世界初!トウガラシのベゴモウイルス抵抗性遺伝子を特定 世界中で問題となっている農作物のウイルス病被害低減に繋がる成果

ベゴモウイルスに感染した3個体(抵抗性トウガラシは感染しても発病が認められない) ベゴモウイルス抵抗性トウガラシ(左)、従来のトウガラシ(中央)、抵抗性と従来の交雑第一世代(右)
ベゴモウイルスに感染した3個体(抵抗性トウガラシは感染しても発病が認められない) ベゴモウイルス抵抗性トウガラシ(左)、従来のトウガラシ(中央)、抵抗性と従来の交雑第一世代(右)

近畿大学農学部(奈良県奈良市)農業生産科学科准教授の小枝 壮太、博士前期課程の小野内 美佳(1年)、森 菜美子(2年)、ナディア シャフィラ ポハン(1年)らの研究グループは、世界で初めてトウガラシの「ベゴモウイルス※1 抵抗性遺伝子」を特定しました。
ベゴモウイルスには424もの種類があり、トウガラシ、トマト、キュウリ、メロン、カボチャ、ズッキーニ、オクラ、マメ類など多くの農産物がこのウイルスに感染すると果実をほとんど収穫できなくなるため、農業生産において世界的な脅威となっています。今回の研究ではベゴモウイルス抵抗性の個体を判別する手法も確立しており、品種改良によって、トウガラシ生産におけるウイルス病の被害が軽減できると期待されます。
本研究に関する論文が、令和3年(2021年)6月3日(木)に植物育種学分野の国際学術誌"Theoretical and Applied Genetics"にオンラインで掲載されました。

【本件のポイント】
●トウガラシにおいて世界で初めてベゴモウイルス抵抗性遺伝子を特定
●ベゴモウイルス抵抗性を確実に判別できるDNAマーカーを開発し、抵抗性品種の品種改良が可能に
●世界的に問題になっていたトウガラシのウイルス被害と過剰農薬投与を防ぐことに繋がる研究成果

【本件の背景】
ベゴモウイルスが世界中で引き起こしている農業生産における経済的被害は甚大で、解決が強く求められています。ウイルスの感染は、タバココナジラミとよばれる昆虫により媒介されて広まるため、生産現場では殺虫剤の散布によって対策してきました。しかし、過剰な農薬の使用により、現在では農薬が十分に効かないタバココナジラミが世界各地で発生しています。日本、欧州、北米では、トマトに黄化葉巻病を引き起こすベゴモウイルスが、1990年代にイスラエルから同時多発的に侵入し、生産農家を苦しめてきました。
世界的な研究の推進により、トマトではベゴモウイルス抵抗性遺伝子が植物で唯一特定され、ウイルス抵抗性品種の育種も進んでいます。しかし、他の植物では抵抗性遺伝子が特定できておらず、特に被害の大きいトウガラシ(ピーマン、パプリカ、シシトウなども含む)では、遺伝子の特定が強く望まれていました。

【本件の内容】
本研究グループは、これまでの研究で、トウガラシにおけるベゴモウイルスによる被害が最も深刻なインドネシアにおいて、被害を引き起こしているウイルス種を特定し(Koeda et al., 2016; Kesumawati et al., 2019)、トウガラシの抵抗性評価法を確立しました(Koeda et al., 2018)。
これらの研究成果をさらに発展させて、トウガラシのベゴモウイルス抵抗性を遺伝子レベルで解析することで、抵抗性遺伝子の特定を試み、約3万の遺伝子から1つの原因遺伝子「Pelota」を特定しました。Pelotaが変異することでウイルスの増加が抑えられ、抵抗性を獲得しているという仮説のもと、ウイルスに弱い従来のトウガラシにおいてPelotaの働きを抑制すると、ベゴモウイルスに対して抵抗性を示すようになりました。これらの結果から、Pelotaの遺伝子変異により、トウガラシはベゴモウイルス抵抗性を獲得することが明らかになりました。
また、ベゴモウイルスに弱い従来のトウガラシと、抵抗性トウガラシが持つPelotaのDNA塩基配列を比較すると、一箇所の塩基がアデニン(A)からグアニン(G)に変異していました。この変異がベゴモウイルス抵抗性の原因であることが明らかになったため、塩基の違いを判別するDNAマーカーを開発し、ベゴモウイルス抵抗性の個体を確実に判別する手法を確立しました。

【論文掲載】
掲載誌 :
Theoretical and Applied Genetics
(インパクトファクター:4.439/2019-2020)
論文名 :
A recessive gene pepy-1 encoding Pelota confers resistance to begomovirus isolates of PepYLCIV and PepYLCAV in Capsicum annuum
(Pelotaをコードする劣性遺伝子pepy-1は、トウガラシにベゴモウイルスPepYLCIVおよびPepYLCAVに対する抵抗性を付与する)
著者名 :小枝 壮太1、小野内 美佳1、森 菜美子1、
     Nadya Syafira Pohan1、永野 惇2,3、
     Elly Kesumawati4
所  属:1 近畿大学大学院農学研究科農業生産科学専攻
     2 慶應義塾大学先端生命科学研究所
     3 龍谷大学農学部
     4 インドネシア国立シアクアラ大学農学部
論文掲載:https://doi.org/10.1007/s00122-021-03870-7
DOI   :10.1007/s00122-021-03870-7

【本件の詳細】
ベゴモウイルス抵抗性のトウガラシBaPep-5と、ベゴモウイルス感受性のBaPep-4から作成した交雑F2集団を用いて、RAD-seq解析※2 による連鎖解析※3 を行ったところ、トウガラシの第5染色体に抵抗性に関わる遺伝子領域を特定しました。さらに、遺伝解析を進めることで、候補領域を34kb(キロベース:DNAの塩基1個を1bと表記する)まで絞り込みました。
候補領域を詳しく調べて見ると、そこには遺伝子が1つしか存在せず、この遺伝子がPelotaであることを明らかにしました。PelotaはmRNA※4 からのタンパク質の翻訳に関わる大切な因子です。BaPep-5のPelotaでは第9イントロンのスプライシング部位※5 に一塩基の置換(A→G)が生じており、これによってmRNAのスプライシング異常が生じ、正常なPelotaが翻訳できなくなっていることが明らかになりました。
ベゴモウイルスは、自身のゲノムDNAの複製やタンパク質の翻訳を、宿主である植物に依存しています。BaPep-5では、ベゴモウイルスにとって必須の植物側因子であるPelotaが変異することで、ウイルスDNAが十分に複製されなくなることにより、抵抗性を獲得していると考えられました。そこで、ウイルス誘導性ジーンサイレンシング(VIGS)※6 により、ベゴモウイルスに弱いトウガラシNo.218において、Pelotaの遺伝子発現を抑制し、さらにベゴモウイルスを感染させたところ、トウガラシNo.218がベゴモウイルスに対して抵抗性を示すようになりました。これらの結果から、Pelotaの遺伝子変異により、トウガラシはベゴモウイルス抵抗性を獲得することが明らかになりました。

BaPep-5のPelotaでは第9イントロンのスプライシング部位でのAからGへの一塩基の置換により、スプライシングに異常が生じ、mRNAから第9イントロンが正しく切り出されない。
BaPep-5のPelotaでは第9イントロンのスプライシング部位でのAからGへの一塩基の置換により、スプライシングに異常が生じ、mRNAから第9イントロンが正しく切り出されない。

【今後の展開】
本研究では、実験室内での緻密な調査により抵抗性遺伝子の特定を行いましたが、今後はベゴモウイルスが蔓延している各国の生産現場において栽培試験を行うことで、抵抗性遺伝子が果実生産性の向上にどれだけ貢献するのかを明らかにしていきます。トウガラシには辛い香辛料用品種と、ピーマン、パプリカ、シシトウなどの辛くない野菜用品種がありますが、本研究の成果により、いずれにもベゴモウイルス抵抗性を品種改良で付与することが可能です。また、トウガラシを含む様々な園芸作物(ナス、キュウリ、メロンなど)において新たな抵抗性遺伝子の探索も継続し、より強いウイルス抵抗性品種の開発に向けた研究も進めていきます。

【研究支援】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B(19H02950)および日本とインドネシアの二国間交流事業(研究代表者:小枝 壮太)の支援を受けて実施しました。

【用語解説】
※1 ベゴモウイルス:一本鎖環状DNAをゲノムに持つウイルスで、世界各地での農業生産に大きな経済的被害を与えているウイルス属。

※2 RAD-seq解析:制限酵素で切断したゲノムDNAの末端にアダプターを付加し、その塩基配列を高速シーケンサーで読み取ることにより、ゲノム全域に渡る遺伝子変異を分析する技術。

※3 連鎖解析:生物が持つ特徴とDNAの塩基の違いを調べ、その相関関係から特徴を決めているDNAの塩基を絞り込む手法。

※4 mRNA:遺伝物質であるDNAからmRNA(メッセンジャーRNA)が転写され、mRNAが翻訳されてタンパク質になる。生物の代謝は最終産物であるタンパク質が行っているため、mRNAは遺伝物質であるDNAからタンパク質を作るための重要な中間産物である。

※5 第9イントロンのスプライシング部位:真核生物のDNAにある遺伝子は、タンパク質を作るための情報を持つ部分(エキソン)と持たない部分(イントロン)に分けられる。DNAからmRNA前駆体が転写される際には、エキソンとイントロンが合わせて転写されるが、RNAスプライシングによりイントロンが切り出されて、エキソンのみが繋げられることで成熟mRNAになる。イントロン配列は必ずGTで始まり、AGで終わるルールを持っており、これがRNAスプライシングの際にイントロンを正しく切り出すための重要な目印になる。ベゴモウイルス抵抗性のBaPep-5では第9イントロンの終わりにあるAGがGGに変異しているため、RNAスプライシングの際にイントロンがmRNA前駆体から正しく切り出されず、成熟mRNA配列に残ってしまう。これにより、mRNA配列から翻訳されるタンパク質のアミノ酸配列にも変化が生じて、結果としてベゴモウイルス抵抗性を獲得する。

※6 ウイルス誘導性ジーンサイレンシング(VIGS):ウイルス感染によって誘導されるRNAサイレンシング機構を利用した、植物の逆遺伝学的解析技術。任意の遺伝子配列の転写を抑制した場合の植物体の変化を調査できる。本研究ではタバコ茎えそウイルス(TRV)を実験に用いた。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 准教授 小枝 壮太(コエダ ソウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1360-koeda-sota.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/