第8回 企業の事業継続に係る意識調査 BCP策定率はコロナ禍前の水準を上回り、過去最高を記録
~ただしBCPの中身は依然として初動対応中心であり、訓練・見直し実施率は限定的~
株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹)は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本 良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、第8回「企業の事業継続に係る意識調査」を2024年11月下旬に実施しました。
本調査は、2011年7月に実施した「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」から継続実施している調査で、今回はその8回目となります。企業の事業継続に対する取り組みや意識にどのような変化が生じたか、企業は事業継続計画(BCP1)の運用・管理(BCM2)について現在どのような課題認識を持っているかなどに関する調査を実施しています。今回の調査では、前回までの継続調査に加えて、企業や地方公共団体などの「タイムライン*3」の策定状況や取り組みの実態、および「ビジネス変革・成長施策と連動したBCP検討の実施状況」などについて調査を行いました。
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*1 BCP:Business Continuity Planとは、自然災害や事故など、企業・団体活動を阻むリスクに直面した際に、事業活動の停止による損失を回避、もしくは緩和することを目的に策定するもの。未然にビジネスの中断を防止するための対策(施設・設備・人員などの二重化対策など)や、有事発生の際の緊急対応計画(意思決定の体制構築や行動計画など)が含まれる
*2 BCM:Business Continuity Managementとは、BCP策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、対策の実施、取り組みを浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などを行う平常時からのマネジメント活動のこと
*3 タイムラインとは、災害の発生を前提に、各関係者が連携して災害時に発生する状況を予め想定・共有した上で、「いつ」「誰が」「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画のこと。BCPが有事発生の際にビジネスの中断を防止するための対策を目的としているのに対して、タイムラインは災害発生前の事前の防災行動により、災害被害の最小化を目的とするものである
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調査ハイライト
1-1. BCP策定状況とその変化
◆ BCP策定済企業の割合は、コロナ禍前の第5回(2018年)調査時を上回り、過去最高(47.0%)を記録。【図表1-1-1】
・・・参照P.8
・前回までの調査の傾向として、BCP策定済企業の割合は、第2回調査(2013年)~第5回調査(2018年)まで横ばいで推移していたが、第6回(2020年)にコロナ禍によるBCP機能不全の影響もあり、減少に転じた。
・前回調査(2022年)から、BCP策定済企業の割合は回復傾向を見せていたが、本調査では、コロナ禍前の第5回調査(2018年)を上回り、過去最高(47.0%)を記録した。
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◆ 前回までの全調査を通じて、BCP策定率が全業種の中で最も高かったのは「金融・保険」業界。ただし、本調査では「公共機関」が「金融・保険」のBCP策定率を上回る。【図表1-1-2】
・・・参照P.9
・前回までの全調査を通じて、「金融・保険」はBCP策定済企業の割合が他業種と比較して最も高い状況にあった。
・第3回調査(2015年)以降、「公共機関」のBCP策定済企業の割合の上昇傾向が続いており、本調査では、「公共機関」のBCP策定済企業の割合が、前回までBCP策定済企業の割合が最も高かった「金融・保険」を上回った。
・内閣府から「市町村のための業務継続計画作成ガイド」や「大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き」などが公表されて以降、地方公共団体に対するBCP策定状況の調査が、消防庁により定期的に実施されている。当該の調査結果の公表においては、消防庁から各都道府県への通知も含まれており、BCP未策定市町村は早急にBCPを策定すること、BCPの内容充実や見直し訓練の実施を進めることなどが、消防組織法に基づく助言として発出されている。これらが「公共機関」におけるBCP策定を後押ししたと推察される。
・「公共機関」の次に数字を伸ばした(前回比14.5ポイント増)、「建設・土木・不動産」については各地方整備局が進めている認定制度の進展が大きな影響を及ぼしているものと考えられる。関東・四国・近畿・中国・東北の各地方整備局が認定制度を続々と開始した2013年までにおいて、当社調査におけるBCP策定率も大きな増加が認められた。その後停滞するも近年、中部地方整備局において2021年3月に認定制度が新たに開始されたことや、認定対象工種の拡充などの動きも見られ、これが業界全体のBCP策定率をさらに向上させたものと推察される。
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*4 参照の記載は、調査概要の該当するページを示す。
調査概要 https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/ncom-survey/250226/
*5 内閣府「市町村のための業務継続計画作成ガイド」
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/tiho_juen/dai1kai/pdf/shiryo04-2.pdf
*6 内閣府「大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き」
https://www.bousai.go.jp/taisaku/chihogyoumukeizoku/pdf/R5tebiki.pdf
*7 国土交通省の各地方整備局が発出する「建設会社における災害時の事業継続力認定制度」
例:国土交通省関東地方整備局「建設会社における災害時の事業継続力認定制度」
https://www.ktr.mlit.go.jp/bousai/bousai00000156.html
◆ 企業規模が大きいほどBCP策定率が高い傾向に変化はない。一方で、直近では中小規模の事業者のBCP策定率が増加傾向にある。【図表1-1-3】
・・・参照P.8
・前回までの調査の傾向として、企業規模が大きいほどBCP策定率は高い状況にあり、本調査においてもその傾向は変わらない。
・直近の傾向として、2020年から2024年のCAGR(年平均成長率)で見た場合、最もBCP策定済の割合の伸長が見られるのは「100~499人」(9.4%)、次いで「1,000~4,999人」(6.0%)、「99人以下」(3.7%)であった。
・中小規模の事業者のBCP策定率上昇の背景には、中小企業庁の「事業継続力強化計画*8」の行政施策の充実などが考えられる。これはBCP策定有無を直接的に認定するものではないが、認定を受けた中小企業は、税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援策が受けられるため、中小規模の事業者のBCP促進の一助になったと推察する。
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1-2. BCP想定リスク
◆地域ごとに発生しやすい自然災害を想定したBCP策定が進んでいる。【図表1-2-1】
・・・参照P.14
・BCP策定において、東日本では直下型地震、西日本では南海トラフなどの超広域地震を想定している企業が多い。・・・図表1-2-1内(1)
・「九州・沖縄」は、地域特性上、集中豪雨や台風などの被害が頻発することから、「風水害(台風・洪水等)」を想定リスクとして捉える企業の割合が、全国平均と比較して約1.4倍と高い。・・・図表1-2-1内(2)
・「火山噴火」を想定リスクとして捉える企業の割合は、「北海道」と「関東」は全国平均と比較して約1.3倍、「九州・沖縄」は約1.7倍であった。これらの地域は、富士山などにおける近年の噴火予測や、活動が活発な活火山を有する地域であることが影響しているといえる。・・・図表1-2-1内(3)
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*8 中小企業庁「事業継続力強化計画」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html
1-3. 企業の事業継続に向けた取り組み(対策)
◆ 企業の事業継続に向けた取り組みは初動対応が中心。応急・復旧段階での対策まで施している企業は半数以下に留まる。【図表1-3-1】
・・・参照P.18
・BCP策定済企業において、初動段階の各種対策は約7割の企業が対応していると回答したが、応急・復旧段階の各種対策について、対応している旨を回答した企業は大部分の項目で半数以下に留まる。
・その理由として、BCP普及以前から存在していた防災計画・災害対策マニュアルそのもの、もしくはそれらの記載要件をBCPであると拡大解釈していることなどが考えられる。BCPにおける最優先検討事項は初動対応であるものの、本質である事業継続に向けた施策の検討が、依然として行き届いていないことが改めて浮き彫りとなった。
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1-4. BCM(BCPの定期的な見直し・訓練)に係る取り組み
◆ 平時からの定期的なBCPの見直し・訓練の双方を実施する企業(BCMが定着している企業)の割合は3割にも満たない。【図表1-4-1】
・・・参照P.42、44
・BCP策定済み企業のうち、BCPの定期的な見直し・訓練の両方を実施している企業の割合は、3割弱に留まり、また、いずれか一方のみの施策の実施率について、BCPの定期的な見直しを実施している企業の割合は約4割、BCP訓練を実施している企業の割合は約5割となる。
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- タイムラインの取り組み状況
◆ 半数以上の企業はタイムラインを認知しておらず、策定状況もBCP策定率の1/3程度に留まり、タイムラインの認知・策定はいまだ途上段階と言える。【図表2-1-1】【図表2-1-2】【図表2-1-3】
・・・参照P.46、48
・タイムラインの認知率については、「知っている」の割合が「知らない」をやや下回る。【図表2-1-1】
・タイムラインの策定状況について、「策定済」および「策定中」まで含めたとしても、約3割に留まる。BCPの策定済企業の割合(47%)と比較すると、タイムラインの策定済企業の割合(16.7%)は1/3程度となり、タイムラインの認知・策定はいまだ途上段階と言える。【図表2-1-2】【図表2-1-3】
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◆ タイムラインの策定状況については、BCP策定済企業の割合と同様の傾向が見られる。すなわち、従業員規模が大きいほど策定済企業の割合が高く、また、業種についても「金融・保険」と「公共機関」が他業種と比較して高い。【図表2-1-4】
・・・参照P.49
・BCP策定率と同様に、従業員規模が大きいほど、タイムラインの策定率は高い傾向にある。・・・図表2-1-4内(1)
・タイムライン策定状況を「業種」で比較すると、BCP策定率と同様に「金融・保険」と「公共機関」が他業種と比較して高い。BCP策定率と共に、タイムラインの策定率も高い傾向にあると推察される。・・・図表2-1-4内(2)
・タイムライン策定状況を「地域」で比較すると、「東北」が他地域と比較して高い。・・・図表2-1-4内(3)
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◆ タイムラインの想定リスクとして、BCP策定において想定されるリスクと同様に、地域ごとの特性に応じた自然災害への意識が高いことが挙げられる。また、地域別でみると「東北」は過去の東日本大震災の経験を踏まえ、風水害、原子力災害への意識が高い。【図表2-1-5】
・・・参照P.51
・「風水害(台風・洪水等)」に関して、「九州・沖縄」は、地域特性上、集中豪雨や台風などの被害が頻発することから、全国平均と比較して約1.6倍と高い。・・・図表2-1-5内(1)
・「その他の自然災害(雪害・土砂災害等)」は、多くの積雪による被害が想定される「北海道」が全国平均と比較して約2.3倍と高い。・・・図表2-1-5内(3)
・「火山噴火」は、全国平均と比較して、「北海道」では約1.7倍、「関東」と「九州・沖縄」では約1.3倍と高い。これらの地域は、富士山などにおける近年の噴火予測や、活動が活発な活火山を有する地域であることがいえる。・・・図表2-1-5内(2)
・なお、地域で見た場合に「東北」は、全国平均と比較して「風水害(台風・洪水等)」(約1.4倍)と「原子力災害」(約2.5倍)を想定リスクとして高く捉えている。これは、過去の東日本大震災の経験により、津波や原子力災害などの発生までに、実施すべきことへの意識の高さが理由と推察される。・・・図表2-1-5内(1)(4)
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- ビジネス強化施策と連動したBCP検討の実施状況
◆ 1/4弱の企業が、ビジネス変革・成長施策の一環・派生としてBCPの検討を行っており、1/3強の企業が、BCPの検討の一環・派生としてビジネス変革・成長施策を行っている。【図表3-1-1】
・・・参照P.57
・ビジネス変革・成長施策の一環・派生としてBCPの検討を行っていた企業は1/4弱(23.0%)。
・施策の内訳として、「働き方改革・ウェルビーイング」(10.2%)、「人材の強化・リスキリング」(9.1%)、「DX推進・デジタル技術の活用」(8.8%)の順に上位を占める。
・BCPの検討の一環・派生としてビジネス変革・成長施策を行っていた企業は1/3強(34.1%)。
・施策の内訳として、「人材の強化・リスキリング」(13.5%)、「DX推進・デジタル技術の活用」(11.8%)、「働き方改革・ウェルビーイング」(10.9%)の順に上位を占める。
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内容に関するお問い合わせ先
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マネージングイノベーションユニット
担当:白橋 賢太朗/島崎 綾太/齋藤 可那子/木戸 志保
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