シミュレーションで太陽系外縁部に未発見の惑星がある可能性を示唆 世界初、海王星以遠の天体の特性を再現することに成功

太陽系外縁部に存在する可能性がある未発見の惑星(想像図) © Fernando Peña D'Andrea
太陽系外縁部に存在する可能性がある未発見の惑星(想像図) © Fernando Peña D'Andrea

近畿大学総合社会学部(大阪府東大阪市)総合社会学科社会・マスメディア系専攻准教授 ソフィア リカフィカ パトリックと、大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(東京都三鷹市)講師 伊藤孝士は、コンピュータシミュレーションを用いて、海王星より遠方のカイパーベルト※1 にある天体の特性の再現に世界で初めて成功し、太陽系外縁部※2 に未発見の惑星が存在する可能性を示しました。また、これらの惑星が、カイパーベルトの形成に重要な役割を果たした可能性も見出しました。本研究成果は、今後、未発見の惑星を観測する際の指標となることが期待されます。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)8月25日(金)16:00(日本時間)に、天文学に関する国際学術誌"The Astronomical Journal"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●世界で初めて、コンピュータシミュレーションにより、海王星より遠方のカイパーベルト天体の複数の特性を再現
●作成したシミュレーションにより、太陽系外縁部にある未発見の惑星が、カイパーベルトの形成に重要な役割を果たしたことを明らかに
●太陽系外縁部に未発見の惑星が存在する可能性を示唆

【本件の背景】
現在、太陽系には、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つの惑星が存在しています。しかし、約45億年前の太陽系形成時に存在していた惑星が同じ数だったかは明らかになっておらず、地球と同程度の重さの惑星がもっと多く存在していた可能性が考えられています。
太陽から約45億kmの距離にある海王星と、その外側にあるカイパーベルト天体は、太陽系外縁部で惑星が形成された際の形跡として知られています。特に、太陽から約75億km以遠の遠方カイパーベルト天体は、その領域で存在していた可能性がある惑星から継続的に重力などの影響を受け、独特な軌道構造を持つことが示唆されています。
しかし、現在の代表的なカイパーベルト、および太陽系の形成モデルでは、遠方に存在するカイパーベルト天体の複数の特徴を一貫して説明することができません。

【本件の内容】
研究グループは、遠方のカイパーベルトに未発見の惑星があり、それらの影響をシミュレーションモデルに反映させることで、現在の遠方カイパーベルト天体の性質を説明できるようになる、と仮説を立てて検証を行いました。まず、数値シミュレーションを用いて、約45億年前の初期太陽系に存在した4つの巨大惑星に加えて、カイパーベルトに存在している未発見の惑星、そして遠方カイパーベルトを考慮して、初期太陽系を再現しました。このモデルにより、これまで標準的に用いられてきた、4つの巨大惑星のみを考慮したモデルでは説明できない、遠方のカイパーベルト天体の特性を再現できるようになり、現在の観測結果ともほぼ一致することを明らかにしました。
さらに、地球の1.5倍から3倍の質量を持ち、太陽から約300-750億km(または約300-11200億km)以内に位置し、30度の傾斜軌道を持つ未発見の地球的な惑星があれば、遠方に存在するカイパーベルト天体の複数の特性が説明できることもわかりました。
本研究成果により、太陽系外縁部に未発見の惑星が存在する可能性が示唆され、今後、こうした惑星を実際に観測する際の指標となることが期待されます。

【論文概要】
掲載誌 :The Astronomical Journal(インパクトファクター:5.3@2022)
論文名 :Is there an Earth-like planet in the distant Kuiper Belt?
     (遠方のカイパーベルトに地球的な惑星は存在するか?)
著 者 :ソフィア リカフィカ パトリック1*、伊藤孝士2 *責任著者
所 属 :1 近畿大学総合社会学部、
     2 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト
論文掲載:https://doi.org/10.3847/1538-3881/aceaf0
DOI  :10.3847/1538-3881/aceaf0

【研究の詳細】
遠方のカイパーベルト天体(TNO)は、未発見の惑星(以下、カイパーベルト惑星)から継続的に重力摂動※3 を受け、以下のような4つの特性を持つ可能性があります。
(1)海王星との平均運動共鳴※4 に捕獲された、始原的であり安定した共鳴TNOの集団
(2)海王星の重力の影響が及ばない位置に軌道を持ち、近日点距離※5 が40au※6 を超える離脱TNOの集団
(3)45度以上の高い軌道傾斜角※7 を持つTNOの集団
(4)セドナ※8 のように説明の難しい特異な軌道を持つ極端なTNOの集団
現在の代表的なカイパーベルト、および太陽系の形成モデルでは、これらの特徴を一貫して説明することができません。
研究グループは、カイパーベルト惑星が遠方カイパーベルトの形成に与える影響を調べました。まず、約45億年前の初期太陽系について、4つの巨大惑星と1つのカイパーベルト惑星、そして遠方カイパーベルトを考慮して、数値シミュレーションを実施しました。カイパーベルト惑星の軌道と質量を幅広く検証し、数値シミュレーションの結果を観測結果と比較しました。
数値シミュレーションでは、まず、太陽系形成から45億年後の遠方カイパーベルトを再現した後、その結果を遠方のTNO集団の比率や、現在知られている極端な軌道を持つTNOと比較しました。また、太陽系大規模観測のシミュレータを用い、作成したシミュレーション計算の結果に観測的なバイアスを与え、観測結果と直接比較できるようにしました。
広範な数値シミュレーションに基づき検証した結果、4つの巨大惑星のみを考慮した標準的モデルが、分離TNO、高い軌道傾斜角を持つTNO、そして極端なTNOのいずれも説明できないことを実証しました。次に、カイパーベルト惑星を含むモデルを使い観測結果と比較した結果、ほぼ一致することがわかりました。このカイパーベルト惑星を含む数値モデルは、遠方カイパーベルトの4つの特性を説明でき、さらに、カイパーベルト惑星による摂動が、太陽系形成以降海王星以遠の領域の軌道構造に影響を与えてきたことも示唆しました。ここからさらに、TNOの特性を説明するために、必要となるカイパーベルト惑星の性質を発見しました。
・遠方のカイパーベルトに数十億年安定して存在する共鳴TNOを説明するために、カイパーベルト惑星は~200au以遠に位置する必要がある。
・離脱TNOを説明するために、カイパーベルト惑星は距離~200-300au、~200-500au、あるいは~200-800auの離心軌道で進化する必要がある。
・高い軌道傾斜角を持つTNOを説明するために、質量が地球の1.5倍を超え、軌道が30度傾いたカイパーベルト惑星が必要となる。このようなカイパーベルト惑星があれば、太陽系内を逆行する軌道を持つTNOや、彗星(例:ハレー型彗星)の源となるような、遠方で高い軌道傾斜角を持つ天体も説明可能となる。
・セドナを含む、極端なTNOを説明するために、上記の性質を持つ地球的な惑星が必要である。
つまり、地球の1.5倍から3倍の質量を持ち、太陽から200-500au(または200-800au)以内に位置し、30度の傾斜軌道を持つ未発見の地球的な惑星※9 があれば、4種類のTNOの分布が説明できることを明らかにしました。また、カイパーベルト惑星による摂動は、海王星による重力散乱を強く受けるTNOのように、50auを超えたところにある他の天体の形成を阻害しないことから、今回作成したモデルは遠方のカイパーベルトの分布を説明でき、現代の観測結果と矛盾するものではないこともわかりました。
本研究成果から、太陽系外縁部の端に未発見の惑星が存在する可能性が示唆されました。これは、近日点距離が大きい、もしくは大きな軌道傾斜角を持つ未知のTNOが、~100auを超える領域に存在し得ることも示唆しています。こうしたTNOの集団は、カイパーベルト惑星の存在を観測的に検証する際の指標となります。太陽系のこうした領域にある天体の軌道構造をより詳細に明らかにすることで、太陽系外縁部での惑星の形成や太陽系全体の進化についてより深い理解が得られると期待されます。

図:遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(1枚目:上からの様子)。 © Patryk Sofia Lykawka
図:遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(1枚目:上からの様子)。 © Patryk Sofia Lykawka
図:遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(横からの様子)。 カイパーベルト惑星が存在する場合は、離脱TNO(青い軌道)、高い軌道傾斜角を持つTNO(緑の軌道)、極端なTNO(黄色の軌道)を一貫して説明できる。 この図でカイパーベルト惑星は太陽から200から500au程度の距離で、その軌道は地球の軌道面に対して30°程度か傾いていると予想される。また、カイパーベルト惑星を考慮しても海王星との安定した共鳴にあるTNOを含む他のTNO(白い軌道)の形成は阻害されない。 © Patryk Sofia Lykawka
図:遠方に存在するカイパーベルトの軌道構造(横からの様子)。 カイパーベルト惑星が存在する場合は、離脱TNO(青い軌道)、高い軌道傾斜角を持つTNO(緑の軌道)、極端なTNO(黄色の軌道)を一貫して説明できる。 この図でカイパーベルト惑星は太陽から200から500au程度の距離で、その軌道は地球の軌道面に対して30°程度か傾いていると予想される。また、カイパーベルト惑星を考慮しても海王星との安定した共鳴にあるTNOを含む他のTNO(白い軌道)の形成は阻害されない。 © Patryk Sofia Lykawka

【研究者コメント】
ソフィア リカフィカ パトリック
所属  :近畿大学総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻
職位  :准教授
学位  :博士(学術)
コメント:太陽系の惑星数、惑星の定義、太陽系史における地球の位置づけ、そして太陽系内の仮説上新惑星の存在は、あらゆる文化と時代において常に人類を魅了してきました。さらに、過去を振り返えると新惑星の発見は、一般大衆と科学界に大きな影響を与えています。今回の研究結果から太陽系に未発見の惑星および未知のカイパーベルト天体の存在が予想されることにより、望遠鏡を用いた国内外の観測調査が促進されると期待できます。太陽系の謎を一歩一歩解明していくことはとても面白く、太陽系外縁部をはじめ地球を含む惑星の形成についても理解が深まります。

【研究支援】
本研究は、JSPS科研費(JP20K04049)の支援を受けて実施しました。
また、本研究で実施された数値シミュレーションには第一著者(ソフィアリカフィカパトリック)の研究室に設置された研究用PC、および国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)が運用する共同利用計算機「計算サーバ」が使用されました。国立天文台CfCA計算サーバの詳細については以下をご覧ください。
https://www.cfca.nao.ac.jp/node/3#gppc

【用語解説】
※1 カイパーベルト:太陽系の中で、海王星以遠に存在する小天体が集中している領域。遠方のカイパーベルトとは50au以遠の領域を指す。
※2 太陽系外縁部:巨大惑星である木星、土星、天王星、海王星とそれ以降で構成される領域。
※3 摂動:主要な力による運動が、他の副次的な力によって乱される現象。
※4 平均運動共鳴:天体の周りを公転する2つの天体の公転周期の比が、2:1や2:3など簡単な整数比の状態のことを指す。
※5 近日点距離:天体の軌道上で太陽までの最短距離。
※6 au:1auは、太陽から地球までの平均距離で、約1億5千万km。太陽から海王星の距離は約30au。
※7 軌道傾斜角:天体の赤道面と軌道面とがなす角度。
※8 セドナ:遠方カイパーベルトに存在する天体。非常に遠い軌道と大きな近日点距離(~76au)を持っている。
※9 地球的な惑星:質量が地球程度である惑星。本研究では質量が地球の1倍から3倍の間にある惑星であると定義した。

【関連リンク】
総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 准教授 ソフィア リカフィカ パトリック(SOFIA LYKAWKA Patryk)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/275-sofia-lykawka-patryk.html
総合社会学部
https://www.kindai.ac.jp/sociology/


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