導電性インク市場の評価
株式会社グローバル インフォメーションは、IDTechEx Ltd.が発行した報告書「Conductive Inks Markets 2012-2018 (導電性インク市場:2012-2018年)」の販売を開始しました。
導電性インクはシンプルで目立たない層ですが、2012年取引額は28.6億ドルにものぼると推定されます。IDTechExの新しいレポートConductive Ink Markets 2012-2018 (www.IDTechEx.com/inks)でも報告されているように、市場は2018年には33.6億ドル規模に拡大、うち7.35億ドルは新しい銀や銅のナノインクが占めると予想されています。
導電性インク:プリンテッドエレクトロニクスにおける成功物語
前出の数字から、これまでのところ、プリンタブル有機発光ダイオード、太陽電池、ディスプレイ等と比較しても、導電性インクはプリンテッドエレクトロニクス製品の中で最も成功している区分であると考えられます。その理由は、導電性インクはRFID、太陽電池、センサー、自動車、スマートパッケージング、フレキシブルディスプレイ、照明、タッチスクリーンなど、幅広い最終製品への応用が可能であるからです。この多種多様性は、電子デバイスには複数層の相互接続が必要である、という単純な事実の表れで、今やプリンテッド導電性インクは多くの従来型電子製品に使われています。
こうした需要サイドからのニーズの増加に伴い、それぞれ特色ある特異なインクが多々開発され、ターゲット市場も多様化してきました。ナノテクノロジーにおける技術革新もこのような高度な製品差別化を推し進めました。こんにちのマーケットには、グラフェン、カーボンナノチューブ、銀・銅のナノ構造(ナノ粒子・ナノワイヤー)インクなどがあり、それらはどれも一次元的、または二次元的にナノスケールです。次の表は各インクの属性と将来のターゲット市場を比較したものです。ここでは銀ベースと銅ベースの製品のみを取り上げました。レポート(www.IDTechEx.com/inks)には銀メッキの銅、グラフェン、カーボンナノチューブやPDOT:PSSも掲載されています。
ITO代替可能分野は多数
酸化インジウムスズ(ITO)代替ができるマーケットは幅広く多様で、タッチスクリーン、液晶スクリーン、有機発光ダイオード(OLED)、薄漠太陽電池などがあります。ITOは通常、スパッタリングで基板に成膜、必要に応じてサブトラクティブ法でパターン形成を行います。硬度の高い基板にアニール温度250℃以上で加工するとITOは優れた光学的特性を有し、シート抵抗10 ohm/sqr、光透過率85%超を実現できます。しかし、ITOをPETのようなフレキシブル基板に成膜しようとすると、適用可能なアニール温度に限界があるためパフォーマンスが下がります。
ITOの代替材料を求める動きは世界的に起こっています。これは、ITOのコストと長期的な供給確保に対する懸念から出たものです。特に供給に関しては2004年から2006年にかけて、キロ当たり200ドルから1000ドルへとインジウム取引価格が5倍に跳ね上がったことでますます深刻化しました。その後、メーカーが増産に動き、供給が需要を上回るようになったため、価格の問題は収束しました(むしろ、値下がり抑制のため中国政府は2008-09年に介入を行いました)。この出来事は、多くの代替材料の市場新規参入価格を押し下げる効果をもたらし、市場競争情勢を変えることとなりました。2006年には競争力のある価格と思えたマテリアルが、今やまた高値に見えるようになってしまったのです。
ITOは繰り返し屈曲したり丸めたりすることはできません。ひびが入ったり、抵抗値も何桁も高くなります。この性質はフレキシブルデバイスやロールタイプへの応用上マイナスであり、このことは同時にITO代替材料に参入機会をもたらします。しかしながら、フレキシブルデバイス実現を抑制している主要原因はITOではなく、バリアフィルム、明確な市場ニーズが存在しないこと、TFTバックプレーンといった要因です。潜在的ターゲット市場が現実のターゲット市場となるまでにはまだまだ何年もかかりそうなのです。さらに言えば、たいていのITO代替材料はフレキシブルなので、大きな差別化要因とはなりません。
我々の予想では、ITOはまだしばらく透明電極として普及し続けるでしょう。多様な大口サプライヤーが存在していることに加え、メーカーは製造工程において無駄になってしまっているITOを回収する自前施設も保有しています。設備投資等資本支出も大きく減価償却が進んでいます。代替材料の大量供給が確保されコスト上の優位がはっきりしない限り、ITOから他の代替材への移行はなかなか進まないでしょう。
銀フレークが圧倒的優位を維持
プリンテッド電導性インクの中では、スクリーン印刷可能な銀フレーク導電性インクが最も高いシェアを占めています。最大のマーケットはクリスタリンシリコン太陽電池(消費量年間1000トン以上)とメンブレンスイッチです。銀フレークインクは成熟した技術で、低価格であり、性能もたいていのニーズを満足するレベルです。このため、銀フレークインクにとって代わるものは出にくいと考えられます。
しかし、最近の開発状況からしますと、その他の導電性インクにとっての可能性が開けてきそうです。その一つが、コスト削減(ワット当り単価を下げる)のために超薄漠クリスタリンシリコン太陽電池を起用する動きです。しかしこの場合、スクリーン印刷でバスバーを装着するにはウェハーは薄く壊れやすいので、代わりにインクジェット印刷を使用する必要が出てきます。そうなると、今後スクリーン印刷技術の急速な改良が見られないとするなら、フレークはインクジェットプリンターのノズルには大きすぎるため、こうした動きはナノ粒子インクの参入機会を大きく広げることになります。壊れやすいものや変則的な形のものに印刷する必要が出てくれば、ナノ粒子インクにとっては市場開拓の機会となりましょう。
ナノインクはまた、自動車のインテリアデザイン、スマートパッケージングなど様々な新出応用技術にも使用できるでしょう。こういったマーケットはテクノロジー進歩がニーズ創出を先導する必要がある場合が多く、サプライヤー側がバリューチェーンを一歩進め、単なるインクやパーツといったものではなく、何らかの付加価値を付けたニーズのある製品を提供していかなくてはならないでしょう。
中期的には、生産規模が拡大し製造コストが押し下げられれば、ナノインクは銀フレークと価格的に競合できるようになるでしょう(電導度単位当り価格で比較して)。しかし、現在はまだ多くのサプライヤーは、規模を拡大してマーケットを刺激すべきか、市場ニーズが出てくるまで投資を控えるべきか、という「鶏か卵か」の問題に直面しています。スケールアップのための戦略的パートナーシップを構築できた者が勝つことでしょう。
市場調査レポート: 導電性インク市場:2012-2018年
Conductive Inks Markets 2012-2018
http://www.gii.co.jp/report/ix235628-conductive-inks-markets-2012-2018.html
出版日: 2012年06月
発行: IDTechEx Ltd.
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