ビル管理士「建築物環境衛生管理技術者」資格とは?
受験資格や難易度・合格率を詳しく解説
ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)は、建築物の維持管理に関する監督等を行う為に必要な国家資格です。
特定建築物ではビル管理士の選任が「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称ビル管法)」により義務づけられています
その為、キャリア形成において常に一定以上、採用需要のある資格であり、実務で使える資格と言えるでしょう。
ビル管理業界では仕事上で活用できるだけでなく、転職や昇進にも有効な資格の一つなので、業界で働く方は取得を目指すことをおすすめします。
似た名称の資格に「ビル経営管理士」がありますが、コチラはビルのプロパティ・マネジメントを担当する際に、一定の能力を有していることを証する公的資格です。
それぞれの資格の違いをふまえて、ビル管理士の資格を取得するメリットやデメリット、ビル管理士が行う業務を御紹介します。
ビル管理士「建築物環境衛生管理技術者」とは
ビル管理士とは、正式名称を建築物環境衛生管理技術者といい、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:ビル管法)において、特定建築物で選任が義務づけられた国家資格です。
なお、ビル管法における特定建築物とは、特定用途に利用される部分の面積が、3000㎡以上の建物(学校の場合は8000㎡以上)と定められています。
この資格は、簡単に言ってしまうと「ビルをしっかり守り、快適に保つためのエキスパート」であることを示します。ビルの安全性・快適性・経済性を高めるために、建築物の管理や設備の保守点検・清掃・セキュリティ・環境管理など幅広い知識が求められます。
ただ、ビル管理士の資格取得には、2年以上の実務経験と試験または講習への合格が必要になる為、資格取得によって専門性の確保や信用力は向上するでしょう。
ビルオーナーがビル管理士として名義を出すこともありますが、一般的にはビル管理会社等へ委託するケースが多いです。
ビル管理士とビル経営管理士の違い
ビル管理士とよく似た名前の資格に「ビル経営管理士」があります。名称は似ていますが、それぞれ別の役割を持つ資格です。
実は私も「ビル経営管理士」の資格は取得しています。実際に本資格を取得した経験と実務での経験をふまえて、混同されることの多い「ビル管理士」と「ビル経営管理士」の違いについて解説します。
ビル経営管理士とは
まず「ビル経営管理士」の資格ですが、この資格は、プロパティマネジメント(不動産オーナーから委託を受け、オフィスビルや商業施設などの運営管理を代行する業務のこと)のエキスパート資格です。
ビル経営管理士の資格を取るには、日本ビルヂング経営センターの実施する試験に合格する必要があります。民間資格とはいえ、国土交通大臣登録証明事業として行っている公的資格です。ビル経営管理士の資格を持っていると、不動産特定共同事業の業務管理者になれます。
(参考:一般社団法人 日本ビルヂング競合連合会)
ビル管理士とビル経営管理士の種類の違い
ビル管理士とビル経営管理士の大きな違いとして「国家資格」と「公的資格」という違いがあります。
ビル管理士:国家資格
ビル経営管理士:公的資格
国家資格は国や政府が直接管理し、認定する資格です。国家資格は一般にその専門分野での高い権威と認知を持っており、取得することでその分野で働くための公的に認められた能力があると認定されます。例えば、医師、弁護士、公認会計士などが国家資格です。
国家資格はその名の通り国によって認定されているため、資格の信頼性が高いです。
一方、公的資格は、国が直接管理するわけではありませんが、公的機関や認定された民間団体が管理・発行する資格です。「ビル経営管理士」は、日本ビルヂング経営センターが国土交通大臣登録証明事業として行っている公的資格です。
公的資格は特定の職業や技能の専門性を認めるものであり、特定の業界や職種での知識やスキルがあることを示します。国家資格に準ずる信用度があるためにキャリアアップ・就職・転職の武器になります。
ビル管理士とビル経営管理士の仕事内容の違い
ビル管理士とビル経営管理士の違いを、仕事内容から確認してみましょう。
簡単にいうと、次の違いがあります。
ビル管理士:ビルの管理
ビル経営管理士:ビルの経営
各資格保有者の主な仕事内容は次の通りです。
ビル管理士
ビルの保守・点検業務:電気設備、空調システム、エレベーターなどの定期的な検査と保守
設備の故障対応:不具合や故障が発生した際の迅速な対応と修理
安全管理:火災や地震などの災害に対する安全対策や避難計画の策定
環境管理:清掃、廃棄物の管理、節電対策など、ビル内外の環境衛生管理
ビル経営管理士
資産管理:ビルの収益性分析、価値向上のための戦略策定、リース契約の管理
テナント管理:テナントの募集と選定、賃貸契約の締結と更新、テナントとの関係維持
マーケティング:ビルの魅力を高めるためのマーケティング戦略の策定と実施
経営戦略:ビルの長期的な運営計画の立案、財務計画の策定
このように、ビル管理士はビルの保守管理・安全管理を行うのに対し、ビル経営管理士はビルの経営戦略に関わる業務を行うという違いがあります。ビル管理士は技術的な面での専門性が求められ、ビル経営管理士は経営や財務に関する知識が必要とされます。
ビル管理士の資格をとる方法
ビル管理士とビル経営管理士の違いをご説明したうえで、本記事ではビル管理士の資格取得方法について詳しく御紹介していきます。
ビル管理士の資格をとる方法は2つあります。
試験を受ける
講習を受ける
試験は年に1回。試験範囲は広く、幅広い知識が必要とされます。
講習はハードルが低そうに思えますが、合計で101時間の講義を受ける必要があり、受講料は約10万円かかります。試験と講習の詳しい内容については次のところで解説していきます。
ビル管理士の資格取得方法
ビル管理士の試験の概要
ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)の国家試験の試験概要からご説明します。
試験日程:例年10月の第1日曜日
試験地:札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪市 及び 福岡市
試験科目:
建築物衛生行政概論
建築物の構造概論
建築物の環境衛生
空気環境の調整
給水及び排水の管理
清掃
ねずみ、昆虫等の防除
引用:国家試験情報|公益財団法人 日本建築衛星管理教育センター
※毎年4月上旬に、その年の試験情報が公開されます。
ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)の受験資格
ビル管理士の受験資格は次のように決められています。
「次の用途に供される建築物の当該用途部分において環境衛生上の維持管理に関する実務に業として2年以上従事された方」
(従事期間については、実務従事証明書の証明日現在で2年以上が必要です。)建築物の用途
ア)興行場(映画館、劇場等)、百貨店、集会場(公民館、結婚式場、市民ホール等)、図書館、博物館、美術館、
遊技場(ボーリング場等)
イ)店舗、事務所
ウ)学校(研修所を含む。)
エ)旅館、ホテル
オ)その他アからエまでの用途に類する用途
多数の者の使用、利用に供される用途であって、かつ、衛生的環境もアからエまでの用途におけるそれと類似しているとみられるものをいいます。例)
受験資格に該当する用途
共同住宅、保養所、寄宿舎、保育所、老人ホーム、病院等
受験資格に該当しない用途
もっぱら倉庫、駐車場、工場(浄水場、下水処理場、清掃工場、製造工場等)等の用途に供されるもの。その他特殊な環境(通信施設、発電所等)にあるもの。」
引用:国家試験 情報|公益財団法人 日本建築衛星管理教育センター
自分に受験資格があるかわからない場合は、(公財)日本建築衛生管理教育センター国家試験課へ問い合わせしましょう。
ビル管理士の資格の受験スケジュール
まずビル管理士の”試験”を受験する場合のスケジュール概要をお伝えします。講習で取得を目指す方は、本記事の後半で講習スケジュールを紹介しているので、そちらを御確認ください!
4月上旬:試験概要の公表・願書の配布開始
5月上旬~6月上旬:受験申込
10月上旬:試験(例年10月の第1日曜日)
11月上旬:合格発表
ビル管理士の資格の受験手数料
ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)の試験の令和5年度の受験手数料は、13,900円(非課税)でした。
願書および実務従事証明書は、ダウンロードして印刷もしくは郵送による請求ができます。
ビル管理士の資格の試験科目と例題
ビル管理士の試験は次の7つの科目から出題されます。
建築物衛生行政概論
建築物の構造概論
建築物の環境衛生
空気環境の調整
給水及び排水の管理
清掃
ねずみ、昆虫等の防除
試験は午前と午後に分かれてそれぞれ90問ずつ、合計180問が出題されます。
ビル管理士の試験問題の一例として、「建築物の環境衛生」の分野からは過去に以下のような問題が出題されています。
出典:「過去の試験問題と合格基準・正答一覧」日本建築衛生管理教育センター
また、「建築物の環境衛生」の分野からは過去に以下のような問題が出題されています。
出典:「過去の試験問題と合格基準・正答一覧」日本建築衛生管理教育センター
また、「給水及び排水の管理」の分野からは過去に以下のような問題が出題されています。
出典:「過去の試験問題と合格基準・正答一覧」日本建築衛生管理教育センター
なお、過去3年分の試験問題は日本建築衛生管理教育センターのサイトで公開されていますので、参考にしてください。
ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)試験の合格率と難易度
次にビル管理士の合格基準を御紹介します!
「科目毎の得点が各科目の合格基準点(各科目の満点数の40%)以上であって、かつ、
全科目の得点が全科目の合格基準点(全科目の満点数の65%)以上であることとする。」
引用:国家試験情報|公益財団法人 日本建築衛星管理教育センター
つまり、7つの科目のうち、1つでも40%を下回ると不合格になってしまいます。すべての科目で40%以上の点数をとる必要があります。
そして、全科目あわせて65%以上の得点(117点)で合格となります(満点180点)。
次にビル管理士の合格率ですが、令和5年度のビル管理士の合格率は、21.9%でした。
参考:「第53回建築物環境衛生管理技術者試験」の合格発表|厚生労働省
令和2年度の合格率は19.5%、令和3年度は17.7%、令和4年度は17.9%と公表されており、毎年20%前後の合格率であることがわかります。
ビル管理士の資格の学習方法
ビル管理士の資格試験の学習は、過去問をとくことが合格へのカギとなります。
ビル管理士の試験範囲は広く、出題数も多いですが、過去問を解くことで出題傾向がわかります。出題傾向から「よく出る問題」「得点源」を見つけ、重点的に学習することで余裕をもって試験にのぞむことができるでしょう。
実務経験が必要な資格なので受験者は基本的には社会人になりますが、社会人の方の資格取得は「時間の確保」と「忘れない勉強法」が非常に重要です。
ビル管理士は合格率こそ20%以下と低い物の試験内容自体は、難しい物ではなく、定期的な学習時間を確保して、過去問を解くことで合格している方も多くいらっしゃいます。
試験での合格が難しい方は、講習での取得も検討してみてください。講習機関が長いのと平日開催という点はありますが、ライフスタイルや志向によってはコチラで確実な取得をされる方もいらっしゃいます。
ビル管理士の講習で資格をとる
ビル管理士の講習の概要
ビル管理士の講義を受講することで、ビル管理士の資格を取得できます。
建築物衛生行政概論:10時間
建築物の構造概論:8時間
建築物の環境衛生:13時間
空気環境の調整:26時間
給水及び排水の管理:20時間
清掃:16時間
ねずみ、昆虫等の防除:8時間
と、このように、試験と同じ科目についての講義があり、合計すると101時間の講習を受けることになります。
ビル管理士の講習の受講料
ビル管理士の講習の受講料は、108,800円(非課税、テキスト等教材費含む、受講申込時には不要)です。
ビル管理士の講習の受講資格
ビル管理士の講習をうけるためには、受験資格をクリアしていなければなりません。
受講資格は、学歴および実務経験年数、他の資格および実務経験年数で細かく定められています。たとえば、「大卒者(文系)は、実務経験5年以上」などです。
ビル管理士の資格があるとできる仕事内容
ビル管理士の資格を持っていると、面積3000m2以上(学校は8000m2以上)の特定建築物において選任されます。これらの特定建築物にはビル管理士を選任する義務があります。ビル管理士は、選任された建築物の安全性、快適性、および衛生的な環境を維持する仕事をします。
ビル管理士は、ビルの所有者やテナントに意見を述べる権利があります。そして、ビルの所有者やテナントは、ビル管理士の意見を尊重する義務が法律で定められています。
具体的な仕事内容としては、
ビルの維持管理のための計画をたてる
ビルの維持管理のための業務にあたる
ビルの維持管理のための点検・調査にあたる
ビルの維持管理のための改善案を出し、実行する
という仕事があげられます。
ビル管理士が必要とされる業種
ビル管理士の資格を持っていると、転職に有利といわれています。実際に求人情報を見てみると、ビル管理士の資格保持者を優遇する求人も数多く見られます。とはいえ、ビル管理士の資格を活かせる業種はある程度限定されているといえるでしょう。
ビルの管理メンテナンス会社
ビルのマネジメント会社
不動産業界
ビル管理士の資格をとるメリット
ビル管理士の資格を持つメリットは次の3つです。
転職に有利
ビル管理士の資格を持っていると、転職に有利となります。有資格者を募集している求人は多いため、転職先には困らないでしょう。
また、面積3000m2以上の建物はビル管理士を設置するよう法律で定められているため、ビル管理業界において将来的に仕事に困ることは考えにくいです。
資格手当のある会社が多い
ビル管理士の資格を持っていると、資格手当が付くことが多いです。職場のエリアや会社によりますが、5,000円~10,000円程度の手当が毎月支払われます。
ビルオーナーなら権威性がつく
ビルオーナーが管理士の資格を持つと、ビル管理を自分でできるメリットもありますが、ビル管理をしやすくなるメリットもあります。
ビル管理士の意見は尊重しなければならないと法律で定められています。有資格者の意見なら信頼できると思われやすいため、入居者やテナントがオーナーの意見に従ってくれることが考えられます。結果としてビル管理がしやすくなるでしょう。
ビル管理士に関連する資格!ビルメン5点セットとは?
ビルメンテナンス業界で働くなら取得すると役立つ5つの資格として「ビルメン5点セット」と呼ばれる国家資格があります。
第二種電気工事士
危険物取扱者乙種4類
二級ボイラー技士
第三種冷凍機械責任者
消防設備士
「ビルメン」とは「ビルメンテナンス」の略で、ビルの設備を点検し、異常があった場合には応急処置をしたり、専門業者に対応依頼をしたりすることを指します。ビルメンテナンスに関わる仕事をしている人がスキルアップのために取得を目指したり、ビルメンテナンスの仕事に転職したい人が取得しておくと有利と言われているのがこの「ビルメン5点セット」の国家資格です。
ビルメンの仕事は資格の有無で、関われる業務の幅が変わってきます。ビルメンの仕事で関わることになる設備には「電気通信設備」「空器調査設備」「消防用設備」等様々な物があり、それぞれで設備に携わるのに必要な資格が定められています。
その為、こうした資格の保有が推奨されてきました。
そこでここではビルメン業務に携わる為に取得が推奨されているビルメン5点セットと呼ばれる各資格を解説していきます。
第二種電気工事士
第二種電気工事士は経済産業省が定める国家資格です。資格保持者は、一般施設や店舗などの小規模施設の電気工事に携わることができます。感電や火災を防ぐために、電気工事ができるのは有資格者だけと定められています。具体的には、照明器具の交換やコンセントの設置・移設などができるようになります。
第二種電気工事士には学科試験と技能試験があります。例年の合格率は約60%です。
危険物取扱者乙種4類
危険物取扱者乙種4類の資格保持者は、火災を引き起こす可能性が高い危険物を取り扱うことができるようになります。具体的には、ガソリンや灯油、重油などです。
ビルなどの建物では、非常用発電機やボイラーを運転するためのこれらの燃料を大量に貯蔵しています。そのため、ビルの管理には危険物取扱者乙種4類の資格保持者が必要となるのです。
危険物取扱者乙種4類の合格率は例年30~40%です。
二級ボイラー技士
二級ボイラー技士の資格保持者になると、建物内のボイラーを取り扱うことができます。ボイラーとは温水や蒸気を作り出して、建物内の他の設備に供給する機器のことです。建物内の給湯や暖房、発電などのために利用されます。ボイラーは内部が高温・高圧になるため、取り扱いを間違えると大事故につながります。そのため、ボイラーを取り扱える人は有資格者に限定されているのです。
二級ボイラー技士の合格率は約50%ほどとなっています。また、試験に合格するだけでは二級ボイラー技士の免許は受けられません。免許を受けるためには実地研修の経験があることが条件になります。
第三種冷凍機械責任者
第三種冷凍機械責任者は、冷凍設備にかかわる機械の保守業務ができる国家資格です。ガスには引火性があり爆発の危険をともなうため、高圧ガスを利用する冷凍倉庫や空調設備の取り扱いは有資格者に限定されています。ビルの空調設備に関する点検においてこの資格は役に立ちます。
第三種冷凍機械責任者のここ数年の合格率は18.3%~40.5%と、受験する年により難易度に幅があります。
消防設備士
消防設備士は、消防用設備の点検や整備で必要となる資格です。有資格者になると、火災報知設備や消火器などの消防用設備の転換や整備を行えるようになります。消防設備士の資格は甲種・乙種にわかれており、甲種の資格を取得すると消防用設備の設置・交換作業もできるようになります。
消防設備士の合格率は40%前後となっています。
ビル管理の資格でメンテナンスに役立てよう
ビル管理の資格について解説してきました。
資格取得のために時間や労力がかかるかもしれませんが、資格を取ることで仕事の幅は広がります。
実務経験を積みながらビル管理士の資格に挑戦し、キャリアアップを目指しましょう。