地球型惑星と小惑星帯の形成を数値シミュレーションで再現 太陽系内部の形成過程に関する新しい力学モデルを提唱

近畿大学総合社会学部(大阪府東大阪市)総合社会学科社会・マスメディア系専攻准教授 ソフィア リカフィカ パトリックと、大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台(東京都三鷹市)天文シミュレーションプロジェクト講師 伊藤 孝士は、地球型惑星(水星・金星・地球・火星)の軌道と質量、および小惑星帯※1 の軌道や質量などの特徴を解明するため、新しい力学モデルを使って、約46億年前の太陽系の誕生時に存在した「原始惑星系円盤※2」の進化を数値シミュレーションで検証しました。このシミュレーションにより、地球型惑星と小惑星帯の形成に関する特徴を再現し、地球型惑星を生み出す原始惑星系円盤が持つべき条件等が明らかになりました。これは、太陽系内部の形成過程に関して新しい力学モデルが提唱されたことを意味します。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)3月27日(月)19:00(日本時間)に、国際学術誌"Scientific Reports"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●数値シミュレーションにより、地球型惑星と小惑星帯が形成する様子を再現した
●地球型惑星の軌道と質量のみならず、小惑星帯の主な特徴も同時に説明できる、新しい力学モデルを提唱
●本モデルを用いて、太陽系内の観測事実である、地球型惑星上の水の起源、月を形成した巨大衝突の発生タイミング、水星と火星の質量が小さいことなどの要因も説明可能

【本件の背景】
太陽のような星が誕生する際には、周囲に星を取り巻く「原始惑星系円盤」(以下、円盤)と呼ばれる円盤状のガスとダストが形成されます。太陽系では、約46億年前に円盤に微惑星※3 が集積し、現在の地球型惑星と呼ばれる水星・金星・地球・火星が誕生しました。また同時に、火星と木星の軌道の間にある小惑星帯も形成されたと言われています。
太陽系内部を構成する地球型惑星と小惑星帯の形成過程には、未だ解明されていない点が多く存在しています。例えば、水の起源や、惑星によって軌道や質量が大きく異なる理由、小惑星帯にさまざまな特徴を持つ天体が混在している理由、また、地球型惑星や小惑星帯の形成過程における木星や土星の役割などが挙げられます。こうした謎の解明にはさまざまなシミュレーションが用いられますが、水星・金星・地球・火星の特徴を単一のモデルで正確に再現した数値シミュレーションは、これまでにありませんでした。

【本件の内容】
研究グループは、コンピュータを用いた数値シミュレーションで46億年前の太陽系を再現し、水星・金星・地球・火星の軌道や質量、小惑星帯の主要な性質などを反映したモデルを作成しました。
このシミュレーションを用いて解析した結果、水星・金星・地球・火星のような惑星が形成される円盤の特徴が明らかになりました。特に重要な特徴として、以下の3点が挙げられます。
(1)太陽系初期の木星と土星の特定の配置が影響して幅の狭い円盤ができ、地球型惑星と小惑星帯の形成が可能となった
(2)火星の小さな質量を再現するためには、円盤の広がりは2億2500万km以内に制限される
(3)水星の軌道と小さな質量を再現するため、円盤は1億2000万~1億3500万km以内の内部領域を持つ
また、地球をはじめとする地球型惑星上の水の起源や、月を形成した巨大衝突の発生タイミング、水星と火星の質量が小さい要因なども示唆され、これまで不明とされていた地球型惑星の形成過程の一部が明らかになりました。

【論文概要】
掲載誌:Scientific Reports(インパクトファクター:4.996@2021)
論文名:Terrestrial planet and asteroid belt formation by Jupiter–Saturn chaotic excitation(木星・土星のカオス励起による地球型惑星と小惑星帯の形成)
著者 :ソフィア リカフィカ パトリック1*、伊藤 孝士2 *責任著者
所属 :1 近畿大学総合社会学部、2 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト
URL :https://doi.org/10.1038/s41598-023-30382-9

【研究の詳細】
研究グループは、異なる特性を持つ円盤を初期条件とし、微惑星の集積により形成される惑星、および残存する微小な天体(小惑星)の様子を数値的に再現しました。解析から明らかになった、最も重要な3つの結果は以下の通りです。
(1)太陽系初期に、木星と土星が2:1の平均運動共鳴※4 に近い配置にあったことで、円盤内天体のカオス的な励起※5 が幅の狭い円盤を作り出し、地球型惑星と小惑星帯が形成されたことが示唆されました。これは、原始惑星系円盤の質量減少を引き起こす、新しい機構の提案です。
(2)火星や小惑星帯の小さな質量を再現するため、円盤の広がりは~1.5au※6 以近に制限される、という新しいシナリオを発見しました。1.5au以遠領域にある微惑星が枯渇することで、火星と小惑星帯の質量が小さいことを説明できます。
(3)水星の軌道と小さな質量を再現するため、円盤は0.8–0.9au以内の内部領域を持つことが示唆されました。
上述した結果は、地球型惑星形成の新しいモデルとなり、円盤内での約10Myr※7 にわたる不安定化、さらに続く力学的な進化の後、現在観測される軌道と質量を持つ4つの地球型惑星の形成までを再現できました。
また、このモデルから生成される地球のような惑星は、月の形成時期、水が豊富な微惑星が早期に集積すること(地球の水の起源)、水の少ない小惑星が遅くまで集積しない、といった重要な観測的制約を満たしています。
以上のように、この数値シミュレーションモデルは水星・金星・地球・火星の地球型惑星の軌道や質量、小惑星帯の主要な性質など、太陽系内部で見られる観測的制約の多くを同時に再現可能です。
その他、以下についても明らかになりました。
・月を形成した巨大衝突が、太陽系誕生後約60Myr以内に起こったこと
・地球形成の最初の10-20Myrの間に水が獲得されたこと
・円盤の日心距離2au以内に形成された天体によって、地球型惑星が後期重爆撃※8 を受けたこと
・小惑星帯の軌道構造、分光学的分類、また質量が小さいこと
さらに、研究グループは、小惑星帯形成の新しいモデルとして、地球型惑星形成後約4Gyr※9 の進化を経て、生き残る局地的な小惑星、および捕獲された小惑星との混成も提案しています。局地的な小惑星とは、円盤内天体のカオス的な励起により円盤内の天体が枯渇した後の残骸のことです。また、捕獲された小惑星とは円盤が不安定になった後に、木星以遠にある天体が貯蔵された領域から集積したものを示しています。このモデルは、小惑星帯が持つ特徴である、小さな質量、軌道分布、3つの主要な分光学的集団※10 の組成分類を再現することが可能です。また、太陽系の内側で発生した重爆撃は、地球型惑星形成の最終段階において、水の少ない小惑星の残骸によって引き起こされた可能性も示唆されました。
以上のように、数値シミュレーションを用いて地球型惑星と小惑星帯の形成を再現することで、太陽系内部の新しい力学モデルを提唱しました。

図 地球型惑星と小惑星帯の形成に関する木星-土星カオス励起シナリオの概要。 太陽系の力学的な歴史において発生する主要な四段階を表す。鍵となるイベントのおよその継続期間を時刻として示している。
図 地球型惑星と小惑星帯の形成に関する木星-土星カオス励起シナリオの概要。 太陽系の力学的な歴史において発生する主要な四段階を表す。鍵となるイベントのおよその継続期間を時刻として示している。

【研究者コメント】
ソフィア リカフィカ パトリック
所属  :近畿大学総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻
職位  :准教授
学位  :博士(学術)
コメント:太陽系の地球型惑星と小惑星帯は、人類にとって身近な存在かもしれませんが、根本的な特徴に関して現在でもたくさんの謎が残されています。そのような謎を同時に解き明かすことは厳しいチャレンジです。しかしながら、太陽系の謎を一歩一歩解明していくことはとても面白く、我々の地球をはじめ惑星や小惑星の別の問題についても理解が深まります。これからも新たな研究によって太陽系の様々な特徴を説明できるよう尽力します。

【用語解説】
※1 小惑星帯:太陽系の中で、火星と木星の軌道との間に存在する、小惑星が集中している領域。
※2 原始惑星系円盤:惑星形成過程の初期に現れる円盤状の構造。
※3 微惑星:原始惑星系円盤に含まれるダストが集積している途中でできる、数キロメートル程度の天体のこと。
※4 平均運動共鳴:天体の周りを公転する2つの天体の公転周期の比が、2:1や3:2など簡単な整数比の状態のことを指す。
※5 カオス的な励起:木星と土星が共鳴に近い状態にあることで、その運動には予測困難な不規則性(カオス性)が生じ、それが原因となって地球型惑星系で集積する小天体(微惑星など)の軌道が励起状態となること。軌道の励起とは天体の軌道の離心率や傾斜角が増大し、軌道が円・平面にある状態から外れること。
※6 au:1auは、太陽から地球までの平均距離で、約1億5千万km。太陽から水星、金星、地球、火星の距離はそれぞれ約0.4au、0.7au、1.0au、1.5au。
※7 Myr:1Myrは100万年間。
※8 後期重爆撃:45億年前から約10億年間続いた地球型惑星形成後の期間に起きた天体の衝突。
※9 Gyr:1Gyrは10億年間、1000Myr。
※10 3つの主要な分光学的集団:ここで扱ったのはS型、C型、D/P型の三種。S型小惑星は岩石を主成分とする天体で、日本の探査機「はやぶさ」が調査したItokawaが代表例である。C型小惑星はS型よりも始原的であり、岩石中に有機物などを含むとされる。探査機「はやぶさ」が調査したRyuguはC型小惑星である。D/P型(D型またはP型という意味)の小惑星はS型やC型の天体よりも更に始原的であり、太陽系の外側に行くにつれてその存在率が高まる。将来的にはD/P型の天体の探査も計画されている。

【関連リンク】
総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 准教授 ソフィア リカフィカ パトリック(SOFIA LYKAWKA Patryk)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/275-sofia-lykawka-patryk.html

総合社会学部
https://www.kindai.ac.jp/sociology/


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