特別インタビュー「教師のやりがいとは何か」手島純先生 天野一哉先生(後半)

2025-04-23 10:00

特別インタビュー「教師のやりがいとは何か」手島純先生 天野一哉先生(後半)

「教員のやりがいとは何か_キーワードで見える教育の理想と現実」(2025年,小鳥遊出版)
本書は本年度より、教職科目「教職概論」の教科書に指定されています。
この本の完成に至った経緯と、タイトルに込めた思いを、お二人の先生にお話を伺いました。

ブラック職業という記号からの脱出

(天野)
みなさん、こんにちは。星槎大学のトム・クルーズこと天野一哉です。まず、私たちが担当している「教職概論」という科目について説明します。この科目は、教職課程の中で、入門・基礎科目という位置づけです。ちょっと堅苦しい言い方になりますが、大まかに言うと、教職の意義や教師の職務内容の理解を目的とする科目です。
手島先生と一緒にこの「教職概論」を担当することになった*タイミングで、「令和の日本型学校」(令和3年 中央教育審議会答申)をテキストにしました。現在の教育課題が網羅されているので、これはこれで、とてもよかったなと思っています。ただ、より星槎らしい授業を展開するためには、やはり自分達でつくったテキストが必要と考えたわけです。
*2024年度カリキュラム変更に伴い、初等と中等に分かれていた科目が共通化された
かつて教師は「聖職者」という記号(シンボル)でイメージされていました。ところがここ数年は「ブラック職業」という記号が急速に広がり、それが定着してしまった。このことは、現在の教育、そして未来の教育に非常に大きな影響を与えます。つまりブラックな教師という職業が敬遠され、
優秀な教師志望者が減少するということです。その行き着く先は、教育の質の低です。
これは、日本の教育のみならず社会にとっても非常に大きなダメージになります。日本は今まさに、その大きな曲がり角に立っています。今、教員のブラックな状況を変えないと、日本の社会は取返しがつかないことになるでしょう。

やりがいを取り戻す

「やりがい搾取」という言葉があります。搾取というからには、誰かが、誰かから何か大切なものを奪っているということです。それは誰なのか、どのような搾取なのかを明らかにして、改善・改革していくことが必要でしょう。
話題になった「御上先生」というテレビドラマの中で、「The Personal is Political(個人的なことは政治的なこと)」という言葉が印象的に取り上げられていました。これは、1960年代の社会変革運動で流行した言葉です。教員のやりがいが搾取されていった中で奪われたものの1つは、広い意味での政治(Politics)だったのではないかと考えています。
私の子どもの頃は、教師がストライキをやり、授業がなくなるということは、ままありました。労働者は、権利としてストライキをして意思表示をする、という時代が確かにあったのです。それはまさに教育と政治が直結しているからです。しかし、現在はその権利が実質的に奪われています。
その結果、子どもとの関わり合いこそが重要なのに、事務仕事が多かったり、会議で時間をとられたりと、子どもとの関わり以外の時間が増えました。また、学校の組織化・効率化の中で、校長のリーダーシップが強化され、教師個人の決定権はなくなり、やらされ感が増しています。
その対処の一つは学校の中の事務職員の数を増やすこと。事務職員の人数が増えれば、教師1人当たりの仕事量が減ると分かっているのに、それが進まないのが現在の状況です。これは政治の責任です。
この状況を改善するには、「The Personal is Political」を、つまり政治の問題を真剣に考えなければなりません。教師はもとより、生徒も保護者も政治に参画し、連帯していかなければならないと考えています。これは本書の中で詳しく説明していますが、ストライキに限らず、選挙の投票行動や学校内外での意見表明等の正当な抵抗権の行使、つまり政府に対する改善要求を行うことが、この状況を変える処方箋になると考えています。

未来にコミットする仕事であるという意識

教師には、知識だけでなく、意識が必要です。教師になるための入門の科目である「教職概論」では、「自分は何のために教育するのか」そのために「どう行動するのか」ということを考える場を提供しています。例えば、「児童生徒の未来を開くために教育をやる」、そのために「キャリア教育を学ぶ」とか、そういう、未来にコミットする仕事であるとい主体的な意識持ってもらいたい。ですから、テキストで自学自習を行った上で、授業(スクーリング)で意見表明や対話を行い、意識を高めるようなプログラムにしています。
知識と意識を持ち、さらにスキルをつけるために専門的な指導法の科目を学び進めていく。そんなふうに教員養成課程のカリキュラムイメージを持っています。
『教員のやりがいとは何か』には、テキストプラスアルファの授業(スクーリング)をするために、コミュニケーション、リテラシー、主権者教育等のキーワードをあげました。学生のみなさんはぜひ、テキストを精読し、スクーリングを楽しんでもらいたいと思っています。乞うご期待!!

話者プロフィール:天野 一哉(あまの かずや)
京都生まれ。高校中退後、早稲田大学第一文学部史学科卒業。中国中央戯劇学院留学。京都大学高等教育研究開発推進センターMOSTフェロー(第二期)。予備校講師、フリーライターを経て、現在、星槎大学教授、法政大学キャリアデザイン学部兼任講師。主な著作、『子供が「個立」できる学校―日米チャータースクールの挑戦・最新事情』(KADOKAWA)、『中国はなぜ「学力世界一」になれたのか―格差社会の超エリート教育事情』(中央公論新社)。そのほか、『世界』『中央公論』『AERA』『週刊金曜日』、学術誌等に記事、論文を執筆。

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