「霜降り豚肉」を効果的に作出する飼養技術を開発 国産豚肉の国際競争力アップに向けて大きく前進

2023-05-31 14:00
アミノ酸比率法で肥育した三元豚(左)、通常配合飼料で肥育した三元豚(右)(写真提供:独立行政法人家畜改良センター)

近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)食品安全工学科准教授 白木 琢磨(しらき たくま)らの研究グループは、国内で最も多く生産されている食用豚である三元豚を、効果的に霜降りにする「アミノ酸比率法」を用いた飼養技術を改良し、汎用性の高い配合飼料での開発に成功しました。

【本件のポイント】
●「アミノ酸比率法」を用いた効率的な霜降り豚肉の生産を実現
●三元豚における脂肪交雑※1 向上のための飼養技術のガイドラインを作成
●本技術により国産豚肉の高品質化を実現し、国際競争力アップに向けて大きく前進

【本件の内容】
近畿大学生物理工学部らの研究グループが、国内で最も多く生産されている食用豚である三元豚を、効果的に霜降りにする「アミノ酸比率法」を用いた飼養技術を改良し、汎用性の高い配合飼料での開発に成功しました。通常配合飼料で肥育した三元豚のロースでは粗脂肪※2 が4%程度であるのに対し、研究チームがアミノ酸比率法を用いて設計した飼料で肥育した場合、ロースの粗脂肪が8%程度まで上昇し、見た目にもロースが霜降りになることがわかりました。
この成果をもとに、「豚肉における脂肪交雑向上のための使用技術のガイドライン~アミノ酸比率法の導入~」を作成し、日本全国の畜産関連団体に普及活動を行います。令和5年度(2023年度)には、一般農家における大規模実証試験も予定しており、国産豚肉の高品質化による国際競争力アップに向けて大きな前進が期待されます。
なお、本研究は令和2年度(2020年度)から令和4年度(2022年度)の日本中央競馬会畜産振興事業「飼養技術の最適化と消費者評価による国産豚肉の競争力強化事業」として実施されました。

【アミノ酸比率法】
元近畿大学生物理工学部教授 入江 正和(現独立行政法人家畜改良センター理事長)らにより、平成15年(2003年)に、廃棄パンを利用したエコフィード※3 が食味の優れた霜降り豚肉を生み出すことが見出されました。その後、近畿大学が平成27年(2015年)から平成29年(2017年)に主導して行った農林水産省の「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(課題番号:27005B)」(研究代表者:入江 正和、白木 琢磨)により、飼料に含まれるリジンの量と粗タンパク質量(CP)の配合比が霜降り豚肉の作出に重要な要素であることがわかり、その効果的な配合による飼養技術を「アミノ酸比率法」と命名しました。なお、エコフィードは利用が進んでいますが、安定的な入手が困難なこともあるため、本事業では飼料の安定性と試験の精度を高めるために、エコフィードよりも入手しやすい配合飼料を用い、より効果的なアミノ酸比率法を確立しています。

【教員プロフィール】
白木 琢磨(しらき たくま)
所属   :近畿大学生物理工学部 食品安全工学科 准教授
学位   :博士(人間・環境学)
専門分野 :生化学
研究テーマ:ライフサイエンス、動物生産学
コメント :牛肉においては日本固有の黒毛和種が、霜降りを生み出すことでさまざまな高級ブランドとして世界に羽ばたいています。一方、豚肉はこれまで日常的に家庭で食べられるテーブルミートとして、主に低価格化の追求がなされてきました。今回作出された霜降り豚肉を世界にさきがけて「食べる」機会を得て、やはり美味しさは食肉においてとても重要な価値を生み出すことを実感しました。我々の作った豚肉が、新しいブランドとして日本全国に流通するのを期待しています。

【用語解説】
※1 脂肪交雑:霜降りの度合いのことで、脂肪交雑基準によって12段階で評価し、等級を決定する。昭和30年代に生体取引から枝肉取引※ に移行するにあたり、食肉の公正な価格安定を目的に枝肉取引規格が設定された。さらに昭和60年代には肉重量だけでなく肉質の判定材料として、まず牛に関して脂肪交雑、肉の色沢などの基準が導入された。豚枝肉においても近年になり脂肪交雑が評価されるようになり、国産豚肉の高品質化の指標として期待されている。
※ 食肉販売業者と家畜の生産者や家畜商とが、肉畜を生きた状態のままではなく枝肉の状態にしてから取引すること。

※2 粗脂肪:食品の栄養成分表示の炭水化物、たんぱく質、脂質に分類される脂質に相当する量であり、豚ロースからエーテル抽出により抽出される物質の量として示す。脂肪だけでなく脂溶性のさまざまな成分も含むため、粗脂肪と呼ばれる。牛ロースで霜降りと呼ぶ場合、粗脂肪は50%を超える場合も多いが、豚ロースでは見た目から霜降り豚肉と呼ぶ場合でも粗脂肪は6~7%程度である。

※3 エコフィード:通常、肥育は配合飼料を用いて行われることが多いが、日本の畜産では輸入飼料に依存しているため、畜産農家の収入を圧迫しているのが現状である。この現状を打開するために、主に食品工場から出る食品残渣を飼料として用いることが考案された。SDGsの重要性が高まるなか、昨今話題となっている食品ロスの問題に古くから対応している事例として、エコロジーおよびエコノミーのエコ(eco)とフィード(飼料)とを合わせた造語として、エコフィード(ecofeed)と呼ばれるようになった。

【関連リンク】
生物理工学部 食品安全工学科 准教授 白木 琢磨(シラキ タクマ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/840-shiraki-takuma.html

生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/

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