明治学院大学心理学部の足立准教授が文科省主催 「不登校に関する調査研究協力者会議」に出席 子どもの不登校の予兆や対策について調査結果をもとに発表
研究者として国内で先駆的な研究を行っている明治学院大学心理学部心理学科の足立准教授が、不登校に関する調査研究協力者会議(第6回)*においてプレゼンテーションを行いました。
文部科学省の調査によると2021年度、小中学校の不登校児童生徒数は過去最多の約24万5,000人にのぼっています。永岡桂子文部科学大臣は2023年1月31日、不登校対策の抜本強化のため、新たに計画を策定すると表明しました。本リリースでは足立准教授のプレゼンテーションの要点と支援が必要な子どもへの対策に関する見解をご紹介します。
プレゼンテーションの資料については以下よりご確認ください。
以下URLの資料2が該当資料となります。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/001/siryo/1422639_00004.htm
*2月14日の不登校に関する調査研究協力者会議(第6回)の場において、「不登校対策の検討にあたっての方向性」として、より具体的に方向性として、1. 30万人の不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びを継続する。2. 心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する。3. 学校を「みんなが安心して学べる」場所にする。4. 「不登校」を科学的に把握する、という4つの指針が示されています。
本研究のポイント
子どもの不登校の予兆は、
(1) メンタルヘルスの不調やその関連要因を定期的に捉えることによって比較的早期に捉えられる可能性がある。
(2) 対処の観点からは個人的要因に着目するだけでは十分ではなく、ソーシャル・キャピタルをはじめとする環境要因に目を向け、予防的な関わりを同時に行っていく必要性がある。
発表(研究)の調査方法の概要
足立准教授らの研究グループは、東北地方の一都市の全ての公立小中学校に在籍する児童生徒、年間約1万人を対象に心の健康とその関連要因に関する継続的な追跡調査を続けてきました。
調査でわかったこと
これまでの調査からは、不登校の予兆として、多欠席という行動が生じる前段階において「慢性的な抑うつ症状(気分の落ち込み)」が観察されること、さらに慢性的な抑うつ症状には、学業不振やいじめ被害を含む友人関係の問題等が関連して生じている可能性が高く、それらを質問紙調査によって、早期に捉えることが可能であることが示されています。
以上は、主に個人的要因から不登校の予兆を捉える取り組みですが、一方で多欠席の予兆となる慢性的な抑うつ症状には環境的要因が強く関連することが同時に示されています。この点について、足立准教授らの研究グループは、子どものソーシャル・キャピタル(社会的資源)という観点から調査を行っています。ソーシャル・キャピタルはもともと成人のメンタルヘルスとの関連要因として研究されてきた概念であり、個人を取り巻く社会の信頼関係、規範、ネットワークといった社会組織の重要性を説く概念です。子どもを対象にしたソーシャル・キャピタルの研究においては、特に学校への信頼感、安心感が重要な要因として位置づけられています。足立准教授らの研究からは、子どもの抑うつ症状とソーシャル・キャピタルには、比較的強い関連があること、ソーシャル・キャピタルには学校間差やクラス間差があり、ソーシャル・キャピタルの高い集団に所属することは、子どもの抑うつ症状に保護的に働く可能性が示されました。
以上の観点から、子どもの不登校の予兆は、メンタルヘルスの不調やその関連要因を定期的に捉えることによって比較的早期に捉えられる可能性があること、ただし、対処の観点からは個人的要因に着目するだけでは十分ではなく、ソーシャル・キャピタルをはじめとする環境要因に目を向け、予防的な関わりを同時に行っていく必要性があることを指摘しています。
研究者コメント:今後の課題・展開
永岡大臣が示した方針に基づき、今後、1人1台端末を活用しアプリ等によって子どもの心の健康状態が可視化できるような仕組みづくりが加速していくものと考えられます。そこでは、見栄えは良いものの項目の設定に科学的根拠のないものが乱立していく可能性が懸念されます。本当に支援が必要な子どもに対し、支援が行き届くためには、科学的根拠に裏付けられたツール作りが必要となります。さらに、早期発見をしても、その後の対処の手段が確立されなければ、本質的な意味をなしません。ツールづくりは対処とセットで行い一つの支援システムを構築していくことが必須です。学校には教員、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど、多様な専門職が存在しています。今後は、このような多職種間の共通言語となるようにツールを位置づけ、得られた結果に基づき有機的な連携が生まれるようなシステム作りが求められるものと考えられます。
*なお本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業―BIRTHDAY 『学童・思春期のこころの客観的指標と連携システムの開発』(課題番号:JP18qk0110036h0001、代表:中村和彦 (弘前大学))、JSPS科研費基盤研究(B)「大規模前向きコホートデータを活用した科学的根拠に基づく子どもの自殺予防体制の構築」(課題番号:JP22H01087、代表者:足立匡基(明治学院大学))、一般社団法人 日本心理臨床学会2020年度研究助成金「児童思春期のメンタルヘルスの成長曲線に及ぼすCOVID-19パンデミックの影響の検証とエビデンスに基づく多職種連携による地域支援システムの開発」(課題番号 2020(ii)-01 代表:足立匡基(明治学院大学))からの助成を受けて行われました。
研究者プロフィール
教員プロフィール | 明治学院大学心理学部
https://psy.meijigakuin.ac.jp/ps/teachers/masaki_adachi/
■明治学院大学について■□
創設者は“ヘボン式ローマ字”の考案や和英・英和辞書『和英語林集成』の編纂、聖書の日本語訳完成などの業績があるJ.C.ヘボン博士。明治学院の淵源となる「ヘボン塾」が横浜に開かれた1863年を創設年としています。建学の精神である「キリスト教による人格教育」と学問の自由を基礎とし、ヘボン博士が貫いた“Do for Others(他者への貢献)”を教育理念としています。広く教養を培うとともに、各学部学科において専門分野に関する知識・技能および知的応用能力を身につけた人間の育成を目指します。2023年に創立160周年を迎え、2024年には本学初の理系学部「情報数理学部」を設置予定です(仮称・設置構想中)。 https://www.meijigakuin.ac.jp