磁場誘起型有機円偏光発光ダイオードの円偏光発生メカニズムを解明 円偏光発光ダイオードの高性能化の設計指針を提示

磁場誘起型有機円偏光発光ダイオードの円偏光発光メカニズム
磁場誘起型有機円偏光発光ダイオードの円偏光発光メカニズム

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科教授 今井喜胤(いまいよしたね)、大阪公立大学大学院工学研究科(大阪府大阪市)教授 八木繁幸らの研究グループは、白金錯体※1 を発光材料とする、磁場誘起型有機円偏光発光ダイオード※2 を開発しました。
有機発光ダイオードに外部から磁力を加えることで、3D立体映像を映し出す際に使われる、らせん状に回転しながら振動する光「円偏光」を発生させることに成功しました。また、キラル(光学活性※3)な発光体を材料とする従来の有機円偏光発光ダイオードとは異なり、左右両回転の円偏光発光が発光層から同時にかつ逆方向に発生していることを明らかにしました。このメカニズムに基づいたデバイス設計によって、これまでの有機円偏光発光ダイオードの課題であった光の回転度の低下を抑えることが可能となります。
本研究成果を用いれば有機円偏光発光ダイオードの高性能化が可能であり、将来的に、新しいタイプの有機円偏光発光ダイオードの開発に繋がることが期待されます。
本件に関する論文が、令和6年(2024年)2月7日(水)に、材料化学分野の国際的な学術誌である"Journal of Materials Chemistry C"(ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリー C)にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●光学不活性※3 な分子である白金錯体を用いて有機発光ダイオードを作製し、外部から磁力を加えることにより、赤色円偏光の発生に成功
●発光層を起点として右回転と左回転の円偏光を同時に取り出すことに成功
●円偏光の反射反転により円偏光の増幅が可能であることを解明

【本件の背景】
特定の方向に振動する光を「偏光」といい、その中でも、らせん状に回転しているものを「円偏光」といいます。円偏光を発する発光デバイス(円偏光を発する有機発光ダイオード)は、3D表示用有機ELディスプレイなどに使用される新技術として注目されています。
円偏光は、反射により回転方向が反転(反射反転)する性質を持っています。そのため、現在の有機円偏光発光デバイスでは、電極で反射した円偏光の回転方向は反転し、取り出す円偏光の回転方向と相殺してしまう点が課題となっています。近畿大学理工学部では、これまでの研究によって、光学不活性な分子を用いた場合でも、磁力を加えることにより、円偏光を発生させる新しい手法を開発しています。本研究では、外部磁場により円偏光を発生させる有機円偏光発光ダイオードについて、円偏光電界発光の発生メカニズムの解明を目指しました。

【本件の内容】
研究グループは、代表的な発光ダイオードの材料である、光学不活性な白金錯体を発光材料として用い、赤色有機発光ダイオードを開発しました。また、この有機発光ダイオードに対して外部から磁力を加えることによって、赤色の円偏光を発生させることに成功しました。さらに、このデバイスは、単一の発光体から右回転円偏光と左回転円偏光の両方を同時に発していることを明らかにし、単一の発光ダイオードから右回転円偏光と左回転円偏光の両方を同時に取り出すことに成功しました。
従来の有機円偏光発光デバイスでは、電極での円偏光の反射反転により光の回転度の低下が問題とされていましたが、本研究成果により、永久磁石による磁場下に有機発光ダイオードを設置するだけで、円偏光度の低下の抑制が期待できます。これにより、有機円偏光発光ダイオードの高度化など、新しい円偏光の応用技術の開発に繋がることが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌 :
Journal of Materials Chemistry C(インパクトファクター:6.4@2022)
論文名 :
Enhancement of circularly polarized electroluminescence via reflection reversal under a magnetic field
(磁場下での反射反転による円偏光エレクトロルミネッセンスの増強)
著者  :
鈴木聖香1、山本優太2、北原真穂1、志倉瑠太3、八木繁幸3、今井喜胤1,2*
*責任著者
所属  :
1 近畿大学大学院総合理工学研究科、2 近畿大学理工学部応用化学科、3 大阪公立大学大学院工学研究科
論文掲載:https://doi.org/10.1039/D4TC00048J
DOI  :10.1039/D4TC00048J

【本件の詳細】
白金錯体は、室温でりん光※4 を発して高い発光効率を示すことから、有機発光ダイオード用りん光材料として近年盛んに研究されています。
本研究では、光学不活性な白金錯体PtOEPを発光材料とする有機発光ダイオードを作製しました。また、それらの有機発光ダイオードに外部から磁力を加えながら光を発生させたところ、発光材料が光学不活性であるにもかかわらず、高効率に赤色の円偏光を発生させることに成功しました。陽極・陰極の両方に透明電極を用いることにより、単一の発光ダイオードから、発光層を起点として右回転円偏光と左回転円偏光の両方を同時に発していることを明らかにしました。この円偏光の発生メカニズムを利用すると、有機発光ダイオードに外部磁場を加えた場合、取り出す光の輝度を減少させることなく、円偏光度の増幅が期待できます。

【研究者のコメント】
今井喜胤(いまいよしたね)
所属  :近畿大学理工学部 応用化学科
職位  :教授
学位  :博士(工学)
コメント:磁場を用いる我々の円偏光発光の発生メカニズムを明らかにすることができました。単一デバイスから左右両円偏光を同時に取り出せることは非常に興味深い発見であり、このことにより、高付加価値を備えた円偏光発光ダイオードの開発が期待されます。

【研究支援】
本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B)(課題番号 JP23H02040)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「独創的原理に基づく革新的光科学技術の創成」(研究総括:河田聡)研究課題「円偏光発光材料の開発に向けた革新的基盤技術の創成」(研究代表者:赤木和夫)、JST A-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)、研究課題「磁場駆動MCP-OLEDおよびMCP-LECデバイスの開発」によって実施されました。

【用語解説】
※1 白金錯体:白金は白金族に分類される原子番号78の遷移元素であり、プラチナともよばれ、装飾品に多く利用されている。この白金と有機化合物が結合したものが白金錯体である。白金錯体は、抗がん剤として広く知られるほか、近年では有機発光ダイオード用発光材料としても注目されている。
※2 有機円偏光発光ダイオード:電圧をかけると有機物が発光する現象を有機EL(Electroluminescence)といい、この現象を利用したデバイスを有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode)という。この際、発光が円偏光であるデバイス有機円偏光発光ダイオードという。
※3 光学活性/光学不活性:物質が直線偏光の偏光面を回転させる性質(旋光性)があるとき、この物質は光学活性であるといい、偏光面を回転させる性質がないとき、この物質は光学不活性という。
※4 りん光:発光現象の一種で、一般的な発光(蛍光)より寿命が長い性質がある。そのため、暗闇で長く光っている夜光塗料として利用されることも多い。有機発光ダイオードに用いた場合、有機ELの発光効率の向上に寄与する。

【関連リンク】
理工学部 応用化学科 教授 今井喜胤(イマイヨシタネ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html

理工学部
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/


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