「錠剤の小型化を実現するコンパクタブ技術に関する新たな知見」について 学会発表
大正製薬株式会社[本社:東京都豊島区 社長:上原 茂](以下、当社)は、米持悦生教授(星薬科大学薬学部)との共同研究で得られた「錠剤の小型化を実現するコンパクタブ技術に関する新たな知見」について、日本薬剤学会第36年会(2021年5月開催)にて発表いたしましたのでお知らせいたします(題名:イブプロフェンの圧縮成形性の改善に有効な流動化剤の特性解析と選択基準の設定)。
当社OTC医薬品の多くは、医薬品有効成分を複数組み合わせることで優れた効き目を実現しております。なかでもイブプロフェンは優れた鎮痛効果を有し、様々な有効成分と組み合わせて解熱鎮痛薬「ナロンエースプレミアム」や総合感冒薬「パブロンエースPro」などに広く用いられています。しかし、イブプロフェンは1回服用量が比較的多く、低融点、難溶性、流動性が悪いなど物性に難があり、錠剤化が難しい医薬品有効成分です。
錠剤の中には医薬品有効成分の他に、錠剤の強度を確保する、体内での有効成分の放出を助ける等の様々な機能を付与するための賦形剤が添加されています。イブプロフェンのように物性に難がある医薬品有効成分を配合するためには多くの賦形剤が必要となり、錠剤が大きくなるため服用しにくくなってしまいます。
当社で実施した生活者調査※によると、解熱鎮痛薬に対して「錠剤のサイズが大きい」と不満に感じたことのある方の割合は41.8%でした。また、このうち89.0%の方が「錠剤が飲みづらい」と感じていることが分かりました。
優れた効き目と服用のしやすさを両立させるためには、医薬品有効成分の他に含まれる賦形剤の添加を最小限に留める必要があります。そこで我々はイブプロフェンをモデル成分として、医薬品有効成分が有する難点の解消に効果的な賦形剤を選定し、最小限の賦形剤添加で良好な錠剤物性を確保する「コンパクタブ技術」について研究を進めてまいりました。
※調査期間:2021年7月13日~18日
調査手法:インターネットでのアンケート調査
調査対象:20~60代の一般生活者 男女2,202名
<研究成果>
イブプロフェンの錠剤強度改善に効果的な流動化剤の特性について
イブプロフェンの錠剤設計において強度確保が課題となるため,このイブプロフェンをモデル成分として種々の賦形剤を1%添加し錠剤強度への影響を検討しました。その結果、賦形剤のなかでも特定の流動化剤において錠剤強度を改善できることを見出しました(図1)。効果が得られた流動化剤に共通する因子として粉体のかさ高さが挙げられ、かさ高さの指標である充填率が低いものほど1%というわずかな添加でも高い錠剤強度改善効果が得られることが明らかになりました。
図1.イブプロフェンの錠剤強度に影響する流動化剤の特性
流動化剤によるイブプロフェン錠剤の錠剤強度改善メカニズムについて
流動化剤により錠剤強度の改善効果に違いが生じた要因を解析した結果、かさ高い流動化剤ほどイブプロフェン粒子表面に平滑な流動化剤粒子層を形成することが確認されました(図2)。
図2.流動化剤のかさ高さとイブプロフェン粒子表面の被覆状態の違い
イブプロフェンに充填率g 0.05未満のかさ高い流動化剤を1%加えると平滑な流動化剤粒子層が形成され、イブプロフェンの流動性が改善されました。これにより錠剤製造時にイブプロフェン粒子同士がより密着し、高い摩擦力が発生するため錠剤の強度を確保しやすくなったと考えられます(図3)。
図3.流動化剤によるイブプロフェンの錠剤強度改善メカニズム
充填率g 0.05未満のかさ高い流動化剤を用いるとわずな添加量でイブプロフェンの錠剤強度を向上させることができるため、より少ない賦形剤で錠剤の強度確保が可能となります。また、本知見を応用すれば、イブプロフェン以外の物性に難がある医薬品有効成分においても錠剤を形成するための賦形剤の添加を最小限に抑え、錠剤の小型化が可能になると期待されます。
<本知見の活用及び今後の展望>
コンパクタブ技術は錠剤を形作る賦形剤を削減できるため、錠剤の小型化に活用できます。当社は今後も、コンパクタブ技術の最適な活用法について、さらなる研究を進めてまいります。そして研究で得られた知見を活かし、優れた効き目と服用しやすさを両立させた、健康を願う生活者のQOL向上に役立つOTC医薬品を開発してまいります。