猿沢池に興福寺の258年前の古瓦で魚礁を設置 池の生態系保全と観光資源の価値向上をめざす

2020-09-11 13:30
使用する興福寺の瓦 (宝暦十二,1762年焼成)(左)、設置予定の古瓦17枚で組み上げた人工魚礁(右)

近畿大学農学部と興福寺(いずれも奈良県奈良市)は、令和2年(2020年)9月24日(木)、共同事業として奈良市の猿沢池に、興福寺の建物に葺かれていた古瓦を組み上げた人工魚礁を設置します。創建当初、興福寺に葺く瓦はもともと現在の猿沢池の場所にあった湿地の粘土で焼成されていた歴史も踏まえ、役割を終えた瓦をゆかりの場所で、新たな目的を担う魚礁という形で再活用します。
なお、猿沢池への魚礁の設置については、奈良公園を管理する奈良県(奈良公園室、奈良公園事務所)と打合せを重ね、必要な許可を得て実施します。

【本件のポイント】
●興福寺の葺き替えで出た古瓦を再活用して猿沢池に在来魚のすみかとなる魚礁を設置し、生態系保全に努める
●魚礁に仏教、環境、絆など多様な視点から考える意味を持たせ、瓦に100年先の未来へのメッセージを綴る
●宗学官連携の取り組みで、奈良の象徴的な場所でもある猿沢池の環境改善と観光資源の価値向上をめざす

【本件の背景】
興福寺は毎年4月17日に伝統行事である放生会を猿沢池で行っていますが、本年は近畿大学との宗学連携により、飼育品種であるキンギョを放生する従来の方法を改め、猿沢池に生息している魚類をあらかじめ採取し、在来種のみを法要後に改めて放生するという生態系に配慮した方法で実施しました。伝統行事を通じて多くの人に猿沢池の生態系保全に対して関心をもってもらう取り組みを始めました。
今回はこの一環として、興福寺から、堂塔の葺き替えで出た古瓦を使い、100年先を見据えた猿沢池の環境保全に活用できないかとの提案がありました。この提案を受け、近畿大学農学部環境管理学科水圏生態学研究室の学生が中心となり、企画提案に取り組む事になりました。

【本件の企画内容】
全体的に単調な環境である猿沢池に人工魚礁を沈めることで、魚類などの在来種の産卵場所や隠れ家の創出に取り組みます。多孔質である古瓦自体には水質浄化作用がありますが、魚礁の設置によって生き物の数を増やすことによって生態系機能が高まることによる、水質の改善や水鳥の往来といった景観の向上も期待できます。
また、古瓦の数などにさまざまな意味、想いを持たせることで、単なる環境保全だけではなく、猿沢池の景勝地としての魅力を向上させ、100年先の未来へ豊かな観光資源として伝え継いでいくことを目的としています。
今回設置する魚礁の意味づけや設置方法などは、近畿大学農学部の学生が中心となって企画し、今回の3基の設置で終わらず、来年度からは興福寺の放生会*(毎年4月17日に実施)にあわせて魚礁を数基ずつ設置し、最終的には17基を目標に増設する予定です。伝統行事と一体で行うことにより、生態系保全への関心や猿沢池の観光資源としての魅力を向上させる狙いがあります。
* 放生会(ほうじょうえ)とは、捕まえた生き物を殺さずに放流することで、むやみな殺生を戒め、生命はみな平等であるという仏教の教えを体現する行事。

【17枚の古瓦に込める祈り】
観音さまの縁日の日が17日であり、さらに興福寺の放生会は毎年4月17日に行われていることから、17という数字にちなみ17枚の瓦で1基の魚礁を作ることにしました。17枚の古瓦を下段から、7、5、3、2枚と全て素数になるように組み上げていくことで、1とその数以外で割ることができないという素数の特徴に、人間同志や人間と自然との間で割れることなく続く強い絆につながってほしいという意味を持たせました。また、素数の無限に存在するという特徴になぞらえて、「お寺×魚類の研究者」で始まったこの取り組みが、多くの人を巻き込みながら無限に広がってほしいという願いを込めました。魚礁に用いる瓦に、人々の環境保全、絆、発展などの願いを墨書きにして込めることで、猿沢池への関心と愛着を高め、100年先の未来へのメッセージとしての役割も込められています。

【実施概要】
日  時:令和2年(2020年)9月24日(木)15:00~16:30
場  所:猿沢池(奈良県奈良市)
企画者 :駒井 藍(近畿大学大学院農学研究科 博士前期課程1年)
作業者 :近畿大学農学部環境管理学科水圏生態学研究室学生 他
     ※ 技術協力:株式会社ジェイテクト奈良工場(橿原市)
作業内容:猿沢池北側の3箇所に17枚の古瓦を組み上げた魚礁を設置

魚礁設置位置

※ 赤の円形部分あたりに魚礁を設置します。
※ 作業時に、魚礁設置場所に移動可能なステンレス枠(約1.5m×1.5m)を設置し、枠内を電動ポンプで排水しながら枠内の水位を手積み可能な水位まで下げた上で、瓦魚礁を設置する。
※ このステンレス枠の固定に関して、杭打ち等は行いません。

【関連リンク】
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

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