~細胞治療による安価で有効な革新的血管新生療法の開発を目指して~ 包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)患者を対象とした自家末梢血単核細胞と移植用細胞足場Injectable cell scaffold(ICS-001)の併用による医師主導治験
兵庫医科大学(兵庫県西宮市、学長:鈴木敬一郎)、大阪公立大学、近畿大学、株式会社ソフセラ、グンゼメディカル株式会社および神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター(TRI)は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以下、「AMED」)橋渡し研究プログラム(橋渡し研究支援機関:国立大学法人岡山大学<以下「岡山大学拠点」>)の支援のもと、兵庫医科大学病院(病院長:阪上雅史)において、「既存治療抵抗性の難治性潰瘍を有する包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)患者を対象とした、自家末梢血単核細胞と移植用細胞足場ICS-001の併用による医師主導治験」を、本年8月に治験届を提出し、開始しました。
本治験では、予定症例6例により、ICSの臨床POC(Proof of Concept:概念実証)を取得します(First in humanでの安全性の確認、有効性の推定)。今後3年間の間に本探索的治験を終了し、今後の検証的治験を経て、既存治療抵抗性の難治性潰瘍を有する重症下肢虚血に対する血管新生療法としての製造販売承認の取得を目指します。
【本治験のポイント】
<課題と期待される有効性・効果>
●これまでの血管新生を目的とした細胞治療の課題:既存の血行再建術(血管内治療やバイパス術)に抵抗性のCLTIにおいて、血管新生を目的とした、自己の骨髄や末梢血単核細胞の細胞移植が開発されてきたが、有効性が十分に示されていない。
●細胞治療による血管新生効果の向上:ICSの併用により、移植細胞を虚血組織に留まらせ、血管新生効果を向上させる低侵襲治療を開発する。
●低侵襲で有効な新規血管新生細胞治療の提供:低侵襲な自己末梢血単核細胞とICSを組み合わせ、既存治療抵抗性のCLTIに対する有効な血管新生細胞治療を提供する。
●血管新生効果の高いCD34陽性細胞を多く含む自己末梢血単核細胞の使用:今回、ICSと併用する末梢血単核細胞は、血管新生効果を有するCD34陽性細胞を骨髄からより多く誘導するため、CD34陽性細胞などの造血幹細胞を末梢血に誘導する方法としてすでに臨床応用されている、G-CSF製剤(フィルグラスチム[グラン®️])及びプレリキサホル(モゾビル®️)を使用しています。
●低コストな医療機器カテゴリーでの細胞治療開発:高額になりやすい再生医療等製品ではなく、ICSを医療機器として開発することで、安価な血管新生細胞治療が可能となる。
<強力な開発体制>
●多くの大学・開発企業の支援による兵庫医科大学病院における医師主導治験
●細胞治療による血管新生療法に豊富な経験を有する神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター(TRI)による治験調整事務局
●AMED橋渡し研究プログラム(岡山大学拠点)による強力な開発支援
【本研究の背景】
CLTIを対象とした細胞移植による血管新生療法の開発が行われてきましたが、その有効性は未だ十分なものではありません。CLTIにて症例数の多い閉塞性動脈硬化症が原因の場合、標準治療である血行再建術、特に血管内治療の短期有効性は高いのですが、毛細血管・細動脈レベルの血管新生療法の効果評価は困難なことが背景にあると考えられます。
一方で、細胞移植による血管新生効果は、移植細胞自らが新生血管になる直接的寄与よりも、移植細胞が分泌するサイトカインによる間接的寄与が重要とされています。しかし、単核細胞などの移植細胞はほとんどが早期に体循環に移行することで、虚血組織に留まることは少ないことが報告されており、移植細胞を長期間虚血組織に留まらせることで、血管新生効果の飛躍的な向上が期待できます。
我々は細胞移植による血管新生療法の向上を目指し、移植細胞と接着させて移植可能な基材ICS-001の開発を行ってきました。原価の安いICS‐001と末梢血単核細胞を組み合わせることで、安価な細胞治療が可能となります。
これまでの研究開発でICSの非臨床POCを取得し、非臨床安全性評価も終了しておりますので、この度、ICS-001を用いた血管新生療法確立を目的とした探索的医師主導治験を、治験届の上、開始しました。
【対象疾患】
既存治療抵抗性の難治性潰瘍を有するCLTI
【本治験について】
<治験課題名>
難治性潰瘍を有するCLTI患者を対象とした自家末梢血単核細胞担持ICS-001移植による血管新生療法の探索的試験
<治験識別記号>
ICS-001
<対象患者および目的>
既存治療抵抗性の難治性潰瘍を有する包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)患者(6例)に対して、G-CSF製剤(フィルグラスチム[グラン®️])及びプレリキサホル(モゾビル®️)併用下にアフェレーシスにて採取した造血幹細胞(CD34陽性細胞)を多く含む自家末梢血単核細胞を担持させたICS-001移植による血管新生療法の安全性の確認を主目的とする。
<実施体制>
治験実施医療機関及び自ら治験を実施する者(治験責任医師)
兵庫医科大学病院 血液内科 山原研一
治験調整事務局
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター(TRI)
治験機器提供者
株式会社ソフセラ
モニタリング・監査
岡山大学病院 新医療研究開発センター
治験機器評価
大阪公立大学、近畿大学、グンゼメディカル株式会社
統計解析・データマネジメント
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター(TRI)
【備考】
※ Injectable cell scaffold(ICS)
ICSは直径約50umの球状構造であり、中心部は生体吸収性高分子、表面はハイドロキシアパタイト(HAp)単結晶で被覆されている。HApは細胞接着能を有するため、移植細胞をその表面に担持することができ、虚血組織に移植細胞を長時間留めることで、高い血管新生効果を発揮する。
※ 医師主導治験
製薬企業ではなく、医師自らが、計画立案から実施・報告等の業務および運営のすべてを行う治験(医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる臨床試験)のこと。
※ 本研究関連の助成について
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 橋渡し研究プログラム シーズC(b)(2023年度~2025年度<予定>)
【関連特許】
特許第 5725489号
発明の名称:医療用組成物およびキット
特許権者 :大阪公立大学、国立循環器病研究センター
特許第 5463504号
発明の名称:非球形微粒子および非球形微粒子の製造方法
特許権者 :国立循環器病研究センター、グンゼ株式会社、株式会社ソフセラ
【関連リンク】
生物理工学部 医用工学科 教授 古薗勉(フルゾノツトム)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/603-furuzono-tsutomu.html