イチゴうどんこ病菌が生涯で放出する胞子数を世界で初めて解析 化学農薬のみに依存しないうどんこ病防除法への応用に期待

うどんこ病を発症したイチゴ葉
うどんこ病を発症したイチゴ葉

近畿大学農学部(奈良県奈良市)農業生産科学科4年 綾部 萩佳、近畿大学大学院農学研究科博士前期課程2年 木村 豊、同研究科・アグリ技術革新研究所教授 野々村 照雄らの研究グループは、植物病害の一つである「うどんこ病菌」の形態的・生態的特性について研究しています。特にイチゴに感染するイチゴうどんこ病菌※1 について、1個の胞子が感染した際、生涯にわたりどれだけの子孫胞子を放出するかを世界で初めて明らかにしました。さらに、イチゴうどんこ病菌は日長(昼間と夜間)や光強度(光の強さ)の違いで、菌叢※2 から放出される胞子数が異なることも明らかにしました。本研究成果を生かすことで、化学農薬のみに依存せず、うどんこ病を発生初期段階で防除し感染拡大を防止できると考えられます。
本件に関する論文が、令和4年(2022年)12月9日(金)に、世界的に有名な植物科学誌"Plants"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●イチゴうどんこ病菌の1個の胞子が感染した場合に、生涯で放出される胞子数を解析
●イチゴうどんこ病菌の子孫胞子の放出には、日長や光強度が関与していることを解明
●化学農薬に依存しない、新たな病害防除法の開発に繋がる研究成果

【本件の背景】
うどんこ病は、農作物、樹木、雑草など多種多様な植物で発生する身近な植物の病気ですが、農業分野では、良質な果実ができなくなり収量に大きな影響を与えるため、重大な植物病害の一つとされています。発症すると、うどんの粉を振りかけたような白い斑点が発生することから、この名が付きました。原因となるうどんこ病菌(カビ)の胞子が植物に付着後、侵入・感染することで白い斑点(菌叢)を形成し、菌叢内に多くの分生子柄※3 がつくられます。この分生子柄上に子孫となる胞子がつくられ、胞子を放出・飛散させることで周りの健全な植物に感染を拡大させます。
うどんこ病菌の防除には化学農薬が使われますが、化学農薬は環境に負荷を与えるうえ、化学農薬が効かない薬剤耐性菌の出現も国内外で報告されていることから、化学農薬に依存しない新たな防除法の開発が急務とされています。

【本件の内容】
研究チームは、多湿環境でも低湿環境でも発生しやすく、イチゴに感染する「イチゴうどんこ病菌」に注目し、研究を進めてきました。本研究では、イチゴうどんこ病菌がイチゴ葉に感染した後、生涯にわたりどれだけの胞子を放出・飛散させるかを検証しました。
まず、1個の胞子をイチゴ葉に感染させた後、それらが増殖して形成した一つの菌叢から放出される胞子を24時間おきに回収し、胞子数を計測しました。その結果、イチゴうどんこ病菌は約34日間胞子を放出し続け、生涯で約7万個の子孫胞子を放出・飛散させることがわかりました。また、子孫胞子は、昼間は活発に放出されるのに対し、夜間はほとんど放出されなかったことから、胞子の放出には光が関与していることも示唆されました。さらに、夏期と冬期でそれぞれ胞子回収を行い、24時間内での胞子放出の時間帯を比較したところ、夏期に比べ冬期では放出の時間帯が2~4時間短くなっていたことから、胞子放出には日長も関与していることが示唆されました。
以上のことから、イチゴうどんこ病の拡大を防ぐためには、うどんこ病菌の菌叢を見つけ次第、初期段階で防除する必要があることが明らかになりました。

【論文掲載】
掲載誌 :Plants(インパクトファクター:4.685@2022)
論文名 :Real-time collection of conidia released from living single colonies of Podosphaera aphanis on strawberry leaves under natural conditions with electrostatic techniques
(静電気技術を利用したイチゴうどんこ病菌の単一菌叢あたりの生涯胞子放出数の測定)
著者  :綾部 萩佳1、木村 豊1、梅井 直樹1、瀧川 義浩2、角谷 晃司3、松田 克礼1、野々村 照雄1, 4*   *責任著者
所属  :1 近畿大学農学部・大学院農学研究科、2 近畿大学先端技術総合研究所、3 近畿大学薬学総合研究所、4 近畿大学アグリ技術革新研究所
論文掲載:https://doi.org/10.3390/plants11243453
DOI  :10.3390/plants11243453

【本件の詳細】
研究チームは先行研究において、イチゴうどんこ病菌を単離して分類・同定し、形態的な特徴や感染できる植物種(宿主範囲)について報告しています。本研究では、イチゴうどんこ病菌の特性をより詳細に理解して効率的な防除を検討するため、イチゴうどんこ病菌がイチゴ葉に感染した後、生涯にわたりどれだけの子孫胞子を放出・飛散させるのか、静電気技術※4 を利用して、単一菌叢あたりの生涯胞子放出数を測定しました。
まず、イチゴ(Fragaria×ananassa Duchesne ex. Rozier、品種 さがほのか)の葉上に、高解像能デジタル顕微鏡※5 下で微小ガラス針を用いて単一胞子を接種し、単一菌叢を形成させました。次に、研究チームが考案した静電気胞子回収装置(静電ドラム)※6 を用いて、2月、5月、7月、9月、11月、12月にそれぞれ胞子回収を行い、24時間おきに単一菌叢から放出される胞子数を、デジタル顕微鏡下で計測しました。その結果、イチゴうどんこ病菌は接種後約34日間にわたり胞子を放出し続け、生涯放出数は約7万個になることがわかりました(図1)。
さらに、計測データを解析したところ、昼間は胞子の放出数が多かったのに対し、光が当たらない夜間には少ないことも明らかになりました(図2)。光照度(光の強さ)の低下に伴って、単一菌叢から回収される胞子数が減少したことから、イチゴうどんこ病菌の分生子柄からの胞子放出には光が必要であることも示唆されました。また、接種後20日目のイチゴうどんこ病菌において、単一菌叢における24時間内での胞子放出に関する時間を比較したところ、夏期に比べ冬期では放出時間が2~4時間短くなっていることも明らかになりました(図2)。このことから、イチゴうどんこ病菌における胞子放出には、日長も大いに関与していることが示唆されました。

図1 静電気胞子回収装置を用いたイチゴうどんこ病菌(KSP-7N)の単一菌叢における生涯胞子放出数の測定
図1 静電気胞子回収装置を用いたイチゴうどんこ病菌(KSP-7N)の単一菌叢における生涯胞子放出数の測定
図2 静電気胞子回収装置を用いて20日目のイチゴうどんこ病菌の単一菌叢から回収された胞子数の測定
図2 静電気胞子回収装置を用いて20日目のイチゴうどんこ病菌の単一菌叢から回収された胞子数の測定

白矢印は日の出の時間を示し、黒矢印は日の入りの時間を示す。5月20日の日の出時刻は午前4時50分、日の入り時刻は午後6時56分であり、昼間の時間帯は14時間6分、夜間は9時間54分であった。12月20日の日の出時刻は午前6時59分、日の入り時刻は午後4時49分であり、昼間の時間帯は9時間50分、夜間は14時間10分であった。イチゴうどんこ病菌は、昼間に子孫胞子を活発に放出していることが明らかである。

【今後の展開】
今回の研究では、世界で初めて、イチゴうどんこ病菌が生涯で放出する子孫胞子数とその寿命について明らかにしました。うどんこ病菌は胞子を感染源として、その周辺の健全な植物へ感染範囲を拡大していくことから、本病の拡大を防止するためには、うどんこ病菌の菌叢を見つけ次第、初期段階で防除することが必要です。今後は、本知見を生かし、化学農薬のみに依存しないうどんこ病防除法の開発に関する研究を進めていきたいと考えています。

【研究者のコメント】
野々村 照雄
所属  :近畿大学農学部 農業生産科学科、近畿大学アグリ技術革新研究所
職位  :教授
学位  :博士(農学)
コメント:うどんこ病は身近な植物病害として知られています。特に、農作物にうどんこ病が発生すると化学農薬を使用して防除しますが、薬剤耐性菌の出現や環境負荷の問題を考慮すると、化学農薬のみに依存しない新たな防除法の開発が必要となります。防除戦略を講じるためにも、感染拡大の原因となる胞子の放出数やその放出特性を明らかにしておく必要があります。

【用語解説】
※1 イチゴうどんこ病菌:Podosphaera aphanis(Wallroth)U. Braun & S. Takamatsu)var. aphanis KSP-7N。イチゴのみに感染する植物病原菌で、カビの一種。うどんこ病菌は栄養培地では培養できないカビ菌であり、生きた植物のみに感染し、増殖する。このような菌を絶対寄生菌と呼ぶ。
※2 菌叢:カビ胞子から菌糸が伸びて、菌糸が密集したもの。例えば、1個のカビ胞子から菌糸が伸びて、菌糸が密集すると肉眼では同心円状にみえる。
※3 分生子柄:子孫の胞子を生産・形成する感染構造体。
※4 静電気技術:静電気のクーロン力を利用して、カビ胞子を捕捉・回収する技術。
※5 高解像能デジタル顕微鏡:高倍率で観察できる落射型の実体顕微鏡。サンプルを生きたまま自然な状態で観察できるため、葉の表面で生育するうどんこ病菌の観察に適している。
※6 静電気胞子回収装置(静電ドラム):ドラム(円柱状のもの)に巻かれた透明な絶縁性のフィルム(回収フィルム)を静電気で帯電させ、菌叢から放出される胞子を捕捉・回収する装置。タイマー式となっており、24時間で1回転することから、24時間ごとに回収フィルムを交換し、子孫胞子の放出がなくなるまで回収実験を続けることができる。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 教授 野々村 照雄(ノノムラ テルオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/162-nonomura-teruo.html

農学部 農業生産科学科 教授 松田 克礼(マツダ ヨシノリ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/402-matsuda-yoshinori.html

先端技術総合研究所 准教授 瀧川 義浩(タキカワ ヨシヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/166-takikawa-yoshihiro.html

薬学総合研究所 教授 角谷 晃司(カクタニ コウジ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/819-kakutani-kouji.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/
近畿大学薬学総合研究所
https://www.phar.kindai.ac.jp/centers/
アグリ技術革新研究所
https://www.kindai.ac.jp/atiri/


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