古代の酒文化「酒と都と須恵器と土師器」によせて

奈良文化財研究所 コラム作寶樓(さほろう)vol.297

2025-05-09 17:00
平城宮造酒司跡でみつかった井戸

 奈良時代には、平城宮に造酒司(さけのつかさ)という酒造りの役所が置かれ、国家的な酒造りがおこなわれました。奈文研の発掘調査によって、この造酒司の遺構も見つかっています。発掘調査で見つかった井戸は、六角形の石敷きで囲まれた特別な構造をしていました。井戸や木樋(もくひ)のほかにも、須恵器の甕がたくさん並べられた建物遺構などが見つかっています。さらに、古代の酒造りに関する興味深い木簡もたくさん出土しました。

種類豊富な古代の酒

酒造りのイメージ(須恵器甕は造酒司出土ではありません)

 造酒司で醸(かも)された酒は天皇がおこなう儀式や、さまざまな饗宴(きょうえん)に供されました。古代の人々にとって酒が、いかに重要なアイテムであったかは、史料にみえる酒の種類が多いことからもうかがえます。「濁酒(ニゴレルサケ)」、「清酒(スミサケ)」、「白酒(シロキ)」、「黒酒(クロキ)」のほか「難酒(カタザケ)」と書かれたものなどがあります。米からつくる酒は甘酒やドブロクのように白濁しています。この濁酒の上澄みを分離したものが、「清酒」でしょう。

 白紀(白酒)と黒紀(黒酒)は、大嘗祭で供された酒として、平安時代に編纂された儀式書である『延喜式(えんぎしき)』にも出てきます。黒紀(黒酒)は久佐木(クサキ 草木のことか?)灰を加えた酒のことで、加えない酒は白酒と呼ばれたようです。また、『和名抄』によれば、難酒はアルコール度数の高い濁酒を指すそうです。

参考文献
関根真隆1969『奈良朝食生活の研究』吉川弘文館

ゆたかな古代の酒文化

「酒」や「酢」の種類を記した木簡

 酒の種類もさることながら、古代の酒文化に関する史料も実に多彩で、その奥深さを垣間みることができます。事無酒(コトナグシ)、笑酒(エグシ)、味酒(ウマサケ)などなど、枚挙にいとまがありません。なかでも、わたしが素敵だなと思う酒は、「待ち酒(マチザケ)」という言葉です。

 待ち酒は訪ねてくる人のために用意した酒を指すそうです。冷蔵庫や温度計などがない時代、お酒の飲み頃をはかって醸造する必要があったのでしょう。車も電車もない時代、古代の人々が訪れてくる人を、酒を醸しながら、ゆっくりと心待ちにした・・・そんな様子が垣間見えます。そして、その酒はどんな味がしたのでしょうか。

大阪・関西万博記念企画展示「酒と都と須恵器と土師器」

キュートぐみ(妖精)の待ち酒(ノンアルコール)

 現在、平城宮跡資料館では酒造りに使われた甕や「酒坏」と書かれた土器、酒器として使われたとみられる須恵器の𤭯(ハソウ)など、古代の酒に関連する遺物を展示しています。また、遺構展示館では、サテライト展示として、発掘された造酒司の遺構を動画で展示しています。

 「待ち酒」はご用意できませんが、古代の酒造りに関する遺構と遺物の展示をご用意して、みなさまのご来館をお待ちしております。ぜひ、古代酒の世界に酔いしれに、平城宮跡にいらしてください。

(展示公開活用研究室長 神野 恵)

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詳しくはこちら⇓奈文研プレスリリース

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