平成30年度 新入社員「働くことの意識」調査結果 「働き方は人並みで十分(61.6%)」、 「好んで苦労することはない(34.1%)」が過去最高を更新
公益財団法人日本生産性本部と一般社団法人日本経済青年協議会は6月21日、平成30年度新入社員1,644人を対象にした「働くことの意識」調査結果を発表しました。この新入社員の意識調査は、昭和44年度に実施して以来50回目を数え、この種の調査ではわが国で最も歴史のあるものとなっています。
平成30年度 新入社員「働くことの意識」調査結果のポイント
●「働く目的」では、過去最高だった昨年より減少したものの「楽しい生活をしたい」(昨年度42.6%→今年度41.1%)が過去最高水準で最も多く、続く「経済的に豊かな生活を送りたい」が(26.7%→30.4%)で過去最高を更新しました。
一方、「自分の能力をためす」は過去最低(10.9%→10.0%)、一時期増えていた「社会に役立つ」(9.2%→8.8%)は減少が続いています。
●「人並み以上に働きたいか」では、「人並みで十分」が過去最高を更新(57.6%→61.6%)し、初めて6割を超えました。減少が続く「人並み以上に働きたい」(34.9%→31.3%)との差も過去最高の30.3%(昨年度22.7%)に開き、2倍近い差となりました。
●「デートか残業か」では、「残業」が(71.0%→68.5%)で「デート」(28.7%→30.9%)と、「デート派」が3割になりました。
●「若いうちは進んで苦労すべきか」では、「好んで苦労することはない」が過去最高(29.3%→34.1%)となりました。
●「どのポストまで昇進したいか」では、「社長」が過去最低(10.3%)で過去最高だった「主任・班長」の10.4%を下回る結果となりました。また、過去最高水準の「どうでもよい」(17.4%)が、これまで一番多かった「専門職」(16.5%)を抜いて、今年は一番多く表を集めました。
- 働く目的は、「楽しい生活をしたい」が過去最高水準を維持しつつ「経済的に豊かになる」が増加し過去最高
「働く目的」(Q7)で最も多い回答は、平成12年度以降急増している「楽しい生活をしたい」で、過去最高水準を維持し41.1%となった。「経済的に豊かになる」がこのところ上昇し(30.4%)過去最高となっていることも注目の一方、かつてはバブル期を除いてトップになることもあった「自分の能力をためす」は長期にわたって減り続け、10.0%と過去最低を更新した。また、平成に入って増加していた「社会に役立つ」はこのところ低下に転じている(8.8%)。
近年、大学生を中心に奨学金を利用する学生が増え、その返済の負担が注目を集めているため、その利用状況について質問しました。返済する必要のある奨学金利用者全体(623人)の71.9%、四年制大卒では73.7%、大学院卒では71.5%が「負担に感じる」と回答しています。
親の年収の伸びが限られる中、アルバイトと利子つきの奨学金で教育を受け、大きな負担を背負いながら社会人生活のスタートをきる新入社員が少なくないことがうかがえます。
奨学金の利用状況
・利子つきで返済する奨学金を利用 25.2%(四年制大卒30.5%、大学院卒23.1%)
・利子なしで返済する奨学金を利用 19.2%(四年制大卒19.2%、大学院卒41.6%)
・返済しないでよい奨学金を利用 6.8%(四年制大卒5.8%、 大学院卒12.6%)
~返済する奨学金を利用した方(N=623)のみに質問~
・奨学金の返済を負担に感じている 71.9%(四年制大卒73.7%、大学院卒71.5%)
参考:奨学金の利用状況 71.9%が「返済が負担に感じる」
- 「人並みで十分」が過去最高値を更新し61.6%に
その年の新入社員の就職活動が順調だったか(大卒求人倍率)で敏感に変化する項目に、「人並み以上に働きたいか」(Q8)があります。景況感や就職活動の厳さによって、「人並み以上」と「人並みで十分」が相反した動きを見せました。特にバブル経済末期の平成2~3年度には、「人並み以上」が大きく減り、「人並みで十分」が大きく増えましたが、その後の景気低迷にともない平成12年度以降、入れ替わりを繰り返しています。ここ数年では、平成24年度に厳しい就職状況を背景に「人並み以上」が「人並みで十分」を一旦逆転しました。しかし平成25年度から「人並み以上」が減少(42.7%→40.1%→38.8%→34.2%→34.9%→31.3%)して今年度は過去最低を更新する一方、「人並みで十分」は増加(49.1%→52.5%→53.5%→58.3%→57.6%→61.6%)する傾向が続き、今年度は62.0%と過去最高を更新。両者の差は、調査開始以来最大の30.3ポイント(昨年度22.7ポイント)に開きました。
参考:働き方と大卒求人倍率との関係(経年変化)
「人並み」で十分か「人並み以上に働きたい」か
働き方と大卒求人倍率との関係
- 「仕事」中心か「(私)生活」中心か ~強まるプライベート優先志向
「仕事」中心か「(私)生活」中心か(Q6)という設問では差が拡大しました。常に「両立」という回答が多数を占め(グラフでは省略)今年度は78.0%。残りの「仕事」中心と「(私)生活」中心、という回答に注目すると、「(私)生活」中心という回答は平成3年(22.8%)をピークに下がり続け、一時「仕事」中心が上回る結果となりました。しかし平成24年から「(私)生活」中心が再び増加し、「(私)生活」中心(平成28年度11.0→昨年度14.0→15.2%)が「仕事」中心(8.6→6.9→6.7%)を上回り、今回はその差が8.5ポイントに広がっています。
「仕事」中心か「(私)生活」中心か
- デートか残業か ~「プライベートより仕事を優先」が多数派だが減少傾向
「デートの約束があった時、残業を命じられたらどうするか」(Q15)という質問に対しては、「デートをやめて仕事をする」(68.5%)が「ことわってデートをする」(30.9%)を大きく上回り、プライベートな生活よりも仕事を優先する傾向が引き続きうかがえます。全体としてはプライベートな生活よりも仕事を優先する傾向が引き続き見られますが、平成23年をピーク・ボトムとして「デート派」が増加(「残業派」が減少)し、今年はその変化がさらに継続されました。「仕事」中心か、「(私)生活」中心かなど他の項目にも、プライベートな生活を重視する傾向が見られました。
デートか残業か
- 若いうちは進んで苦労すべきか ~「好んで苦労することはない」が過去最高
「若いうちは自ら進んで苦労するぐらいの気持ちがなくてはならないと思いますか。それとも何も好んで苦労することはないと思いますか」(Q9)という質問に対しては、平成23年度から「好んで苦労することはない」が増え続け、34.1%と過去最高の結果となりました。逆にその間、「進んで苦労すべきだ」は約20ポイント以上減っています。
若いうちは進んで苦労すべきか
- 会社の選択理由 ~「能力・個性を活かせる」「仕事が面白い」で半数超
「会社を選ぶとき、あなたはどういう要因をもっとも重視しましたか」(Q1)という質問に対して最も多かった回答は、引き続き「自分の能力、個性が生かせるから」(31.0%)でした。以下、「仕事が面白いから」(19.0%)、「技術が覚えられるから」(10.0%)の順となります。長期にわたって減少傾向の「会社の将来性」と入れ替るように平成14年度から増えた「仕事が面白いから」は、平成23年度から平成28年度で10ポイント近く減少した(26.8%→17.3%)が、昨年度・今年度と増加した。中長期的には、職場に“寄らば大樹”的な期待をもつ傾向が退潮し、自らの技能や能力、あるいは職種への適性に関心がもたれる時代へと変化しています。
会社の選択理由
- 社長志向も、専門職志向も、過去最低水準 ~「どうでもよい」が第一位に
「どのポストまで昇進したいか」(Q13)という問いに対して、最も多かったのは「どうでもよい」(17.4%)で、昨年度まで1位だった「専門職<スペシャリスト>」(20.3%)は16.5%に減少。一方、「社長」という回答は10.3%で過去最低となりました。
この設問は男女差が大きく、男性で最も多いのは「部長」(23.1%)、次いで「重役」(21.3%)。一方女性は、「どうでもよい」23.1%、次いで「専門職」(21.7%)。女性の「専門職」という回答は、昨年の28.0%から21.7%へと6.3ポイント減少し、具体的に明示されない「役職にはつきたくない(12.7%)+どうでもよい(23.1%)」という回答は35.8%に達しました。
参考:10年前(平成20年度)と今年度の比較
社長 :平成20年度15.5→今年度10.3%(男性21.6→15.5%、女性6.3→3.3%)
重役 :14.1→14.2%(男性20.7→21.3%、女性 4.1→ 4.6%)
部長 :13.4→16.3%(男性17.5→23.1%、女性 7.3→ 7.1%)
課長 : 4.3→ 6.3%(男性 4.3→ 6.7%、女性 4.4→ 5.7%)
係長 : 1.9→ 2.0%(男性 1.4→ 1.6%、女性 2.5→ 2.6%)
主任班長: 7.9→10.4%(男性 3.0→ 4.0%、女性15.2→19.0%)
専門職<スペシャリスト>:24.5→16.5%(男性18.5→12.7%、女性33.4→21.7%)
役職にはつきたくない : 4.2→ 6.5%(男性 1.2→ 1.9%、女性 8.6→12.7%)
どうでもよい :14.2→17.4%(男性11.7→13.0%、女性18.0→23.1%)
Q13.どのポストまで昇進したいか(平成20年度と30年度の比較)
- 就労意識/生活価値観 ~仕事へのコミットメントの低下
就労意識と生活価値観についての質問文に対し、「そう思う」から「そう思わない」まで4段階で聞いた(Q11/Q30)ところ、肯定的な回答(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)の割合(%)は以下のような順になりました。総じて、ポジティブないし積極的な態度が上位を占め、ネガティブないし消極的な態度が下位を占めています。
しかしこの5年間の推移をみると、仕事へのコミットメントは低下する傾向が見受けられます。5年前との比較で昨年度との比較で変動の大きかった上位5項目は以下の通りとなります。※今年度(差:昨年/5年前)
-あまり収入がよくなくても、やり甲斐のある仕事がしたい
…50.5%(-2.3/-16.5)
-面白い仕事であれば、収入が少なくても構わない
…44.3%(-2.2/-15.7)
-仕事を生きがいとしたい
…68.5%(-5.1/-11.6)
-リーダーになって苦労するより、人に従っているほうが気楽でいい
…56.2%(+0.8/+9.9)
-仕事はお金を稼ぐための手段であって面白いものではない
…41.0%(+1.9/+9.5)
Q11. 就労意識:「そう思う」と「ややそう思う」を合わせた割合(%)、
( )内は前年度比
<1位> 7 仕事を通じて人間関係を広げていきたい 94.1(+1.7)
<2位> 13 社会や人から感謝される仕事がしたい 92.9(+0.4)
<3位> 16 ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい 92.6(+0.8)
<4位> 3 どこでも通用する専門技術を身につけたい 91.2(+0.6)
<5位> 9 高い役職につくために、少々の苦労はしても頑張る 79.7(-1.4)
<6位> 12 これからの時代は終身雇用ではないので
会社に甘える生活はできない 76.9(-0.6)
<7位> 6 仕事をしていくうえで人間関係に不安を感じる 70.7(+4.5)
<8位> 1 仕事を生きがいとしたい 68.5(-5.1)
<9位> 14 できれば地元(自宅から通える所)で働きたい 61.9(+1.2)
<10位>15 海外の勤務があれば行ってみたい 47.2(+4.4)
<11位>11 職場の上司、同僚が残業していても、
自分の仕事が終わったら帰る 46.9(-1.8)
<12位> 2 面白い仕事であれば、収入が少なくても構わない 44.3(-2.2)
<13位> 8 仕事はお金を稼ぐための手段あって、面白いものではない 41.0(+1.9)
<14位> 4 いずれリストラされるのではないかと不安だ 38.4(+0.3)
<15位>10 職場の同僚、上司、部下などとは
勤務時間以外はつきあいたくない 30.7(-0.1)
<16位> 5 いずれ会社が倒産したり
破綻したりするのではないかと不安だ 23.9(+0.3)
Q30. 生活価値観:「そう思う」と「ややそう思う」を合わせた割合(%)、
( )内は前年度比
<1位>14 人間関係では、先輩と後輩など
上下のけじめをつけることは大切なことだ 97.4(+1.1)
<2位>23 他人にはどう思われようとも、自分らしく生きたい 83.8 (+0.9)
<3位>20 自分はいい時代に生まれたと思う 80.6(-0.1)
<4位>22 将来の幸福のために、今は我慢が必要だ 79.3(+0.5)
<5位>13 明るい気持ちで積極的に行動すれば、
たいていのことは達成できる 79.2(+1.1)
<6位>12 すこし無理だと思われるくらいの目標をたてたほうががんばれる 66.0(-0.4)
<7位>15 たとえ経済的には恵まれなくても、
気ままに楽しく暮らすほうがいい 62.1(-0.9)
<8位>21 冒険をして大きな失敗をするよりも、
堅実な生き方をするほうがいい 61.0(-0.4)
<9位>17 企業は経済的な利益よりも、環境保全を優先するべきだ 59.6(-0.8)
<10位>18 世の中は、いろいろな面で、今よりもよくなっていくだろう 59.2(-1.0)
<11位>11 リーダーになって苦労するよりは、
人にしたがっているほうが気楽でいい 56.2(+0.8)
<12位> 9 自分と意見のあわない人とは、あまりつきあいたくない 51.3(+1.2)
<13位>16 あまり収入がよくなくても、やり甲斐のある仕事がしたい 50.5(-2.3)
<14位>10 世の中、なにはともあれ目立ったほうが得だ 46.9(+2.3)
<15位> 8 周囲の人と違うことはあまりしたくない 42.4(+0.4)
<16位>19 世の中は、いろいろな面で、今よりも昔のほうがよかった 31.9(-2.8)
9.「第一志望に入社」が減少は、平成25年度以来5年ぶり
「第一志望の会社に入れた」(Q33-1)という回答は、平成24年度60.9%から平成25年度52.0%と大幅に減少し、設問設定以来で最低でしたが、平成26年度以降は改善傾向が続いていました。しかし今年度は再び低下に転じ58.6%でした。なお厚生労働省・文部科学省「大学等卒業者の就職状況調査」によれば、4月1日現在の大卒者の就職率は平成22年度(平成23年3月)卒業者で91.0%と過去最低となった後、年々少しずつ好転し、平成30年度卒業者では98.0%までに達しています。
大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)の推移 ※( )内は四年生大卒
平成22年度55.2(51.8)% 平成23年度56.6(51.5)% 平成24年度60.9(57.3)%
平成25年度52.0(46.3)% 平成26年度55.0(50.1)% 平成27年度56.4(53.0)%
平成28年度60.2(56.6)% 平成29年度60.6(57.5)% 平成30年度58.6(51.6)%
平成30年度 新入社員「働くことの意識」調査の概要
I.本調査の沿革
本調査は昭和44年(1969)以来、毎年一回、春の新入社員の入社時期に継続的に行ってきました。新入社員を対象とするものとしてはもちろん、就労意識をテーマとする調査として他に例を見ない長期にわたる継続的な調査となります。これまで半世紀近く、ほぼ同一の質問項目で実施されており、興味深いデータの経年変化が蓄積されてきました。なお、昨今の終身雇用制の後退、若い世代の価値観の変化などを背景に、時代にそぐわない質問項目が散見されるようになってきたため、平成13年(2001)の実施にあたって、いくつかの質問項目を入れ替えました。もちろん、これまでの時系列データの資産的な価値を重視し、多少、最近の新入社員には無理があると思える質問も、極力残す方向でリニューアル。今年度はリニューアル後18回目の調査となります。
II.調査の概要
(1)調査期間 :平成30年3月12日から4月30日
(2)調査対象 :平成30年度新社会人研修村に参加した企業の新入社員
(3)調査方法 :研修村入所の際に各企業担当者を通じて
調査票を配布し、その場で調査対象者に回答してもらった
(4)有効回収数 :1,644人(男性943人/女性700人/性別無回答1人)
(5)回答者プロフィール:(%)ただし四捨五入の関係上、計が100にならないことがある