野生イルカの体長を触らずに測り、保全につなげる 自由に泳ぐ野生イルカの体長を簡便に推定する方法を確立 3Dカメラ撮影による簡便な方法で、野生のイルカ85頭の体長を測定し、「成長曲線」を得た
【概要】
三重大学大学院生物資源学研究科の森阪 匡通准教授、大阪公立大学の濱 裕光客員教授(大阪市立大学名誉教授)、近畿大学の酒井 麻衣講師、および御蔵島観光協会の小木 万布氏(三重大学の生物資源学研究科博士前期課程を修了)の研究グループは、イルカを撮影するだけで簡便に体長を推定する方法を確立し、伊豆諸島御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカの85頭の体長を計測することに成功しました。この結果から、何歳でどのくらいの体長になるのか、という「成長曲線」を描くことができました。これを用いることにより、例えばエサ不足による栄養状態の悪化などをいち早く発見できる可能性があり、個体群の健康状態のモニタリングに重要な役割を果たすと期待されます。この研究成果は、ドイツの哺乳類の生態に関する国際誌(Mammalian Biology)の特集号に2022年9月23日付で掲載されました。
【背景】
透明度の高い御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカは、30年弱のイルカスイムの歴史があり、観光資源として重要です。また28年にもわたる個体識別調査により、現在約140頭いるイルカたちのほとんどに名前が付けられており、多くの親子関係がわかっているなど、研究資源としても極めて重要です。ところが、2008年から2011年に個体群の約3割の個体がこの場所からいなくなる出来事があり、イルカたちの健康状態をきちんとモニタリングしなければならないと感じました。そこで体長を測定し、栄養状態の悪化などを調べられるような、「成長曲線」をこのイルカの個体群に対して作成することにしました。しかし自由に泳ぎ回る野生のイルカの体長を水中で測定するような、簡便な方法はありませんでした。
【研究内容】
まず、市販の3Dカメラを水中ハウジングに収めたシステム(図1)で、イルカを水中で撮影するだけで、簡便に体長を推定する方法を確立しました。これを用いて御蔵島の野生のミナミハンドウイルカを対象に、6年間で計85頭の体長を計測しました(図2)。この結果をもとに、何歳でどのくらいの体長になるのか、という「成長曲線」を描くことができました(図3)。成長曲線は、私たち人間でも、子どもの成長障害などを発見するのに用いられていますが、野生のミナミハンドウイルカで描くことができたことで、例えばエサ不足による栄養状態の悪化などをいち早く発見できる可能性があります。個体群全体の健康状態のモニタリングに重要な役割を果たすと期待されます。
【今後の展望】
現在のシステムは、撮影の際、シャッターを押してから撮影されるまでの時間差があり、適切な位置での撮影が難しい点があります。また、4%程度の誤差があります。そして残念ながら本研究で使用している市販の3Dカメラが廃盤になりました。今後はビデオカメラを用いてさらに精度の高い、かつ簡便なシステムを作成し、個体群の保全のためのモニタリングを続けて行きたいと考えています。
【論文情報】
掲載誌 :Mammalian Biology
掲載日 :2022年9月23日(https://doi.org/10.1007/s42991-022-00304-9)
論文タイトル:Body length and growth pattern of free-ranging Indo-Pacific bottlenose dolphins off Mikura Island estimated using an underwater 3D camera
著者 :Morisaka T, Sakai M, Hama H, Kogi K
論文全文:https://rdcu.be/cV9a2 (SharedItリンク)
【関連リンク】
農学部 水産学科 講師 酒井 麻衣(サカイ マイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1358-sakai-mai.html