1985年4月 京都大学医学部・助教授(分子遺伝学講座)
(1989年4月~1991年8月 マックス-プランク発生生物学研究所客員研究員)
1991年9月基礎生物学研究所・教授(統合神経生物学研究部門)、
総合研究大学院大学・教授(基礎生物学専攻)
賞金 :500万円
授賞式 :2018年3月9日(金)17時
株式会社医学書院・会議室
東京都文京区本郷1丁目28番23号
テーマ
食塩感受性高血圧発症の脳内機構の解明
Elucidation of neurogenic mechanisms for salt-induced blood pressure elevations
研究の目的
地球上の動物が海から陸上に侵出して以来、陸生動物は常に水と塩の確保に悩むことになった。動物の細胞内液のミネラル組成は、生命が誕生した38億年前の海のもの([Na+]=~10mM)、細胞外液(体液)のミネラル濃度組成は、多細胞生物が出現し陸に上がった時代(~4億年前)の海水のそれ([Na+]=~145mM:生理的食塩水濃度と呼ばれる)と言われている。特にNa+濃度は浸透圧を決定する最大の因子であり、体液のNa+濃度は広く動物界で保存されている。動物は脱水状態に陥ると体液のNa+濃度が数%上昇する。これを脳が感知して、喉が渇いたという感覚を生じさせ飲水を促すとともに、塩分の摂取を避ける行動を取らせる。
一方、長期間に亘って塩を摂れない情況が続くと体液中のNa+濃度は低下し、動物は塩欲(salt appetite)を覚え、ミネラル分の多い土を摂るなどして塩分の補充につとめる。ヒトは塩を食塩として食卓に確保できている唯一の動物であり、現在では逆にその過剰摂取が高血圧症等の原因として問題となっている。
体液状態は、脳内でNa+濃度センサーあるいは浸透圧センサーによってモニターされていると推定されてきたが、その実体は長い間不明であった。申請者らは、機能不明であったNaxチャネルが、感覚性脳室周囲器官(sCVOs)である、脳弓下器官(SFO)や終板脈管器官(OVLT)に特異的に発現している(図1参照)、脳内Na+濃度センサーであることを一連の研究で明らかにしてきた(発表論文8~22参照)。sCVOsには、血液と脳組織の間の物質の出入りを制限する血液-脳関門が無い。また、SFOとOVLTは第三脳室前壁部にあり、脳室内の脳脊髄液とも接しており、血液と脳脊髄液の両方を同時にモニターすることが可能な部位である。脱水状態の動物では体液のNa+濃度が上昇するが、Nax-KOマウスはこれを感知できず、脱水状態でも塩分摂取を止めないという異常を示す。
食塩感受性高血圧発症のメカニズムとしては、血中のNa+濃度が上昇し、浸透圧差により水が血管内に入ることによって、血液量が増えるためと長い間説明されてきた。一方で、脳脊髄液中のNa+濃度を上昇させると高血圧を発症することから、食塩感受性高血圧における交感神経活性化の重要性も指摘されていた(Van Huysse JW et al., Hypertension, 2012)。交感神経活性を規定する部位は脳であり、中でも頭側延髄腹外側野(RVLM)は最終的な交感神経性出力を決定する部位である(Stocker et al., Hypertension, 2015)。ところが今年になって、通常の動物に対して長期的に高塩分食を与えると、血中Na+濃度は上昇しないにも関わらず、脳脊髄液中のNa+濃度が上昇し、交感神経の活性化により高血圧を発症することが報告された (Gomes PM et al., Sci Rep., 2017)。しかしながら、そのメカニズムは不明のままである。
本研究の目的は、食塩感受性高血圧発症の脳内機構を解明することである。食塩感受性高血圧は本態性高血圧症の半数を占めており、その発症機構の解明が待たれている。
生体の科学賞について
生体の科学賞は基礎医学医療研究領域における独自性と発展性のあるテーマに対して、現在進行しているもの、計画立案中など、現時点の状況は問わず、研究に要する費用への支援を目的とした助成金です。よって、一定程度の期間経過後に報告書の提出を求めますが、助成金の明細、使途、使用期限に関する制限は設けていません。
この賞の名称は当財団の発行する機関誌「生体の科学」から命名したものであり、今後継続して毎年11月に応募を受け付け、翌年2月に受賞者を決定します。また、所属大学・研究機関等の申請側の推薦あるいは承認等を必要とせず、個人が自由に行うことができます。応募回数に制限はなく、何度でも応募可能です。
生体の科学賞選考委員(五十音順・敬称略)
岡本 仁 :理化学研究所脳科学総合研究センター副センター長
金原 優 :株式会社医学書院代表取締役会長
野々村 禎昭:東京大学名誉教授
藤田 道也 :浜松医科大学名誉教授
本郷 利憲 :筑波大学名誉教授
松田 道行 :京都大学大学院教授
公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について
当財団は、株式会社医学書院の創立者、故金原 一郎の遺志を継ぎ、基礎医学・医療研究への資金援助と人材育成を目的として1986年12月に設立されました。具体的な活動内容は、基礎医学・医療分野の(1)研究への助成、(2)研究対象の学会・研究会および研究者の海外派遣への助成、(3)外国人留学生への助成、(4)研究成果の出版に対する助成、(5)その他財団の目的を達成する為に必要な事業、などです。
1987年4月より活動を開始、特に主要である助成事業について、対象は国内の研究者にとどまらず、留学生受入助成金もあり、助成金の累積総額は11億円を超え今後の活動に一層の期待が寄せられています。また、これらの事業内容により2012年4月1日に公益財団法人の認定を受けました。
詳細については財団のウェブサイト http://www.kanehara-zaidan.or.jp/ を参照してください。